聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第34話「激闘! 星矢VS鍛冶の神!!の巻」
「えっ!?おいらがクロノスに飲み込まれているの?」
貴鬼は、ムウにそう聞き返した。
「そうです。クロノスに飲み込まれてしまいましたね。」
貴鬼は怪訝な顔をしてムウにさらに尋ねた。
「じゃあ、師匠はクロノスに飲み込まれていないの?」
ムウは貴鬼のその言葉を聞くと、今度は首を横に振った。
「いえいえ、いつも飲み込まれていないとはいえません。私でさえ飲み込まれることはあります。逆にいつもは君、貴鬼君も飲み込まれているわけではありませんよ。」
その言葉を聞いて、ますますわけのわからなくなった貴鬼の顔を見て、今度はムウは、時の神クロノスについて話し始めた。
「それでは種明かしをしましょうか?」
そういってムウは、突然貴鬼に拳を突きつけた。驚いた貴鬼はそれを防ごうとあわてた。
「ほら!慌てましたね?」
いつも拳を弟子に突きつけることなどないムウに少し驚いた貴鬼は慌てて冷静さを取り戻そうとした。しかし逆に椅子から転げ落ちそうになった。
「すべてがうまく運ばなくなる。そういうこともあるものです。そういうことすべてがクロノスに飲み込まれているというのですよ。」
ムウは椅子に座りなおすと、再び話を始めた。
「クロノスは時の神。そしてゼウスがこの世界を支配する前にこの世界を支配していた大いなる神なのです。」
貴鬼はムウの言葉を神妙に聞き始めた。
「ゼウスはこの神に勝った。そしてこの世界を支配した。これが何を意味するかわかりますか?」
貴鬼は考えたが、まるで答えが浮かばなかった。
「ゼウスは時の神を淘汰することで時間を捨てたのです。」
しかし、ここまできて、貴鬼は反論しようとした。時計を探したのだ。
「違いますね。時計を持っても時を支配したことにはならないのですよ。時とは自分でつかむもの。誰かから教えてもらっては、、、それは時に支配されていることにほかなりません。」
ムウはさらに続けた。
「ゼウスは時を捨てた。そしてそこから時間に支配されることを捨てた。彼はけして宇宙に逆らわなかった。そして、時間にも。そうすることで永遠の命と肉体を得たのです。」
貴鬼は愕然として聞いていた。貴鬼が呆けた顔をしていると、ムウは珍しく力の入った講義にわれを取り戻して、話を続けた。
「すみません。少し話が哲学的になりましたね。つまりですね。神はそのときから永遠の命を得たのです。逆に死んだと思われた時の神クロノスは海に溶けました。このとき世界に時間が満ちたのです。そう、世界は時間に支配されるようになったのです。つまり、この世界は時間によって動く、神以外は。」
貴鬼はそういわれて気づいた。
「そう、人は、生き物は死んでしまうのです。そして失敗も。そして、それを傍観できるのも、変えることも神にしかできなくなった。運命のはじまりですよ。」
ムウはそういって、テキストを手に取ると、再び最後の講義をはじめようとした。
「このときから人と神に違いが生まれたのです。」
ムウは最後に言った。
「とにかく、人は時間に支配されています。電車に乗り遅れるとか。今後のことを考えて失敗を犯すなどクロノスに支配されている象徴です。しかし、実はわれわれはその時間の支配から逃れる究極の方法を知っているのです。」
貴鬼は身を乗り出した。
「だから慌ててはいけません。私の師は前教皇さまであられた。であれば、この白羊宮を守る聖闘士が皆心穏やかで、決して急くものではないと知っているでしょう。」
ムウはテキストをパラパラとめくるとあるページを開いた。
{それを悟らねばこの闘法は身につかないでしょう。}
貴鬼はムウと同じページを開いた。そして見て驚いた、それは今まで黄金聖闘士しか使用したのを見たことがない究極の闘法が書かれていた。
「テレポーテーション!!」
ムウはそういった。
「今日最後の講義はテレポーテーションです。まだお前には早いかもしれませんが、もはや聖戦が近いづいている。また聖域に不穏な動きが見られるようになりました。私もおつおつとこのジャミールにいられなくなるでしょう。さあ、これが終われば貴鬼君!君は一応一人前の黄金聖闘士の称号を得られるでしょう。」
そういってムウの話を聞き始めた。
このときを最後に貴鬼はムウの修行を受けていない。よくよく考えれば、貴鬼は一人で多くを勉強させられてきた。わからなければ何時まででも起きていた。しかしムウは圧倒的な聖闘士としての力で貴鬼を助けた。そして最後には必ずこういった。
「シビアなようですが、結局自分を守ることができるのは自分。生きていくのも自分なのです。お前には一人で戦って行けるだけのすべてを教えるつもりでいます。そしてそれを忘れてはいけません。」
いつもその言葉を信じてやってきた。
その日も貴鬼はムウのすばらしい講義に気持ちよく眠ることができた。
そして目が覚める。体中が痛い。いくら藁の上とはいえこんなに石みたいに硬いものか?と見てみるとムウとは違う男が立っていた。
そして、自分の体は大きくて、黄金の聖衣をまとっていた。
そこはオリンポスの神殿だったのだ。
「ようやく目を覚ましたようだな?」
そこにいたのはエリクトニオスだった。貴鬼はエリクトニオスのコズミックライフルによって痛手を負って気を失っていたのだ。
「しかし大恩ある師ムウ。こんな窮地にまでこのおいらを助けてくれるとは・・・。」
貴鬼は独り言のようにそうつぶやいた。
「何だ!?何か言ったか?死ぬ間際のうわごとか!?」
エリクトニオスはそういったが、貴鬼はそういうと笑みを浮かべて再び眠りについた。
「どうやらもはや戦うことを諦めたようだな?」
そういうとエリクトニオスはライフルを片手に貴鬼に近づいていった。
そのとき!
