聖闘士星矢
〜LAST CHAPTER The Olympus〜
第5話 12神復活!!の巻
宴が始まって、かれこれ小1時間が経過した。宴の開始と同時に、アトラクションの演奏のために控え室に移されたソレントは、やや退屈をし始めていた。楽友であり、今回のポセイドン役でもあるジュリアンの合図で、宴上で演奏する予定であるが、一行に連絡が来ない。
「ジュリアン様、まさか、演奏のことを忘れているのではないか?」
気になったソレントは、控え室から外に出ることにした。
控え室は、さきほど、沙織たちのいた2階待合室のちょうど下にある。だから1階の宴会場とは、廊下を挟んで存在する。ソレントは、控え室を出て、廊下を伝って、パーティー会場の正面の入り口に向った。そのとき、2階から人が降りてきた。右手に壷のようなものを持っている。ゼノンだった。ソレントは、2階から降りてきたこの男に軽く会釈をすると通りすぎるはずであったが、それができなかった。会釈のときゼノンの持つ壷に書かれた封印の紙切れを見てしまったからである。
「Athena!」ソレントは愕然とした。なぜ、こんなところにアテナの封印せしものが存在するのだ。これでは、これから、何か大変なことがおこると言っているようなものではないか。
「これは、ジュリアン様のご友人の方。私の服に何かついていますか。」
ソレントがあまりに壷をじっくりと見すぎたために、ゼノンに不信感を与えてしまったらしい。
「いえ、ゼノン様。何でもありません。ゼノン様のお召しになっているスーツがあまりに美しいので、つい…。」
「そうですか。ありがとうございます。それでは。演奏楽しみにしていますよ。」
そう言うと、ゼノンは会場に戻って行った。
これは、大変なことになった。先ほどの壷は間違いなく、アテナの封印した神の魂が入っているはずだ。アレスかバッカスか、それとも、ゼウスなのか?ソレントはこの以上事態にどのようにすればいいか、考えた。人目につかず、先ほどの壷を取り返す。しかし、ゼノンは会場に戻っていってしまって、それは出来なくなってしまった。かといって、先ほど、ここで強引に奪おうとしても、不審者としてつかまるのは間違いない。
「誰にも見つからず、しかもゼノンにも気づかれない…。」
しばらくして、ソレントは自分の持っている横笛のことを思いだした。
「…そうか…。」
ソレントはあることにひらめいた。そして、それは今このときしかないことにも、気づいている。
「海の魔女セイレーンよ。私はお前の力はもう使わないと心に誓った。しかし、今日この場だけ、もう一度、力を貸してくれ。地球の正義のために…。」
言うと、ソレントは、会場の正面の扉にたつ男に、ジュリアンを呼び出すよう言いつけた。
ジュリアンは、パーティー会場で、この12神に割り当てられている人々と話しをしていた。さまざまな分野のプロフェッショナルたちは、常人ではあまり考えていないような斬新な考え方の持ち主ばかりで、これからの新しい時代に自分らソログループがどのようにしていかなければいけないか真剣に考えてしまった。
「なんて神妙な顔をしているのですか?ジュリアン様。」
ジュリアンは、沙織に話しかけられて、我に返った。周りでは、12神を装う男女が楽しそうに会話している姿が見える。確かに、今回のパーティーは、そんな小難しいことを、考える場ではないようだ。
「失礼しました。折角のミレニアムパーティーに考え事などしてしまって…。」
ジュリアンは、余裕を取り戻して笑顔で沙織に接した。
「ところで、さきほど、パーティーで演奏を行うとソレントさんが言っていたように思えましたが、まだお聴きできないのでしょうか?」
ジュリアンは、やはりきたかといった感じで、沙織に言葉を返した。
「ああ、それですか。実は、そうなんです。しかし、肝心なゼノン様がどこかに、出られているようなので、戻り次第、演奏を始めようと思っていたところです。」
そうして、会場のドアを軽く目でめぐると、正面ドアから、変わった壷を持った、ゼノンが入ってきた。
