聖闘士 星矢
〜LAST CHAPTER The Olympus〜
第三話 射手座の黄金聖闘士!!の巻
ギリシア 聖域(サンクチュアリ)
「しっかし、人っ子一人いないざんすねぇ。」
聖域を一巡して、そのあまりの閑散さに、海蛇座(ヒドラ)の市が声をあげた。
「無理もない。前回のハーデスとの死闘で、ほとんどの聖闘士は死んでしまったし、実際、沙織お嬢様もアテナとしての役割を終え、一時休眠状態にあるのだからな。」
狼座(ウルフ)の那智は答えた。那智のいう通りで、アテナが戦うべき相手の神は、すべて再び休眠状態に入っているはずなのだ。冥界から舞い戻ってきたアテナたち聖闘士は、アテナによる一時解散例によって、各出身地、または修行地に戻っていったのだ。
「何もなければいいんだが。」と大熊座(ベアー)の檄。
「一応、聖域のアテナの御所まで確認をしておくぞ!沙織お嬢様に何かあれば、聖域の聖闘士はすぐに動かねばならないからな。」一角獣座(ユニコーン)の邪武がいう。
「念には念をというわけか。」と小獅子座(ライオネット)の蛮。
5人の青銅聖闘士は、若干の不安をいだきながら、アテナの御所まで向うことにした。
黄金12宮の入り口から走りつづける。ほどなくして、柱にエンタシスを持つ、まさに、ギリシアの神殿風の建物が視界に現れてくる。
「第一の宮、白羊宮か。」蛮がつぶやく。
「ここは、牡羊座(アリエス)のムウが守っていた宮。今は無人のはずだが。」那智が答える。全員、何かにおびえたかのように、立ち止まる。程なくして、
「おい、聖闘士なら怖気づいてとまっているわけにはいかないんだぜ!ほんとに誰もいないなら、さっさと通過してしまおう。」
邪武は言うと、いの一番に白羊宮に載りこんでいく。それを見ながら、那智が関心したように言った。
「邪武か、あいつ変わったな。」
「そうだな。やはり星矢たちに刺激され、一回り大きくなったということか。」檄が言う。
「立派なアテナの聖闘士になれるぜ。」
4人は、言うと白羊宮に向っていった。
白羊宮。
それは、黄道12宮の中で一年の最初を示す春分点を意味する。ここ聖域でも、それは変わらない。やはり、黄金12宮でも最初の宮である。白羊宮を守る聖闘士は、牡羊座(アリエス)の聖闘士である。以前は牡羊座のムウが守っていた。さらに、その前は前教皇である牡羊座のシオンが守っていた。白羊宮は黄金12宮の先頭に位置するため、古来、優秀、かつ統率力(リーダーシップ)に優れた聖闘士を輩出してきた。そのため、元教皇の中でも、牡羊座の聖闘士の比率は高い。シオンもその例外ではない。しかし、そんなエリート聖闘士を産んできた白羊宮も、前回の聖戦で前牡羊座のムウが、死んでしまったので、現在はもぬけの宮のはずである。
「やはり、誰もいないか。」邪武が言う。そのまま通過しようとする。
ゴンッ!何かに突っかかる。
「なんだこれは!!」
そこにあったものは、射手座(サジタリアス)の聖衣であった。しかし、それは見るも無残なもので、弓を支える左腕は落ち、サークレットも粉々に砕け、もはや元の形が認識できないほどだ。通常、聖衣は以前着ていた者の小宇宙を強く感じているため、誰も装着していなくてもその存在がわかるはずなのだ。
「しかしこれは……。」那智が射手座の聖衣のさまを見ながら言った。
「その存在にまったく気がつかなかった。」と蛮。
「この聖衣はまさしく…」と市がつぶやくと同時に5人は、後ろから、急速に接近してくる人の気配を感じた。
「そう!その聖衣は死んでいるのさ。」
ぼろぼろの衣類を身につけて、背に別のパンドラの箱を背負っているようだ。