ライフルに異変が起こった。ライフルが何かを捕らえたのか、突然のように貴鬼のほうに銃口を向けた。エリクトニオスfが気づいたとき、貴鬼はその場にいなかった。
「何を!?」
しかし、そのときはもう遅い。気づくと貴鬼はすでにエリクトニオスの歩いてきた方向の右側に立っていた。
「バっ!馬鹿な!!」
しかし、もうエリクトニオスには何が起こっているか考えているヒマはなかった。貴鬼は再びテレポーテーションを使って今度はエリクトニオスの背後に立った。
「この位置ではその長いライフルではもはや攻撃はできまい。」
貴鬼はそういうと、エリクイトニオスを羽交い絞めにした。
「エリクトニオス!!さあ、覚悟してもらおうか?」
しかしエリクトニオスはその貴鬼の行動に怯むことなく言い放った。
「フハハハ・・・。甘いな。貴様ら聖闘士がアテナのために命を懸けるなら、この俺も同じこと。もとより軍で失ったこの命だ。なくしても悔いはない。」
そういうとライフルの先端を何かでふさいだ。はじけた弾倉のようだった。
「大丈夫!これで君も私と同じように死ねるのだ!!」
言うが早いかライフルはエリクトニオスとともに弾けとんだ。それはまるでエリクトニオスの意思というよりはライフルが自ら弾けとんだように見えた。
巨大な爆風が辺りを包む。その光は遠く離れた氷河や紫龍の元にも届いていた。
「あれは、鍛冶の神ヘパイストス神殿の方からのもの。星矢たちに異変がなければよいが・・・。」
そういうと、紫龍は奥に潜む神殿に向かっていった。
その頃、エリクトニオスの爆死の音がもっともよく聞こえたであろうヘパイストスの神殿では星矢とヘパイストスが対峙していた。
「どうやら、エリクトニオスが自らのライフルで爆死をしたようですね。」
ヘパイストスは淡々といった。星矢はいらだっていた。どうもこの男は変だ。どうしてこうも平生を装っていられるのか?エリクトニオスが死んだということは仲間を失ったということ。それをどうして焦らずにいられるものか。
「君は今私の平然とした態度に驚いているのだろう。」
星矢は正直にうなずいた。
「君たちは冥界の神ハデスを打ち倒した。それほどの力があれば一介の機闘士であるエリクトニオスなどを倒すことが当然のようなもの。決して驚きはしない。」
「しかし、仲間の死に平然といられるとは・・・。」
ヘパイストスはその言葉をきくとまたしても舌打ちをした。
{私は決してエリクトニオスの死を軽んじているのではない。だがここで動揺しても何も始まりはしないのだよ。}
そういうと、ヘパイストスは椅子から立ち上がった。すると部屋の何かが動き始めたかと思うと突然のように燈台が星矢のほうに襲いかかってきた。突然のヘパイストスの攻撃に星矢はたまらず体制を崩した。その隙を狙うかのようにヘパイストス自身が攻撃をしかけた。
「クロノス・ギャップ!!」
大きな音とともに、空間がねじれるような不思議な感覚とともに、星矢の体は八つ裂きにされるかのような痛みに襲われた。あたりには異空間が漂う。まるでサガのアナザーディメンションか何かかけられたかのようだった。
しかし、目の前にはヘパイストスがいた。その動きは先ほどの神殿での様子と同じだった。同じように椅子に座りなおした。
「時の神殿にようこそ!!」
ヘパイストスはそういった。
「戦いは始まった。この神殿だけではない。この大いなる聖戦をきっかけにゼウスの培ってきたこの世界を我が物にせんと動き出せるときがきたのだ。」
ヘパイストスはそういうと星矢に向かって右手の平を向けて大きく突き出した。
「このクロノスの大いなる遺産と共にな!!」
ヘパイストスは大きく息を吸うとそれと同時に再び空間がねじれ始めた。
「カオティック・デスティネーション!!」
あたりは大きくねじれ始めると、失われていた時間が巻き戻されるかのように過去のオリンポスの光景は現実のように広がり始めた。
しかし、星矢はその光景をただ黙々と眺めているわけにはいかなかった。そして、この中で自分の攻撃に何の意味があるかもわからなかったが、そう叫ばずにはおれなかった。
「ペガサス流星拳!!」
そして再び戦いは始まった。
時を支配したヘパイストス!!
星矢の攻撃は通用するのか?!
「第35話 時の歯車!?の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!