「そろそろ、出番のようですね。」ジュリアンは、右手に持っていた。グラスを手近にある テーブルの上に置くと、沙織に別れを告げ、外の控え室に向おうとした。それと同時に、ソレントからの、向えの使者がやってきた。
「随分、遅かったでは、ありませんか?」
ソレントが言うと、ジュリアンは答えた。
「いや、ゼノンさんがどこかに出られていて、演奏するタイミングがなかなかなかったのさ。」
ソレントは、さきほど、ゼノンが2階にいって、あのアテナの封印せし壷を持ってきているのを知っている。事情を得た用意に再び、ジュリアンに、答えた。
「そうですか。分かりました。」
ソレントは、言うとおもむろに、先ほど練習していたのとは、全く違う曲を鞄からとりだした。そして、それをジュリアンに渡した。
「これは…、先ほどの楽譜とは全く違うように見えますが…。」
「いや、さきほどの曲は取りやめることにしましょう。今日はこの曲で行きます。」
ソレントは、きっぱりといった。
「しかし、しっかり練習を重ねた曲でなければ、人に聞かすことはできないとさっき、いっていたではないですか?第一、ソレント、あなた自身の楽譜がなくなってしまったではありませんか?」
「大丈夫です。ジュリアン様の演奏力なら、初見でも十分弾くことができます。それに、私は、この曲は完全に暗譜しているので、心配はありません。」
「そうですか?分かりました。やってみましょう。」
ジュリアンは、一応、納得したが、先ほどからのソレントが矛盾したことをいっているので、ちょっと心配になった。しかし、あまりそんなことも言っていられないので、演奏までのわずかな時間で楽譜に目を通すことにした。
ソレントは、ジュリアンが楽譜を見ている隙に、鞄から、いつもとは、違うフルートを取りだした。それは、黄金色というには、すこしばかり焦げたように、黄ばんだような色で、琥珀か何かのような色をしていた。ソレントは、覚悟を決める意味で、力強くその笛を握り直した。
「ソレント、それは、キミがずっと大事にしていて、もうふかないといっていた横笛だね。」
「ああ、今日は一世一代の記念イベント。これを、使わせてもらうよ。」
「そうか…。」
「では、会場にいこう。」
ソレントは言うと、会場に向った。
パーティー会場では、ゼノンによって再び中央のテーブルに集められていた。ゼノンは、余興としてジュリアンたちの演奏を期待していた。しかし、ジュリアンが遅いことと、自分の持っている壷をいち早く嗅ぎたいがために、もうひとつの余興として、このお香をみんなで嗅ぐことを考えたのだ。全員が席につくと、ゼノンは壷を高々と掲げ、みなの前で話し始めた。
「さあ、みなさん。私が手に持つこの壷には、世界最上の香料が入っています。そして、このお香の香りを嗅いだ者は、世界の頂点に立つことができるといわれているのです。今回のミレニアムパーティーにこそふさわしい。それでは、みなさん、この壷を開けますから、是非その香りをたんのうしてください。」
一同、その言葉を聞くと、ただ、黙ってその壷の封が切られるのを待っていた。ゼノンが封を開ける。すると、中からは白い煙のような、強烈な香気が溢れ出してきた。あっという間にあたりを香気が埋め尽くす。
「おぉ!!なんというすばらしい香りだ。この香りに包まれながらの演奏はさぞ、美しい音色なことでしょう。」
あちこちから、感嘆の声が沸きあがる。ゼノンは、みなの反応のよさに思わず、驚いてしまった。しかし、確かに美しい香りだが、これで一体何が起こるというのだ。何も起こらない。ゼノンは、この壷にいっぱい食わされたと落胆しかかっていた。そのときだった。彼の背骨に、雷のような電流が走ったかと思うと、何やら不思議な声が頭に響いてきた。
「…ノン…、ゼノン…、お前は世界を統べる王、そして、全ての神の頂点に立つ男。私の肉体としてもっともふさわしい…。」
ゼノンは、自分自身の誇大妄想もここまでくると病気だなと思い初めていたが、その声は一向に止まない。
