聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第30話「エピローグ 人類の叡智を…!!の巻」
―――教皇の間
そこにはすでに教皇はいない。思えば新しい聖闘士の時代になってからというもの、教皇の存在は希薄であった。もちろん、従来どおりの本来の教皇としての仕事はサガの時代にあっても脈々と受け継がれてはいたわけだが、それがこの度のような度重なる戦闘が繰り返される時期にあっては、教皇がいない聖闘士たちは苦労の連続であったろう。
前回のハデス聖戦のときの実質的な統率は前教皇と同じ生き残りである老師が行っていた。だが、今回のこの聖戦では、前回聖戦で黄金聖闘士が全員死んでしまったため、聖闘士の統率を行うことの出来る黄金聖闘士がいない。その分の負担はすでに星矢たち早組みと今回の12宮における大惨事に遭遇せざるを得なかった遅組みとに分裂してしまったことでありありと分かってしまったのであろう。しかし、、、
漆黒の闇の中から足音が聞こえてくる。その男は教皇の書斎に向かうと、おもむろに過去の偉大な教皇たちの残した神託の書をあさり始めた。男はひとつの書を手に取ると、教皇の机の上にその書を運ぶと、小さな蝋燭を灯した。
男の影が蝋燭の灯りごしにほのかに移る。男は聖衣を着ていた。そして、それには頭から出る角のようなサークレットと、何かの鳥のような尾を持つようであった。
男は、書から何かを知ると、書を閉じてもとの本棚へ戻した。そして、蝋燭台を軽く振ると灯りを消して、書斎から立ち去った。
「魔鈴さん!」
春麗が魔鈴さんの突然の来訪に驚いた。
「さあ、ぐずぐずしている場合ではないよ、お前達!」
そういうと、魔鈴は12宮の最上段アテナの神殿の方を軽く見やると、春麗に介抱されていた聖闘士たちに言った。
「お前たちの師が今回の戦いの本当の意味を教えてくれえるはずだ。」
そういうと、魔鈴は足早に、巨蟹宮を立ち去ろうとした。
「待ってください。魔鈴さん。一体私たちは!?」
そういう春麗に対し、魔鈴は諭すように答えた。
「春麗。お前はこの場を離れ、早く五老峰へ帰るんだよ!!」
しかし、春麗は答えた。
「いやです。私もこの戦いについていきます。そして、必ず紫龍といっしょに五老峰に帰ります!!」
強い口調で魔鈴に答えた春麗だったが、魔鈴はそれに対して特に強く止めることもなく春麗に答えた。
「相変わらず、紫龍に対する愛は変わらないようだね?そうかい。じゃあ、ついてくるがいいさ。」
魔鈴はそういった。反対されると思っていた春麗は唐突に魔鈴がそのようなことを言うからしばし魔鈴の言った言葉について考えてしまったが、ようやくその言葉の意味に気がつくと、
「えっ!?魔鈴さんといっしょにどこに行くので?」
魔鈴はそれを聞かれるとあっさりと答えた。
「オリンポスの神殿さ。紫龍や星矢たちのいるね。」
春麗はそれを聞くと安心し、魔鈴のあとをついていくことにした。
「魔鈴さんとかいうんだっけか?俺たちはこの12宮の一番上のアテナの神殿に戻り、俺たちの師の指示を仰げば言いということか?」
それを聞くと魔鈴は黙って、うなずくと春麗と共に立ち去った。
「さあ、いくか!アテナの神殿へ!」
―――アテナの神殿
貴鬼とオデッセウスがアテナの神殿へとたどり着く。するとそこには意外な2人が待ち受けていた。
「一輝!!」
貴鬼はそう叫んだ。
「一輝!どこへいっていたんだ!!星矢たちは勝手にオリンポスに行ってしまうし、こっちではアレスやヘルメスの一派が来て大変だったというのに。」
突然の師の来訪にあわてて貴鬼を追い越し一輝に一礼するオデッセウスであったが、一輝はオデッセウスに向かって拳を振り上げると、オデッセウスの眼前でとめて叫んだ。
「貴様はアテナの聖闘士か?!」
オデッセウスは、事情がつかみきれずあたふたしたが、一輝はそれを見てさらに叫んだ。
「貴様に聖闘士の証を与えたのはこの俺だが、どうやら検討違いだったようだな。」
貴鬼は、その真意が未だつかめず、一輝に対して尋ねた。