「おまえは…。」5人はある種の恐れにも似た声で、その人物を出迎えた。
「天馬座(ペガサス)の星矢!!」
「邪武!それに那智、市、蛮に、檄もいる!!」星矢は答えた。
星矢はまるで、どこかに行脚にでもいったかのように汚れ、服のあちこちがほころんでいる。背中に背負っているのは、やはり、天馬座の聖衣のようだ。
「心配したぜ!星矢!!冥界から戻ってきたと思ったら、すぐにどこかにいなくなっちまうからさ。」邪武が懐かしそうにいう。しかし星矢はそれを跳ね除けるかのように言った。
「へっ!どおせ俺がいなくなってて、せいせいしてたんだろ!!」
「何を!下手に出てりゃいい気になりやがって。」
邪武は、星矢の思わぬ反応に腹を立て、右拳を前に構えて、ファイティングポーズをとった。
「ヘヘッ!望むところだぜ!」星矢もファイティングポーズを取る。慌てて那智が仲裁に入る。
「おい。おまえたちも20を過ぎたいい大人だろ。で、星矢、本当に何してたんだ?」
那智は、すばやく話しを元に戻し、星矢に聞き返した。
「ん〜?いや、冥界から帰ってくるとまた星華ねえさんがどこかにいなくなっちまってたんだ。各地を回ってみたが、相変わらず消息が分からない。しかたがないんで、星華ねえさんが前いたロドリゴスの村に言ってみたのさ。」
星矢は答える。
「で、どうだったんだ!?」那智が再度聞く。
「残念ながら、やっぱりいないんだ。第一もし見つけてたら、とっくに日本に連れかえっているはずだしな。」星矢は言うと、ため息をついた。
「そうか…。大変だったんだな。」那智が星矢の苦難をねぎらうように言った。
「ところで、邪武。聖域、何か変だと思わないか?ギリシアに来て、妙に胸騒ぎがするので思わず、聖域によってしまったんだ。」しばしの沈黙のあと、星矢が、改まったように聞く。
「俺もだ。沙織お嬢様がオリンポスで行われるミレニアムの祝賀会に参加するというので、ついてきたんだが。オリンポスといえば、12神。アテナも12神の一人だ。単なる偶然とは思えん。聖域も厳戒を張ったほうがよさそうだと思い始めている。」邪武は今までのことの次第を星矢に話す。
「そうか!やはり、ここは聖域に残っていたほうがよさそうだな。」星矢は白羊宮をぐるっと見まわしながら答えた。
「ところで、星矢!この射手座の聖衣は一体何なんだ?」那智が尋ねる。
「ああ、俺がここに持ってきたのさ。」星矢があっさりと答える。
「しかし、この白羊宮に聖衣を持ってきても、肝心の牡羊座の聖闘士がいないのでは、聖衣を修復しようにもしかたがないだろう。」蛮が疑問を抱く。
「なぁに。もう一人いただろ。ほら、あの……」星矢がニヤニヤしながら、その先を言おうとすると、またしても、新しい聖闘士の小宇宙を感じる。
「何だ?この絶対的な黄金のようなコスモは!?」邪武たち5人が言う。
「星矢!!もうアッペンデックスなんて言わせないぞ!おいらは、牡羊座の貴鬼!!聖衣の修復ならお手のものさ!!」まばゆいばかりの黄金聖衣をまとっている。しかし、まだ黄金聖闘士としてぎこちなさを残す、元牡羊座のムウの弟子「貴鬼」が目の前に現れた。
「よう!貴鬼。ジャミールを離れたって言うから、どこにいったのかと思えばこんなところにいたのか。」星矢がからかうように言う。
「何言ってんだよ。おいらはムウさまが倒れたときは、ムウさまの後を継ぎ、牡羊座の聖闘士として、白羊宮を、アテナを守るよう頼まれてるんだぜ!」貴鬼は自慢げに言った。
「で、この聖衣、直せるか?」星矢が射手座の聖衣を指して尋ねる。それを見て、また、馬鹿にされたことに腹を立てるかと思いきや、あっさりと降参をする。
