聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第33話「念動対銃器!!の巻」
「スターダスト レボリューション!!」
突然の不意打ちにエリクトニオスは防御する体制も整わず思わず後ろに退いた。
「ぐわっ!!」
貴鬼の先制かつ最大の攻撃はなんとかエリクトニオスに命中したようであった。
「見ろ!!牡羊座最大の奥義を体感した気分は?」
貴鬼は自慢げに言ったが、エリクトニオスは若干後ろに退いただけで特別大きな負傷は負っていなかった。それはあたかも小動物や虫や何かが突然姿を見せたのに驚き、身を翻したに過ぎぬものであったようだ。
「バ!バカな!!牡羊座最高の奥義スターダスト レボリューションを食らって無傷なはずがあるまい!?」
むしろ後ろに退かねばならなかったのは貴鬼であったようだ。
「残念だが、先ほどの技を受けてもこの身にはわずかな傷ものこりはせん。」
エリクトニオスは鎧の端に残るこげかすか何かを払いのけると、改めて戦闘をする構えを取り、貴鬼に向かって言った。
「そう勢い余って攻撃をせんでもよかろう。」
急に体制を変えたかと思うと猛スピードでエリクトニオスの後ろ手から長銃のようなものが現れた。そしてエリクトニオスが何をつぶやくでもなく、その手に持つ銃の先から激しい銃声が響くと貴鬼の体に向かって銃弾が放たれた。
「なっ、何っ!!」
貴鬼の体を銃弾が貫通する。
「黄金聖衣はこの世のすべての金属の中でも最高のはず。そうやすやすと銃弾ごときで貫通するはずは・・・。」
貴鬼は不安を隠せなかったが、黄金聖衣に穴が開いていることはもはやまぎれもない事実であった。そこで、立ち止まるわけにもいかない。貴鬼はそう思い起こし、再びエリクトニオスに向かう。しかし、エリクトニオスの攻撃はそれでは終わらないようであった。
「コズミック・ライフル!!」
エリクトニオスはまるでつぶやくかのようにそう言った。
「そう、君たちが技を叫び相手にしかけるような真似はしない。これは遊びではないんだよ。神と人間の最後の聖戦さ。本当に進化したのは人間なのか?」
そういわれながら、心臓にほど近いあたりに開いたライフルの穴から吹き出る血を手で押さえながら、貴鬼はエリクトニオスを見つめていた。
「人は進化する。そして、人間も多くのものを生み出してきたようだね。」
エリクトニオスはそういいながら、貴鬼に近づきそして大きく胸を張るとそのハードレザーのようなもので出来た鎧に手を当てて話し始めた。
「こいつは機衣(フレーム)っていうんだよ。こいつはコズミックファイバーっていう繊維でできている。ヘパイストス様が宇宙空間に広がる究極の物質ダークマターから加工し、それから出来たコズミックファイバーでこのような特殊な鎧に仕立て上げたのさ。」
エリクトニオスはさらに続けた。
「こいつは宇宙そのもの。つまりこの中には何もこのオレが修練を重ねなくても十分すぎるほどの多くの小宇宙が詰まっているのさ。」
エリクトニオスは右手に持っていた大きな銃を左手に持ちかえた。
「もっとも、このオレは元々は単なる人間だ。下界では予想通りだろうが、某国の陸軍で傭兵稼業をしていたよ。」
エリクトニオスはそういうとまた突然のように銃口を光らせた。
ズギュー・−・−・ン !!
と銃声が響き渡るとまたしても今度は、貴鬼の右足を銃弾が貫いた。
「もはや、動くことも諦めたか?そのほうが、いかな聖闘士といえどもこのコズミックライフルから放たれる銃弾を予測することも、ましてや交わすことなど不可能だ。」
今度はエリクトニオスがライフルを立てて、話し始める。
「クロノスの心!!」
貴鬼はその言葉を聞いて驚く。
「クロノスはゼウスの父にして時を支配する神。このライフルは時を支配する。ヘパイストス様の究極の兵器でもある。」
クロノスはゼウスが宇宙の全実権を握る以前に支配していた大神である。ゼウスはこの巨大無比な神を見事根源から倒した。しかし、ゼウスはその代わりに時の流れを失った。神は時の流れを感じることが出きぬのだ。全てを自らの胃袋に納め、なきものとしてしまうクロノスはまさに時間そのものをあらわしていた。かつてはクロノスのおかげで神も、そうゼウスも時の流れも見に感じながら、切磋琢磨し生活していた。
「ゼウスは大きなものを失った。それは時間だった。だが、ヘパイストス様は時間を捨てられたゼウスが気に入らない。」
そして再度ライフルを構える。
「そこで考えたのがこの銃さ。クロノスの心を持つ銃だ。」
今度は貴鬼の左足に銃弾が突き刺さる。
「もう君は歩けまい。銃弾は正確に足の腱を貫いている。」
エリクトニオスはさらに続けた。
「ヘパイストス様は12神だが、母であるヘラに嫌われ、実はオリンポスの中でも異端児なのだよ。」
エリクトニオスはさらに銃弾を貴鬼に与えると、ますます身動きの取れぬ状態にした。
「神は超越している。それは昔の話。神は進化しない。それは超越した存在として扱われてきたからだ。」
エリクトニオスは最後に、力強く言った。
「神も進化する。それは人間など及びもつかぬほどにな!!」
そう言うと最後の一発を貴鬼に向けた。
-----ヘパイストス神殿
「何!?このオレがお前に触れることもできないだって!!」
星矢はヘパイストスの言ったその言葉に怒りを顕にした。だが、ヘパイストスはその星矢の反応をまるで楽しむかのように微笑んで見つめると、ゆっくりと手のひらを上に向けた。すると、何かのワイングラスのようなものが彼の手のひらに現れた。