「一輝!おいら達は、オデッセウスに言われたとおりこの12宮を守護するべく、務めた。それがアテナの聖闘士かと侮辱され、怒りを覚えないものはいないはず。一体何が、一輝をそうせきたてるのさ?」
貴鬼がそれをいうと、一輝は常に後ろにして見せなかった左手を前に突き出した。そこには、あのアテナの尺丈、つまりニケが握られていたのだ。
「これのことだ!!」
一輝の見せたニケを見て、貴鬼はさらに続けた。
「それをアレスやヘルメスたちはほしがっていたが、それには一体どんな意味が?」
一輝はそれを持ち、黙って小宇宙を燃焼させた。すると、一輝の体が黄金色に輝き、一輝の鳳凰座の聖衣がかつてハデスとの聖戦で戦った鳳凰座の神聖衣に変わった。
「!?」
貴鬼とオデッセウスはその異変にすぐさま気がついたが、一体、ニケと一輝の神聖衣に何に関係があるのかがつかめなかった。
「これは、、、」
一輝は、ニケを握りながら、答えた。
「人類の叡智。」
「人類の叡智!?」
貴鬼とオデッセウスは同時にそう繰り返した。
「アテナは、戦争の神。しかし、一方で絶え間なく続く攻防の中で産まれる人類の叡智を賞賛する『知恵の女神』でもあるのだ!!」
一輝はそう答える。そして、貴鬼もその真意に気づき、一輝に言った。
「つまり、ニケの力で、」
「そう、俺たちは前回の聖戦。いや、過去のすべての聖闘士たちの戦いで得た力を手にすることができるということだ。」
一輝の言葉でオデッセウスは、ニケの真意に気づけなかったこと、そして星矢たちをこの聖域にとどめられなかったことに後悔した。
しかし、そこまでオデッセウスがうなだれていると、一輝の隣に立つもう一人の意外な人物が一輝に声をかけた。
「一輝。もうそれでいいでしょう。聖闘士は十分に戦いました。あとはこのニケを持ち、オリンポスへ最後の戦いを仕掛ければよいということ。」
セイレーンの海闘士「ソレント」だった。
「チッ、まぁいい。」
一輝はソレントのその慰めともつく言葉に毒づく。
「とにもかくにも、それがあればオリンポスの神々にもかつことができるということ。早く、みんなを集めてオリンポスへ乗り込もう!」
貴鬼がそういう。しかし、その言葉をきくと一輝は、黙ってうつむくとそのままどこかへと立ち去ろうとした。
「一輝!どこへ!?」
それを聞くと一輝は立ち止まり、答えた。
「どこへ?俺たちの行く場所は決まっている。」
そこまでいうと一輝は振り返る。
「最後に言っておく。そのニケがあったとて。それでさえ、俺たちが12神を相手に勝てる見込みはこの宇宙において、わずか貴様らの体の原子ひとつ分の確率もないかも試練ということを肝に銘じておくことだ。」
それに対し、なんのかんので前回の聖戦の生き残りである貴鬼は答えた。
「わ、わかってるよ。今回の戦いが厳しいものになるということは。」
しかし、一輝はその言葉に対して、
「それが甘いというのだ。」
そして、また口を瞑ると、再び歩き出した。
「とにかく、オリンポスまで生きて来い!!それだけだ。」
一輝が立ち去って少しして、テレマコスたち一輝の弟子は、アテナの神殿に集合した。
「あれ?師はどこへ!?」
そういう、テレマコスだったが、オデッセウスは、
「俺たちに愛想をつかして先に言っちまったよ。」
「全くもう、聖闘士の団結にかけるのはああいう奴がいるからだよなぁ。」
と貴鬼はため息をついた。
「とにかく、急ぎましょう。」
ソレントはそういうと、アテナの神殿をたち去ろうとする。
「ソレントさん、貴方は、やはり。」
貴鬼にそう聞かれるとソレントは顔を暗くし、こたえた。
{残念ですが、ここを立ち去ってから後はあなた方の敵となるでしょう。再びセイレーンの海衣をまとって。}
そういって、立ち去った。
「まあ、いい。湿っぽくなっても仕方ない。見ればあの火時計の火も後わずかで双魚宮の火も消えてしまう。さあ、がんばって12神を倒そう!!」
オデッセウスがそういうと、12宮のおそらく最後の戦いを終えた聖闘士たちは拳を大きく手に向かって突き出し、おのおのの小宇宙を高め、決戦に備えた。
「ミーノス!!」