「星矢。残念だけど無理だよ。この聖衣は星矢が言ったように、死んでいる。黄金聖闘士並の力を持つ聖闘士の血が必要だよ。」
「大丈夫だ。この射手座の聖衣の修復には、俺も手伝うよ。」星矢が言う。
「何!?星矢!おまえが!!」一同一斉に驚く。
「星矢!おまえ、射手座の聖闘士になったのか!」檄が驚く。
「いや、俺は天馬座の聖闘士。射手座の聖闘士になったわけじゃないぜ。」星矢が言う。
「では、何故!?」蛮が言う。
「前回の聖戦で、俺はポセイドンの力で、射手座の聖衣を借りてハーデスに挑んだ。しかし、その後天馬座と射手座の聖衣の破損とそれによる融合で、2つの聖衣は1つの神聖衣になったんだ。戦いが終ると二つの聖衣は元に戻ったが、破損がひどく、とても使い物にならない。まだ、アテナの戦いは終ったわけじゃない。そのままにしておくわけにはいかないんだ。おれも、射手座の聖衣をまとったんだ。俺の血で、きっとこの射手座の聖衣を元通りにして見せる。それに、貴鬼が牡羊座の聖闘士で、俺が射手座の聖闘士になれないのはしゃくだしな。」星矢は遠くを見つめるように言う。
それを聞いて、貴鬼は、急にニコニコして、答えた。
「よく言った!星矢。だてにハーデスを倒してきてないな。この聖衣の修復、僕に任せてよ。ガマニオンに、星の銀(スターサンド)、オリハルコン…」
貴鬼は楽しそうに、射手座の聖衣を修復し始めた。
「頼んだぜ。貴鬼。」
「ああ、ありったけの血を体中にめぐらせて待っててくれ。」
「ああ、任せて置け。」
二人は意気統合すると、早速聖衣の修復にあたった。
小一時間。貴鬼はもくもくと聖衣を修復していた。
程なくして、突然叫び出す。
「出来た!!射手座の聖衣の完成さ!このショルダー部分の滑らかなライン取りが以前よりも芸術的だろ!」貴鬼は鼻の下を掻きながら、答えた。
「おい!お前、この聖衣を直した前教皇のシオンよりも腕が上だと思っているのか?」
蛮が言った。
「そんなこといってないよ。大お師匠さまに対してそんなこと言うはずないだろ。ただ、よく直ってると言いたいだけさ。」貴鬼はばつが悪そうに答えた。
「ところで、星矢の様態は大丈夫か?」那智が心配する。
星矢は白羊宮のわきで、仰向けになって倒れている。体中真っ青になり、とても、動くことなどできそうにない。先ほどの射手座の聖衣の修復で、体の血の半分近くも射手座の聖衣に与えてしまったのだ。
普通の人間は、体の血の3分の1を失うと死んでしまう。聖闘士は、常人離れした強靭な肉体を持ってはいるが、体の半分の血を失えば、容態がおかしくなるのは無理のないことだ。
「大丈夫!紫龍なんて、星矢の聖衣を直すために、己の血のすべてを聖衣にささげたんだから。半分くらい対したことないって。」貴鬼が、星矢を励ますようにいった。
以前、星矢は倒れたままだが、星矢が何かをつぶやきはじめた。
「俺にかまわず、聖衣を…。聖衣を…直…す…んだ…」
「星矢…」一同、心配な面持ちで、星矢を見守った。
「星矢のためにも、俺たちの聖衣も今、直しておいてもらった方がいいんじゃないか?」
「これから、聖域に戒厳令を引くはずだ。そうしたら、いやでも、聖衣を纏わねばならんだろう。」と檄。
「その通りだ。貴鬼。頼めるか?」と邪武。
「お安いごようさ。直ったら、へんな奴が来ても、白羊宮に到達する前にやっつけちゃってよ。」
「任せとけ!」邪武たち5人は言って笑った。
気づくと、夜になっていた。
まだ、星矢たちはしらない。オリンポスで行われている祝賀会と、そして、
その後、聖闘士たちに与えられた試練を…。
星矢は生き帰るのか!?沙織が待ちうけるものは!?
感想どしどしお待ちしてます!