「ゼノン!ゼノン!その肉体を我にささげるのだ!!」
「なんなんだ!!この声は!!」
頭を抱え、振りかぶると、そこには、ジュリアンとソレントが立っていた。ゼノンは、ようやく、我に返ると、ジュリアンたちに、演奏の要求をした。
「ゼノン様。何やら、気分が芳しくないようですね。ここは、私の演奏を聴いて、心を落ち着けてください。」
ソレントは、今さっき、この会場にジュリアンと共にやってきた。しかし、ソレントの目論見は、簡単に崩れ去り、ゼノンは、その封をあけていた。少し様子をうかがったたが、周りの容態がおかしい。あわててゼノンに声をかけると、ゼノンは我を取り返したのだ。
「一体私は何を…。」
ゼノンが言うとソレントは壷を指差し答えた。
「その壷の強烈な香気にやられたのです。私が曲を演奏し、すぐに心を落ち着かせますので、とにかくここは演奏をおききください。」
「分かった。」ゼノンは椅子に座ると、曲を聴き始めた。
美しいジュリアンのバイオリンの伴奏と、ソレントによるフルートの美しい旋律が流れ始める。会場の者がじょじょに意識を取り戻し始める。しかし、ここで、止めてしまってまた、元に戻ってはしかたがない。駄目押しに、全員をいったん眠らせることにした。
ソレントは意識を集中させ、海の魔女(セイレーン)に祈りをささげた。そして、叫ぶ。
「海の乙女よ、この場にいる全ての者に深き眠りを…
デッドエンド・シンフォニー!!!
美しき、海の魔女たちが、会場の者たちの頭の上で美しい歌声を披露する。それに取りつかれたものは、永遠の眠りに落ちるという…。ここでも、このソレントの技に無防備なものは、見事にその技にはまり、眠りに落ちていく。今回は、人を死なしてはいけないので、昏睡状態に陥るように、軽く技をかけるにとどめた。しかし、効果は絶大であったようだ。
会場がにわかに静まり返る。ソレントは横笛を下ろすと、ほっと胸をなでおろす。
「終った…。」
ソレントは、横に並ぶジュリアンを見つめる。やはり、さきほどのデッドエンド・クライシンフォニーが効いたようで、椅子に座り、バイオリンを抱えながら、首をたらしている。近づき、ジュリアンを寝室まで運ぶためにバイオリンを肩から外そうとする。しかし、バイオリンはしっかりとジュリアンにかかえられていた。
「おかしい、寝ているなら、簡単に取れるはずだが…。」
不思議に思っていると、ジュリアンの右手が動き、怪しげな曲を弾き始める。
「!」
ジュリアンは起きていた。しかも、それは正確には、ジュリアンは眠ったままで、本当に起きているのは、ポセイドンであった。ポセイドンは、怪しげな楽を奏でながらソレントに命令を始めた。
「セイレーン!!」
「はい」
完全に、ジュリアンはポセイドンに変わっていた。一体何事が起こっているのか皆目検討もつかない。
「セイレーン!なぜ、余がこのようなところに姿を現したか?そして、あのゼノンが持っていた壷がなんであるか聞きたいのであろう。」
ポセイドンはゆっくりとしゃべった。
ソレントは、さからってもしかたがないので、はいと答える。するとポセイドンはゆっくりと答え始める。
「セイレーンよ。あのゼノンの持ちし壷は、黄金の壷といって、世界が天変地異や、さまざまな人災によって、世界が危機にさらされたとき、一同にこの一二人の神を集める究極の壷なのだ。それは、神々が中心に世界が動いていたギリシアの「黄金の時代」にちなんでそう名づけられている。現在はもっとも下等な「鉄の時代」に位置する。いいかげんに、この下等な時代は終らせなければならない。神々に今一度、天下をもどし、「黄金の時代」にしなければならないのだ。」
「しかし…。」ソレントは、反論しようとするとポセイドンは答えた。
「セイレーン!お前はアテナに管下されてしまったのか!もはや、アテナたち、地上の人間が支配する時代ではない。」
ポセイドンは、ソレントを一瞥すると、目を閉じ、再びソレントに向って話しだした。
