聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第29話「さよなら…ミーノス!!エリスの最後の巻」
ノエルがこの双児宮において、エリーを置いていってから早くも数時間が経過していた。その間に、聖域の黄金12宮では目まぐるしい出来事が起こっていた。
まずは、今まで聖闘士と共に冥闘士と戦っていた風闘士が、アテナの尺丈をめぐって聖闘士に戦いを挑んできたこと。南風に始まり、東風、西風。そして、最後12宮の第11宮である宝瓶宮まで北風のノエルが風闘士としての最後の闘いを挑んできた。戦いは無事に聖闘士の勝利で終わる。冥闘士もそのほとんどが死に絶え、事実上の聖闘士の勝利としてよいだろう。
しかし、双児宮下において未だ解決せぬひとつの問題が残っていた。それは、ノエルの残した少女『エリー』だ。彼女は今さっきまで、エリスの短剣を携え、兄である軍神アレスに戦いを挑んでいたのだ。壮絶な闘いの後、エリスの永き眠りのために鈍った体がアレスの猛攻を防ぐことができなかった。
闘いはアレスの元に訪れたかに見えた。しかし、そこには冥闘士ともつかぬ一人の青年が立ちはだかった。
ミーノスであった。
「ハハハハ…。エリスはすでに死してそこに倒れている。貴様が今立ち上がったところでもはや後の祭り。エリーとかいう女の命ももはや分かったものではないぞ!!」
アレスはミーノスを目前にして、そういう。
「残念。私は聖闘士ではないが、諦めが悪くてね。貴様を倒してからじっくりとエリーの介抱をすることにするよ。」
その言葉を聞くとアレスは再びミーノスに諭すように答えた。
「フッ。もはやエリスとの戦闘は終了し、これより再びオリンポスに帰るところだ。エリスは死んだ。お前の言うエリーとかいう女ももはや死んでしまったのだ。」
そういうと、アレスは双児宮から降りようとする。しかし、ミーノスはすばやく行動した。エリスの倒れた瓦礫の中から、エリスによって握られた短剣を探し出す。そして、エリスの手と共に、その短剣を握り締めると、ミーノスはなんと自らの体に短剣を突きつけた。
ブシュッ!!
鈍い音と共に、辺りにミーノスの血が噴出する。それは、瓦礫の下の乙女にも届いたようであった。
「バ!バカな!!自らの体を突くとは!?」
アレスは驚きを隠すことができなかった。
しばらくすると、ミーノスは全身の血を失い、ばったりとその場に倒れてしまった。変わりに瓦礫の中から、エリスが蘇った。
「ぬぬぬ…。小賢しいまねを。自らの血によってエリスを蘇らせるとは!」
アレスはようやく仕留めることの出来たエリスが再び蘇ってしまったことに憤りを感じた。しかし、後悔してもしかたがない。人間が自ら争いの神エリスをよみがえらせようとは誰も考え付かないからだ。
「ホッホッホ…。さすがは、我が愛しいミーノス。自らの血をささげ、この私をよみがえらせようとは。」
エリスはそういう。しかし、アレスはその言葉を聞くとすぐに行動に移した。
「ならば再び地獄へと舞い戻してくれよう!!」
アレスはエリスに向け、再び究極の技を繰り出したのだ。
「アルティメット ストライク!!」
―――――冥界
「むぅぅ。みれば見るほど美しい乙女だ。これがアレスと双璧をなす争いの女神なのであろうか?」
ミーノスはエリスの壺の前にかかる肖像画を見、そう思わずつぶやいた。ミーノスが通い始めてから今日でおよそ1月にもなる。ミーノスの長き祈りによるものか、それとも実はすでにエリスの封印は解けかかっていたのかよくはわからない。しかし、その日エリスは不思議と、つぼの中から封印を解くことができたのだ。
「あ!?貴方は!?」
突然封印のつぼの中から現れた女神エリスは、壺の前にかかる絵と同じ少女であった。
「お前か!?何ゆえこの私に祈りをささげた。」
ミーノスは少女のあどけなさを残す美しい女神に一種の畏怖を感じてしまった。これが、あのエリスなのか!?しかし、その神々しさはやはり神のもの。ハデスを前にしたときと同じような小宇宙に圧倒されてしまう。
「エリーとは何者なのだ!?答えよ!!」
しかし、ミーノスは体が硬直してしまって動かない。エリスは以前、ここに通い詰めるミーノスの心に潜むエリーという少女を見た。そして、深く念じる。すると、その神であるエリスの肉体は意図も容易く北方の少女の居場所へと移動した。