エリーはすぐ近くで倒れていたミーノスを痛みの耐えながらも抱えあげると、軽く体をゆする。
すると、ミーノスはわずかに目を開けた。
「エリー、、、エリーじゃないか?」
そうやさしく答える。
「よかった。意識を取り戻してくれたのか?」
息も絶え絶えに話すミーノスに対して、エリーはミーノスを抱き寄せるといった。
「待って、話してはダメ。今手当てをするから。」
しかし、ミーノスはエリーをとめる。
「無駄だ。もう、無理さ。この命は。元々ハデスに貰ったもの。そして、今回の復活もエリスによるものさ。もう、死んでいる。エリスの居ない今、いまこうして君と話せていることすら運のいいことなのさ。」
エリーはミーノスのその言葉の意味に気がつくとわずかに顔をしかめる。すぐにミーノスは続けた。
「俺は最後まで君を愛していた。それだけは伝えたかった。」
エリーは今までの出来事を思い返し、涙で顔をぐしょぐしょにした。
「分かっています。分かっています。」
そして、ただただひたすらにミーノスのその言葉にうなずくだけであった。
「でも、だからこそ、君にはこれから先もいつまでも幸せに生きていてほしいんだ。だから・・・。」
ミーノスがそこまでいうと、エリーは答えた。
「でも、ミーノスを忘れることなんてできない!!」
そう叫ぶ。
「いい。それでいい。忘れなくていい。いや、忘れてほしくはない。でも、君は今生きているんだ。人は過ちを犯すことはいくらでもある。でも君は生きているんだ!いくらでもやり直せるんだ。だから、僕の分まで、幸せに生き続けてほしい。」
その言葉を聞くとエリーは胸が熱くなった。ミーノスの言いたいことが、そして今回のこの出来事がこうしてミーノスの力によってなんとか防がれそして、今ここにある自分はミーノスの計らいあってのことだということに。
最後にミーノスは言った。
「エリー、ありがとう。君といられた日々は決して忘れない。…さよな…ら…。」
そういうと、ミーノスは静かに瞳を閉じた。もう、二度と開くことのないその瞳を。
エリーはだが泣かなかった。そして、キッと唇をかみ締めると、立ち上がった。
「エリーさん。」
後ろに、魔鈴と共にオリンポスへ向かう春麗の姿があった。
「私は、ミーノスのことが好きだった。」
エリーは春麗に対して答えた。
「えぇ。貴方は本当にミーノスのことを心から愛していました。」
「でも、今までは、いやミーノスが山で滑落して死んだあの日から私は間違っていたのです。気づかない振りをしていたのです。彼を愛することにかまけて。」
そういうと、エリーはミーノスの体を持ち上げようとした。しかし、肩に傷を持つ女性にそんなことできようはずがない。すぐさま、魔鈴がミーノスの体を支え起こした。
「ノルウェーに帰ります。そして、新しい人生を始めたいと思います。ミーノスのためにも。」
そういうと、エリーは聖域を後にする。
「春麗!わたしはノルウェーまでミーノスの体を持っていってやることにするよ。それまで、遅れるとみんなに伝えておいてくれ。」
魔鈴もミーノスの亡骸とエリーとともに歩き出す。
「さようなら。エリーさん。私もいつか貴方のように本当の愛に気づけますように。」
そういった。
すぐして、アテナの神殿から、ニケを手に入れて、意気揚々とする貴鬼やアルゴの聖闘士がやってきた。
「春麗ねぇちゃん!どうしたの!?」
貴鬼がいうと、春麗は笑顔を取り戻し、みんなに答えた。
「いいえ。なんでもありません。さぁ。行ってください。オリンポスの大神殿へ!!」
春麗がそういうと、任されたとばかりにオデッセウスが言った。
「そうさ。さあ、行こう!!みんなでオリンポスへ!!」
聖域の火時計はもう双魚宮の火も消えかかっていた。夜明けは近い。
それは何げない新月の夜のことだった。こうして、人類最後の決戦の前夜は終わろうとしていた。
ついに始まる!!
星矢たちに立ちはだかる神々は!?
第2部 神々の黄昏 編
「プロローグ 豪壮!!オリンポス神殿の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!