「これは別に魔術じゃない。ほしいと欲すればその欲する心と同じようにワイングラスが現れたに過ぎん。」
ヘパイストスはそういいながら、現れたばかりのそのグラスに口をつけ、その中にある神界の酒「ネクタル」を味わった。
星矢はその姿を見て、手のひらを上に向けると、その手に少しばかり力を入れた。どうやら、先ほどのワイングラスを出したかったようだ。
「そうか、わたしの言葉を真に受けたのかね?無理無理。君には無理。しかし私が望めばグラスは君の元にも現れるだろう。もう一度手のひらを上に向けてごらんよ。」
ヘパイストスに言われるまま再び星矢は手のひらを上に上げた。するとまるで星矢の手の動きに合わせるかのようにワイングラスが現れた。
「どうだい?これは私から君へのプレゼントだ。」
ヘパイストスはグラスを星矢の方に向けるさらに続けた。
「時間はまだある。ここで少しオリンポスの神について詩って言ったらどうだ?」
星矢はその言葉を聞くと我に返ったかのように、グラスのを地面に叩きつけると、ヘパイストスに向かっていった。
「ばかな!?時間は12時間しかない。しかもこの神闘衣を持たなかったばかりに1時間も無駄な時間を費やしてしまったんだ。」
そういうと、星矢はヘパイストスに向かって攻撃を仕掛けようとした。しかし、床に転がっていたワイングラスのガラスのかけらが星矢に向かって鋭い牙となって襲ってきた。普段はその程度のもので傷つくはずのない星矢であったが、唐突のそのガラスの破片の動きにまさかの切り傷を負ってしまった。
「言ったろう!!君はこの私に触れることはできん。」
星矢は、何かの力にとらわれているとそう感じた。諦めたように床に広がるガラスの破片を集めてヘパイストスに返そうとした。すると、グラスは自然と元に戻った。そして再びどこからともなく神酒が現れるとそのグラスを神酒で満たした。
「あと11時間、、、それもないな。」
ヘパイストスは言った。星矢は黙ってうなづいた。だが、ヘパイストスはその星矢の姿を見るや軽く笑った。
「死ぬな。」
突然、ヘパイストスはそう口にした。
「私が何かの力を使っていると、君はそう思うかもしれないが、私は何もしてはいない。たしかにこの部屋は私の施した特殊なしかけで動いてはいる。しかし、私は君に対して何もしていない。」
そういうと、再びグラスの神酒を飲むと、続けた。
「むしろ、私はいろいろなことに対して無防備だ。」
星矢はヘパイストスの言った言葉の意味が分からない。しかし、先ほどからヘパイストスに攻撃をしかけたとしてもまるで通じぬことは分かっている。どうしようもない。
「これが神の力か…。」
星矢は諦めたかのように言ったが、ヘパイストスはその言葉に待ったをかけるように言った。
「チッチッチ…。甘いな。それでも冥界の王ハデスを倒したほどの聖闘士なのかね?」
ヘパイストスは神でもないものかのようにさらに続けた。
「神とはそれほどに超越したものなのかね?」
星矢は何かに飲み込まれたかのように、そのヘパイストスに言葉を聞き続けた。
「かつて人間は、黄金の種族と呼ばれていた頃があった。その頃の人間は神と共存していたのだよ。」
星矢はその身に纏う聖衣を触る。いつの間にか天馬座の青銅聖衣に戻っていた。
「神はそれほど人間と変わりはしない。それが分からぬ限り君は12神はおろかこの私一人倒すことはできぬだろう。」
十年前---ジャミール
深夜。時間は何時ごろであろうか。満月だというのにその高度はすでにかなりのところまで昇っていた。もう日も変わっているのかもしれない。貴鬼とその師であるムウはやっと夕食を済ませたところであった。
「さあ、貴鬼!今日最後の講義です。急いで食器を片付けて机の上にテキストを広げなさい。」
そういうと、ムウは休むまもなく自分のテキストを念動で運ぶとまだ片付けの始まっていないその食卓の上に広げようとした。
「あぁ、待って!待ってよ。ムウ様!!」
慌てた貴鬼はムウと同じように念動でその食器たちを持ち上げると、洗い場へ運ぼうとした。しかし、
ガ・シャァァァァァ〜ン!!
皿の割れる大きな音が部屋中に響き渡った。
「また、割っちゃった!!」
さらに慌ててその破片に手を触れると予想通りというか、相変わらずおっちょこちょいにその指を切ってしまった。
「慌てて何でもやるからです。どうして念動を使わないのです。」
ムウはそういうと、念動を使って割れた破片を洗い場に隅へ追いやると、てきぱきと洗い物を済ませた。
「クロノスに飲みこまれてしまいましたね。貴鬼君。」
わざとらしくそういうと、ムウは黙って食卓の椅子に座り、テキストを広げた。
「クロノスに!?飲み込まれた!?」
貴鬼は何のことか分からず、指から流れる血をそのままに食卓に向かい大恩あるその師の話しを聞こうとした。
「ほらほら、だから慌てずともよいのですよ。まずはその血をとめなさい。聖闘士なら。」
ムウは、その貴鬼の愛らしい姿を見るとわずかに微笑みながらテキストを閉じた。
「仕方ありませんね。それでは、今日はゼウスの父『クロノス』についての話をすることにしましょう。」
ゼウスの父『クロノス』とは!?
星矢とヘパイストスが激しくぶつかり合う!!
「34話 激闘! 星矢VS鍛冶の神!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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