オスロ。たしかにそこにはあの少女がいた。少女は家事の手伝いをしていたようだった。虚ろな瞳。ミーノスが死んでしまってから彼女はもぬけの殻のような日々を過ごしていた。小さい頃からしつけられていたため、家事くらいは容易くこなすが、やはりミーノス生前のころのような快活さはない。
その隙を見てその心に巣食う。
「エリーよ。その体を私にささげよ。」
エリスはそうエリーにささやいた。
「誰!?」
エリーは辺りを見回すが誰もいない。いや、どうやら心の中からテレパシーのようなもので伝えているようだった。
「さぁ。ささげるのだ!お前の大好きなあのミーノスにも会えるのだぞ。さあ、はやく!!」
エリーはその言葉を聞いて突然生き返ったように明るい笑顔を見せると、心の声にこたえる。
「ミーノスに!?本当にミーノスに会えるの!?」
エリーは賢い少女だ。普段であればそのような心の世迷言を信じるべくもないのだが、やはりミーノスが絡んでしまうと話は別であった。エリスはさらに自信を持ってエリーに答えた。
「ああ。もちろんだとも。ミーノスと会える。それどころかいつもお前のことを護ってくれることだろう。」
その言葉にエリーはすぐさま答えた。
「ミーノス!!ミーノスに会えるなら何でもします。いっそこの体をささげようとも。。。」
そういうと、エリーは両の手を胸の辺りを隠すように組むとエリスに祈った。エリスにとってみればこれは思う壺であった。
「では、この私に対してお前の体をささげるのです。そして行きましょう!私たちの世界へ。」
エリスがいうとそれに呼応するかのようにエリーは答えた。
「ささげましょう!ミーノスに会えるなら…」
「ではこれを授けましょう。いつの日か、いやおそらくすぐに私はお前を迎えに来るでしょう。そのときまで、さらば。」
そういうと、エリスはエリーに1本の短剣を持たせると、まばゆい光とともにいずこへと消え去った。あとには何も残らなかった。ただ、いつもどおりの光景がエリスの前に広がっていた。しかし、手にはしっかりとあの短剣が握られていた。
こうしてエリスは復活の体を手に入れる。
エリーはエリスの復活により、一時的に意識の中でミーノスの姿を思い描いた。エリーの記憶はここまでだった。
「ミーノスよ。よくぞ私に復活の体を与えてくれた!!」
ミーノスはただ呆然と立ち尽くすだけだったが、エリスはミーノスに褒美を与えた。ミーノスに近づくと、エリスはその唇を奪う。甘酸っぱい乙女のキスのような中にもどこか血のにおいのする不思議な感覚に包まれると、すぐにミーノスの唇からエリスの唇が離れた。
「これで、お前もこの私の僕。エリスの腹心として神にも勝る力を手に入れることができるはずじゃ。」
そして、今度は、エリスの手からまた別の、しかし先ほどのエリーの持った短剣と対を成す短剣をミーノスに与えた。
「これは我が兄弟の証。本来は兄であるアレスが我に屈服したときにのみ持たすことの出来る短剣。来るアレスとの聖戦に備え、第一の僕、ミーノス。お前にこれを持たせよう。」
エリスがそういってもミーノスはいまいち状況もつかず立ち尽くすばかりだったが、短剣をまじまじと眺めるほどの余裕もなく、すぐさま、また別の女性の声がした。
「ミーノスよ。ミーノスはどこへ行った!?」
パンドラだった。パンドラの気配がすると、エリスの周りには、ハデスのにおいが満ち、その場に居辛くなる。一時的に解けていた封印もどうやらまた復活してしまったようだ。
「どうやら、このたびの私の復活はこれまでのようだ。再びこの私が復活せしとき、必ずやお前の体は神のものとして復活するであろう。そしてエリーの体にこの私の魂が降り立つであろう。そのときまで・・・」
そういうと、エリスは再び封印の壺に戻った。
それからすぐに聖闘士との決着がつく。闘いは聖闘士の勝利で終わった。冥界3巨頭をはじめ多くの冥闘士がその冥界の墓場に葬られた。もちろん、ミーノスも。
しかし、ハデスが死すとすぐにエリスは復活した。筐体であるエリーはすぐにエリスの小宇宙によって冥界へと連れ出される。そして、多くの冥闘士がエリスを守る闘士として復活したのだ。ミーノスはその長として、エリスを守護し、来るアレスとの聖戦での露払いを担うであろう。
あとは現在繰り広げられた冥闘士と風闘士の戦いでよくわかることだろう。
「何度も、同じような技を!小賢しい!!」
そういうとエリスは、アレスの繰り出したアルティメット・ストライクに対して、再び最大の奥義を繰り出した。
「ディーペスト・ヘートレッド!!」
