聖闘士 星矢
〜LAST CHAPTER The Olympus〜
第四話 女神ヘーラ!!の巻
「あなたは…
ジェミニのサガ!!」
沙織は、ミクロソフト社の会長と目される「ゼノン」という男を見て、驚きのあまり、思わず声をあげてしまった。ゼノンといわれているその男は、前聖戦でジェミニの聖闘士として戦ったあの「双子座(ジェミニ)のサガ」そっくりであったからだ。灰色の髪、すべてを見通すかのような、まっすぐな瞳。しかし、不思議なことが、いくつも存在する。まず、第一に、サガは黄金聖闘士だ。前回の聖戦において、黄金聖闘士は、嘆きの壁を空けるために命を散らせたのだから、生きているはずがないのである。であれば、サガの弟のカノンなのであろうか?それもまたおかしい。何故なら、カノンも、冥界の3巨頭の一人「ラダマンティス」と共に、命をなげうったからである。
では、一体何者なのだ?沙織は、あまりの事実に思わず、呆然とたちすくしてしまったが、そう言われた相手、ゼノンの一声によって、我に返った。
「ミス、サオリ。どうしたのですか?」
「サガ。なんでもありません。」
沙織は、またしても、おかしな発言をしてしまったことに気づく。自分の目の前にいる人物は、サガであるはずがないのだ。
「サガ?その方は一体何者なのです。先ほども、私を見て、サガと叫んでいたように聞こえましたが…」
ゼノンは、沙織の唐突な言動に少し戸惑いながらも、冷静に対処した。
「すみません。人違いでしたわ。
私は、グラード財団の統括「城戸 沙織」という者です。どうか、お見知りおきを…」
沙織も、即座に冷静さを取り戻して、ゼノンに答えた。ゼノンは、そんな沙織を見て、軽く微笑みながら、自分の席に向った。沙織も、叫んだついで、席からたちあがっていた自分に気づいて、あわてて座りなおした。
「まぁ、沙織さんったら。随分とストレートなのね。あの、ミクロソフト社のゼノン様にアプローチするなんて。」
「あらっ、それにしては、随分古臭くて、みえみえなアプローチではなくって!!」
沙織の取った行動に、隣に座るスピカとマドーネが、騒ぎ始める。二人は、沙織が意味深なセリフをゼノンに投げかけ、気を引こうとしたと考えたのだ。それも。無理もない。ゼノンは今を輝くPCソフト会社の会長なのだから。
「それでは、みなさん。これから、ミレニアムパーティーを開催したいと思います。」
ゼノンのわきに控えていた執事らしき男が、一二人全員に向って宣言した。
「それでは、まず。本パーティー主催であられますミクロソフト社会長のゼノン様に、本パーティーの趣旨をお話していただきたいと思います。」
執事が言うと、ゼノンは、その堅苦しい態度と言動に軽く手を上げ制止した。
「今回は、私の知り合いや、今をときめく一流の仕事をなさっている方々を集めてやっている簡易なパーティー。そこまで硬くする必要はありません。でも、まあいいでしょう。
それではこのパーティーの趣旨をお話いたします。
このパーティーは、ミレニアムパーティーと称されている。そして、集まっていただいた方々はここにおられるあなた方11人。これが、何を意味するかわかりますか!」
一同、冷静になって考える。ゼノンはさらに続ける。
「それは、こういうことです。計算機の急速な発展と、我々ミクロソフト社の開発したOSソフト”Doors”の普及により、いわゆるデスク上で行われていた仕事のような無機質でアタマを使わないような作業はすべてコンピュータにまかせることができるようになりました。私は、第3の産業革命、そして新しい時代の到来と考えています。このような、新世紀では、人々は一体どのような能力を必要としているのでしょうか?