「少し、話しすぎたようだな。さて、セイレーンよ。お前のかけたその、デッドエンド・シンフォニー。まだ、覚醒の完全でないほかの12神は、見事にその技にかかってしまったが、余はポセイドンであるぞ。そのような技は、セイレーンを部下にして以来、遠の昔に見破っておるわ!さあ、12神にかかったその技を解くのだ。」
ソレントは、悔しくて仕方がなかった。そうなのだ。ポセイドンに自分の技をかけても通じるはずがない。これ以上抵抗しても、埒があかない。現在すでに、降臨しているアテナが12神とどこまで、抵抗してくれるかに賭けるしかない。
「結局また、星矢たちに賭けるしかないのか…」
ソレントは小さくつぶやくと、横笛を吹き始めた。
あたりに、美しい笛の音が響き渡る。眠っていたその他の12神も意識を取り戻し始めていた。しかし、それは、すでに本来のミレニアムパーティーの参加者ではなく、このオリンポスの会議のためにゼウスによって召集された真のオリンポス12神であった。
しだいに、会場に満ちていく12神の強大な小宇宙が、ソレントを圧倒した。しばらくして、非常に、攻撃的で突き刺さるような小宇宙を感じた。ソレントはあまりの恐ろしさに演奏を中断してしまった。出所はアレスであった。
「キミか…われら12神の覚醒を拒もうとしたものは。アテナの聖闘士か?」
ソレントは困惑したが、すぐにポセイドンの助け船が出た。
「これは、余の部下のセイレーンと申すマリーナ。アテナを眠らせるはずが、ちょっとした手違いで一同にかかってしまった。済まない。」
ポセイドンはふかぶかと頭を下げた。
「ポセイドン様に言われては仕方ありますまい。」
オリンポスの3大神の一人ポセイドンに言われては、アレスも頭が上がらない。この場は引き下がってくれたようだ。
12神全員が起きる。最後に目を覚ましたのは、アテナである沙織であった。沙織が目を覚ますと、そこには、威厳に満ちた顔のオリンポスの12神がいた。
「こ…、これは一体…?」
沙織は、会場の突然の変化についていけなかった。なぜ、突然、オリンポスの12神が覚醒しているのだ。困惑していると、その主であり、アテナの父とされるゼノンの風貌のゼウスが話しを始めた。
「親愛なる吾が娘、アテナよ。今回は、新しき時代の到来に対して、お前が地上とそして人間を我ら12神に再び返さぬかとどうかという会議をするために、一同に召集したのだ。今年は、天の海王星と冥王星のクロスし、新しい時代に変わってからの始めての年。それは鉄の時代から、新たな時代への変革のときなのだぞ。まさか、忘れたのではあるまいな。」
沙織は、ゼウスの話しを聞いて、驚いた。昨年7月、海王星と冥王星がクロスし、再びもとの順番に戻ったという話は聞いたことがあるが、これが新しい時代の始まりであったというのか?
「いえ、事情がよくつかめません。」
「そうであろう。そこまで、人間界で神位を失ってしまってはな・・
教えてやろう。世界の時代区分は惑星の公転周期で決めている。とくに、外側の3つはオリンポスの3大神が管轄しておる。しかし、これらの惑星のうち、海王星と冥王星は公転軌道のずれから、しばしばクロスするのだ。これらのクロスが起こる度に、新しい時代に変えていくと、神話の時代約束したはずであるぞ。そのたびに、アテナ、お前は神々に逆らい、人間の肩を持ってきたのだ。数百年に1度、アテナといずれかの神の戦争が起こるのはそのためだ。」
アテナは驚いた。しかし、神話の時代からの約束であるなら、ここは話し合わなければいけないだろう。
「分かりました。12神で話し合いをしましょう。」
「よかろう。」
ゼウスは、言うと、席につき、一同に向って叫ぶ。
「これより、12神会議を始める!!」
復活してしまった12神。神々に対し、アテナはどう対応する?そして星矢たちは!?
第六話 「神々の審判!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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