ディーペスト・ヘートレッドは、仕掛けられた技を発したものがその相手に対して持つ憎悪の深さを利用して技を跳ね返す技だ。エリスは争いの神。戦争というものが起こる小さな火種を利用し、その火種を増大させ、戦いへと変える。それは兄であるアレスが担うことになるのだ。
技はくすぶり、中空で隕石と強いアレスのエリスに対する憎悪がその隕石の衝撃を抑え、エリスを守る。アレスはエリスに対する憎悪を和らげようと試みたところで、それはアルティメット・ストライクの威力を和らげてしまう。どうにもならないこの状況で、アレスは憤りを感じると、そのエリスを倒さんとする強い想いをエリスに伝えてしまう。そして、
ド・ド・ド・ド…
今度はエリスの放った技が兄であるアレスの巨大な隕石を破裂させる。あたり一面にビッグバンにも匹敵する閃光と爆風が訪れる。
「くっ!!今度ばかりはこのわしの負けだ!!いったんオリンポスに退却する!そのときまで首を洗って待っておれ!!!」
捨て台詞を吐いてアレスはその閃光に身を隠すように撤退した。
激しい戦いの末、なんとか勝利を得たエリス。
「よくぞやった!!ミーノスよ。お前の自らの血を投げ出しての行為なくては、この勝利なかったであろう!!」
エリスはそういうとミーノスに近づく。
だが、ミーノスはエリスにもらった短剣をそのエリスに向けた。
「な、何を!何をする気じゃ!!ミーノス!!」
ミーノスはやつれる意識の中で、エリスに向かって答えた。
「残念だが、私は貴方を倒さねばならない。そして、その体の奥に眠る本来の持ち主の意識を取り戻さねばならぬのだ!!」
「何を!?」
エリスは、ミーノス自身に何が起こっているのかよくわからなかった。
しかし、エリスは冥界の神ではない。冥界で魂を管理するのは誰あろうあのハデスである。それは紛れもない事実。エリーの復活させた多くの冥闘士の魂も、実は不完全であった。それがミーノスの2度の復活に際して、本来のミーノスを取り戻してしまったのであった。
「神であるアレスは、この身、貴方にいただいた力をもってしても倒すことはできない。それはアレスと相反する貴方にしか出来ぬこと。」
エリスはじょじょに退きながらもそれに合わせるかのように近づいてくるミーノスの言葉を黙って聞き続けた。
「そして、意識を取り戻したこの私が望むことは、本来は遠い北欧で新しい生活を送らねばならぬはずの、、、」
そこでミーノスは短剣を構えると、エリスに向けた。
「エリス!!貴方のその魂をエリーに返すことなのだ!!」
とっさにエリスも短剣を構え、ミーノスと対峙した。そして、
ブシュッ!!
再び鈍い音がして、短剣がエリスの肩に刺さった。
「グッ!!バ、バカな!この私が人間の刃を受けるとは・・・」
本来であれば、肩に短剣の刃を受けた程度でエリスほどの女神が死するはずもない。しかし、それは、アレスとの長き闘いの後のことであるのだ。すでにその多くの小宇宙を消費し、再び永き眠りにつくべきなのだ。
「ミーノス!!貴様!!何たる不覚…。」
エリスは自分の計算が崩れ、ミーノスという男の罠にはめられたことに気づく。だが、もう遅い。エリスはその場にうずくまると程なくして意識を失う。
そして、短剣が一度赤く光ると、少女の手から離れてそこらに転がった。
「終わった…。」
ミーノスは自らの持っていたエリスのもう1本の短剣を転がった短剣と対を成すようにクロスさせてそこに寝かすと、冥衣の内側の懐から二つに千切れた紙切れを取り出す。自らの手から流れる血のいくらかをその紙切れの端と端に塗り、器用につなぎ合わせるとそれを短剣の交差する部分に貼り付けた。そこには、以前にハデスの行った封印の文字が描かれていた。
「本来の場所へ戻れ。争いの神エリス。そしてこの私のハデスの軍門に成り下がった罪をこの封印によってあがなおう。」
そういうと、ミーノスは倒れた。
アレスとの戦闘、そして2回の復活ですでにボロボロの肉体と課していたミーノスは全てを終えると、その場に倒れた。
それから少しして、エリー自身が目を覚ました。
「こ、、ここは…!?」
起き上がろうとする。だが、肩の傷が痛む。
「いたた…。」
それを我慢しながら、目の前に倒れる一人の青年を見て驚く。
「ミ、ミーノス!」
エリス封印!!
最後の聖戦に備え、聖闘士たちは!?
エピローグ
「人類の叡智を…!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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