それは、自らの頭!、体!を駆使し、その能力をフルに使いきることのできる優秀な人物であると考えるのです。今回お集まりいただいた方々はこれからの社会を担っていくに十分なそれらの能力を保持していると私が考えた方々ばかりです。」
ゼノンは右手を大きく広げ、再び演説をはじめた。
「私たちは、このような、発展した世の中で必要とされた、まさしく“神”に近い存在なのです!今後の世界を発展させるためには、ただ、のうのうと生きているような、堕落した人間では支えていくことはできない!我々がここでこうして会い、そして協力していけば、必ずや、世界は発展していくでしょう。今宵は、ミレニアムイヤーの祝賀会。新時代の幕開けにふさわしい。世界を支えていくみなさん、さあ、今日はめいいいっぱい楽しみましょう!」
ゼノンの長い演説はようやく終った。一同、ゼノンの頼もしい演説に感動し、狂喜しているものもいる。ゼノンは、悦にひたり、ゆっくりと腰を下ろそうとした。しかし、沙織はそのゼノンの言葉に一種の反感を感じ、おもわず、口をあけずに入られなかった。
「それは違うのではありませんか?」
沙織の突然の言葉に、一同騒然となる。
「ゼノンさん。あなたの会社はインターネットを使って、Eメールやホームページの管理も行っています。これらの技術であれば、たとえば、今まで、絶対話すことのできなかったような世界のさまざまな場所の人々と意見を交わすこともできますし、ホームページで自分の主張や、特技、趣味なんかも、公表することができます。いままで、一部の人しか実現させることのできなかったことの多くをあなたは実現させてきたのです。これからは、このような技術から生まれる個人の時代だと思います。一部の人間が世界を引っ張っていくなどとは、インターネットを経営するゼノンさん、あなたの意見とは、とても、考えられません。」
沙織はまたしても、席をたちあがり、ゼノンに向っていた。
「おお、これは恐ろしい。ミス.サオリ、そんなに激昂なさっては、美しい顔が台無しですよ。先ほどの私の発言ですが、けっして、一般の人々を馬鹿にしているのではありません。実際、今までではできないようなさまざまなジャンルの趣味を楽しみ、それを、いろいろな人々とすることができるようにもなりました。しかし、それは、あくまでも、個人の問題。実際の仕事としてやっているわけではないし、それらの人々が、便利に楽しむことができるように、していくのが私たちの役目なわけです。お分かりですか?」
ゼノンは諭すように言った。
「そうよ!どんなにそこらへんにいる小娘が、おしゃれをしたって、私のように洗練された美にかなうはずがないのよ。お分かり?沙織、あなた、ちょっとかわいいからっていい気になるんじゃなくってよ。」
マドーネがめちゃくちゃを言う。
「でも…それでも、私たちは特別な人物ではありません。」
沙織は、あたりの雰囲気を変えてしまったことに気づき、小さな声でつぶやくと、ことを大きくしないように、おとなしく座った。ゼノンは、場の雰囲気が戻ったのを察知すると、すぐに笑顔に戻り、宴の進行を始めた。
「まあ、とにかく、今日は楽しい宴の日。みなさんで楽しく飲み、そしてかたろうではありませんか。」
ゼノンが言うと一同、拍手をする。
ゼノンが執事に合図を送ると、控えていた給仕が、一二人のグラスにワインを注ぎ出す。
「今回、注いだワインは、ラカーィユさんから戴いた最高級のワイン“バッカス”です。」「今回のために特別にご用意いたしました。どうぞ、ご賞味ください。」
ラカーィユは言った。
ゼノンがグラスを軽く持ち上げると、他の11人も同様に前にかざした。
「それでは、2000年ミレニアムと、我々の発展と栄光に…」
「乾杯!!」
乾杯と同時にパーティーが始まった。
そして、楽しげな歓談の時間が訪れる。このときも、沙織は、他の男性参加者から、言い寄られた。しかし、沙織はことごとく、それらの誘いに対して断りつづけた。
「どうでしょう?私と1度二人でお食事でもしていただけないでしょうか?」
「残念ながら、今は他の男性と付き合うつもりはありません。」
沙織は、ラカーィユに対してきっぱりと言った。
「そうですか…私の誘いに応じてはくれませんか。」
「はい。」
沙織はやはり、明快に答える。ラカーィユは残念な気もしたが、その姿にある種の潔さを感じて、沙織に対してやはり、はっきりと答えた。
「あなたは、まるで永遠の処女“アテナ”のようだ!これからも、その愛をすべての人に分け与えてください。」
「お褒めに預かって光栄ですわ。」
二人は笑って別れた。
「全く相手にもしてもらえないわ!!」
「どうしたのよ。マドーネさん。」
マドーネが何やら、また癇癪を起こしているようなのだ。スピカがすかさず、なだめているようなのだが、一体何に怒っているのか?それは、どうやら、ゼノンのマドーネに対する対応のようなのだ。
「せっかくうまくいっていると思っていたのに、あそこにいるゼノン様と話している女に取られてしまったのよ。」
マドーネは状況をスピカに説明するように言った。
「何でも、今回の祝賀会に、庶民代表として呼ばれたらしいの。みすぼらしいったらありゃしない。」
「そうなんだぁ。」
スピカは、全く関係ないかのようにあっさり言う。それを聞いてマドーネは、スピカのあまりの関心のなさに呆れながら、答えた。
「あんたも、一端の食料貿易会社の社長なら、もう少し高望みしてもいいのではなくって。」
「そんなこといったって、あのゼノンさんなんて、普通だったら一般の人を呼ぶなんてなさそうなのに、呼んだんだから。初めから彼女が目的で呼んだのよ。だって、こういうパーティーって1対1だと恥ずかしいから、大人数でやるわけでしょ。そうに決まっているわ。」
スピカが現実的に答えると、マドーネは驚いた顔をして、答える。
「そうなの?そうだったわけ?それじゃ、私たち、あの二人のいい弾きたて役ってことになるじゃない?悔しいぃ〜!!」
マドーネは、近くで、一人きりになっていたラカーィユを引っ張ると、どこかへ行こうとした。
「マドーネさん!どこに行く気です!!」
「決まってるじゃない。私の部屋に行くのよ!」
あまりのマドーネの突然の行動に、ラカーィユは戸惑った。
「あんたも、あの沙織とかいう小娘にふられたんでしょ。降られたもん同士、仲良くしましょ。」
マドーネの豹変ぶりに驚いたスピカは、あわててマドーネを追いかけ、捕まえると、ラカーィユと力を会わせてパーティ会場に連れ戻した。
「ゼノンのバカ、バカ、バカ…」
マドーネはわめき散らした。
「どうです?_私の妻になっていただけないでしょうか?」
ゼノンは先ほどの庶民代表の娘に、強引なアピローチをかけていた。
「…。」
しかし、娘は全くの無言である。
ゼノンが彼女を連れてきたいきさつはこうだ。
ゼノンがこの12神のパーティの企画をして困ったことが発生した。それは、12神のうち、ゼウスの妻ヘーラの担当となる人物がいないことだ。ヘーラは良妻の神であり、その役はずばり、ゼウスから、求婚を受けたに等しいのである。そんな女性のいないゼノンはこまりながらも、目的の会場のあるギリシアを訪れ、このアテネの町を散策したのだ。そのとき、一介の片田舎に、この美しい女性を見つけたのだ。ゼノンは、すぐさま、女性の身元を調べると、この招待状を送りつけた。もちろん、女神ヘーラの役として。
「おかしい。今回のパーティーに出席したというのであれば、私の返事に答えてくれたも同然だというのに。」
ゼノンは、不可思議に思い、それとなく他の質問をしてみた。
「…。」
やはり答えない。しばらく、途方にくれていると、娘は突然、おかしな言葉を発し始めた。
「セ…イ…ヤ…。」
セイヤ?何だそれは。どうなっているんだ。ますます、訳のわからなくなるゼノンはこの娘の身の回りの調査をした部下を呼ぶことにした。
「ちっ、おれほどの男がたかが一般庶民の一人も口説けないとは…」
すぐに、調査し、この場に連れてきた男がゼノンの前に現れた。ゼノンは、男に詳しい事情を聞いて、何故この娘が全く話さないのか理解した。
娘は記憶喪失らしいのだ。これでは、確かにろくに会話もうまく通じないだろうし、状況にもうまくついていけないだろう。ゼノンは、自分の連れてきた娘の事情を呪った。
「ついてない。これでは、自分のものにするのに時間がかかるな。」
ゼノンは、娘を見ながら、しばし考える。ふと、我が家に伝わる「不思議なお香」のことを思い出す。それは、孤児であったゼノンの前に、怪しげな男がおいていったものだ。その男が言うには
「お前は2000年の時を超え、この不思議な箱を開くに等しい人物じゃ。お前が大きくなり、世界をまとめられるようになったと思ったとき、この箱を開けるのじゃ。そうすれば、すべての物、人どころか、神すらお前の前にひれ伏すであろう…」
ゼノンは、当然理系であるから、こんなもの信じるはずがない。しかし、今、その「香」を使って、この娘を自分のものにできるんだったら、安いものだった。
「よし、使ってやろうじゃないか。」
ゼノンは、心の中で言うと、黙って自室に戻った。
自室の机の上に、花瓶のような細長いつぼのようなものが置かれている。ゼノンは、壷を手に取ると、、顔の前まで上げてまじまじと見てみる。壷はなかなか美しいレリーフで飾られている。壷の口は何かゴムのような栓でふさがれており、その栓と壷との間には、
“Athena”と描かれた不思議な紙きれがついていた。
「まるで、何かの封印のようだな。面白い、あの11人の前で、これを見せてやるか。」
ゼノンは壷を持つとパーティー会場に戻ることにした。
謎のお香の効用とは?ヘーラは何者なのか!?
「第五話 12神復活!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています。