聖闘士 星矢
〜LAST CHAPTER The Olympus〜
第6話 神々の審判!!の巻
「では、我々の願いは聞き入れぬ…そういうことだな?」
ゼウスは、アテナに向って不満げに尋ねた。
「はい。一度人間に地上をあけわたした以上、我々が再び地上を支配するなどあまりにも理不尽ではありませんか?」
アテナは、ゼウスに答えた。
ことの成り行きはこうだ。ゼウスの肉体であるミクロソフト社のゼノンは、かつて自分が手に入れたお香の壷を、開け放った。それによって完全に復活してしまった一二人のオリンポスの神々は、このゼノンの邸で、人間に対する神々の審判を下すため、会議を始めたのだ。神々は、1999年、7の月を新しい時代の到来であるとし、再び神に地上を明渡すべきであると主張しはじめた。対するアテナ一人は、地上は人間に守らせるべきであると反論した。ゼウスを中心とする神々は、強くアテナを説得しているが、しかし、アテナはいつまでたっても他の神の意見に賛同することはなかった。
「うむ。急に我々神が、地上を支配するのは、あまりにもおかしい。しかし、現在の地上の腐敗しきった様をみれば、誰しも人間に任せておこうなどと考えはせぬぞ。」
ゼウスは諭すように、アテナに忠告する。
「そう、このような様を見て、人間に味方するアンタはクレージーだぜ。」
丁度、アテナの正面右に座っていた軍神アレスの男が言う。まるで、冷やかしのようだ。
「そうです。頭が狂っているかもしれません。しかし、人間には、人間の良さもあります。」
少しづつではありますが、人間も地上の腐敗には気づき始めています。今一度、私たち、人間にチャンスをお与えになってくださいませんか?」
アテナはまるで懇願するようにゼウスに言った。
ゼウスはしばし考えると、再びアテナに向って答える。
「アテナよ。やはり答えは否、だ。我々は、人間の時代、すなわち鉄の時代を1999年の7の月で最後とすると決めたのだ。いまさら、それを代えるわけにはいかん。」
ゼウスの答えにアテナはすぐに問い返す。
「その決め事は我々、神が勝手に決めたこと。人間にも、その選択権を与えるべきです。」
「それは、違うぞ。アテナ。お前は間違っている。これは神の決まり。つまり、自然現象と同じモノだ。人間にその選択権など、あろうはずもない。それとも、アテナ、お前は人間が我々神に勝っているとでもいうのではあるまいな。」
一同、どっと笑いが起こる。ある種呆れのようなものすら感じられる。神が人間に勝てるなど、あろうはずがない。
「わかりました。人間に選択権がないなら、それを作ればよいというもの。私はあくまでもあなた方に挑戦いたします。そして、人間の世を作ってみせます。」
一同、再びざわめく。まさか神に人間が挑戦しようなどとは考えないはずだからだ。
「あくまでも、我々に反抗するつもりか…」
ゼウスはしばし、考え込むと再びアテナに答える。
「そこまで、言うのならおまえの挑戦を受けよう。但し、アテナ、お前も我々神として扱うぞ。今回の人間の挑戦は、アテナ、お前の協力なしにやってみせるのだ。」
「分かりました。ではその戦い、どこで執り行いましょう?」
アテナは自信ありげに言う。それに対し、ゼウスは冷静に然るべき判断を下す。
「オリンポス神殿で行う。闘技方法は人間の己自身の力だけを使うよう、素手の闘技で行う。神々の側は、一二人でひとつの世界を形成しているものだ。
各神殿にそれぞれの神を配置する。全員と戦い、十分な力がなければ、そこで人間側 の負けとする。期日は、明後日からとしよう。よいな!」
「分かりました。それでは、私は聖闘士たちを集めて参ります。」
アテナが言うと、会議は終った。
神々の審判は下った!
それは、最後に一度だけ人間にチャンスを与える。但し、一二人の神々に勝てなければ、地上は再び神々の世になるということだ。
――ギリシア 聖域(サンクチュアリ)
「しかし、沙織さんはいつまでたっても戻ってこないなあ。」
と、星矢が言う。星矢はさきほど白羊宮であったばかりの邪武と貴鬼とともに、一二宮を登っていたのだ。
「それは、しかたがないさ。なんていったって世界の大富豪たちがお見合い相手とくれば、たとえ沙織さんといえども、考えるはずさ。おいらたちみたいな貧乏人とは天と地の差だよ。」
「こいつっ!!言いやがって!!」
貴鬼の言葉に、腹を立てて拳を振り上げた邪武だったが、すぐに拳をおろす。
「そう。おれたちとアテナじゃ天と地の差。しかし、俺はいつまでも、沙織お嬢様をおしたいしつづけるぞ。」
そう一人、世界に入る邪武を見て、
「やってろよ!」
と、星矢たちは言った。
気がつくと、目の前には、宝瓶宮があった。かつて、アクエリアスの聖闘士カミュが守っていた宮だ。カミュはやはり、前回のハーデスとの聖戦で、嘆きの壁を壊すために、その身を散らせている。現在は無人の宮のはずだ。
「ここは、現在は無人の宮のはず、とっとと通過してしまおう!」
邪武は言うと、駆け足で宝瓶宮の中に入ろうとする。
「邪武!待って!中に誰かいる。」
急に、氷気のようなものが立ちこめると、邪武の頭部めがけて氷柱が飛んできた。
貴鬼は慌てて自分のテレキネシスで、邪武を引き戻す。間一髪のところで、邪武は氷柱にあたらずに済んだ。
「貴鬼!ありがとう。」
邪武は、貴鬼と星矢のいるもとまで下がると、貴鬼に礼を言う。
以前宝瓶宮には、冷気が立ちこめる。それどころか、まわりの者を一切よせつけない強烈な冷気へと変わっていった。
「なぜだ?おれたち聖闘士になぜ、牙を向けようとする者がいるんだ!」
邪武は恐れ戦きながら、言う。
しかし、星矢は、冷気をものともしないで、宝瓶宮に向って行った。
「こんな、芸当ができる奴は世の中に一人しかいないさ。」
星矢は、宝瓶宮の入り口に一人立つと、まっすぐ中に向って大声で叫んだ。
「氷河!聞こえるか!?星矢だ!」
すると、急にあたりが静まったかと思うと、宝瓶宮の奥のほうから、一人の少年が現れた。
「!?」
驚く星矢たち、そこには、星矢たちの見たことのない金髪の少年がやってきた。
「君たちが、有名な星矢さんたちか。氷河の兄貴から聞いているよ。さあ、通って!」
少年は、素直に道を譲った。
「君は、誰なんだ?この宝瓶宮の聖闘士なのか?」
邪武は少年に尋ねた。
「えっ!?僕? 僕はアクエリアスの聖闘士じゃないよ。アクエリアスの聖闘士なら、前回の聖戦で死んでしまったろ?ここは、氷河の兄貴から、守っておけって、そう言われたんだ。いづれこのアクエリアスの聖闘士になるだろうからって…」
「むぅぅ…しかし、なんという冷気。これなら、確かにアクエリアスの聖闘士も勤まるというもの。で、君はなんて言う名前なんだい?」
邪武は、改めて名前を聞く。
「そういえば、すっかり忘れてたね。
僕の名前はヤコフっていうんだ。よろしくね。」
少年、ヤコフは自己紹介をした。
「で、一体、どの星座の聖闘士なんだい?」
貴鬼は突然の同じような年齢の聖闘士の存在に興味を示した。
「えっと…」
ヤコフが説明に困っていると、後ろから再び、恐ろしい凍気を持った男が現れた。
「ヤコフには、まだ聖闘士の資格がない。なぜなら、彼が聖闘士の闘法を学んだのは、最後の聖戦の後だからだ。」
「氷河!!」
星矢たちは、突然訪れた仲間に驚いた。ヤコフの後ろからは、あの氷河が現れたからだ。
「脅かしてすまない。悪気があってここをヤコフに守らせていたわけではないんだ。」
氷河は、ヤコフに小さなコップのようなものを渡すと、後方の双魚宮の方を指差した。
「ヤコフ!おまえはこれを持ってアテナの間で待つのだ。」
「うん。分かった!」
ヤコフはそういうと、奥へと走り去っていった。
氷河は再び、星矢たちの方を見ると、ことの成り行きを話し出した。
「前回の聖戦が終って、俺はシベリアに戻り、ヤコフといっしょに暮らすことに決めたのさ。」
氷河の頭の中に、かつてのシベリアの情景が映り出す。
「俺は、聖衣を永久凍土の奥深くに沈めた。マーマに2度と会わないと約束をしたように、俺も師カミュとそして多くの聖闘士の思い出と共に…。俺は、ヤコフとともに、漁をして生活していこうと決めた。漁は順調だった。近くに日本があることもあって、売れ行きの方も順調だった。しかし…」
そこで、氷河は一度話すのを止める。
「…しかし…一体何があったというのだ!?」
氷河は、星矢たちに向って正帯すると、目を閉じて、小宇宙を高め始めた。するとどこからか、白鳥の聖衣が現れ氷河の体を覆っていった。
「それは…白鳥座(キグナス)の聖衣!!」
「そう!昨年の夏…丁度7月くらいだった。俺はヤコフとの漁の最中、奇妙な事件に出くわした。真夏で流氷はずっと北に後退しているはずで、普段は間違えてもそんな奥に入ることはないのだが、その日に限ってその流氷にまきこまれたのだ。船が座礁しかかる。」
――東シベリア
「氷河!なんでこんな時期に流氷があるんだよ。」
「うむ。おかしいな。今は夏だ。それに冬だってこんな大きな流氷がこの付近を覆うことは、稀なはずだが…」
グラッ!!突然、船が大きな氷塊のように物に当たったかと思うと漁船の底に穴が開いてしまった。みるみるうちに漁船は海に沈み始める。
「氷河!!どうしよう。」
ヤコフは困惑している。たとえ、夏であったとしても、シベリアの海に生身の人間が落ちて助かるはずはない。
「うわぁぁ〜!」
ヤコフが海に落ちる。氷河が慌ててかろうじて海面の上に残る船の上にヤコフを寝せるが、もはや間に合わない。
「もうだめか…。そう思ったとき、船を座礁させた氷塊から、クリスタルのように輝く2つのパンドラの箱を見つけたのだ。」
氷河は、パンドラの箱を自らの拳で氷塊から取り出す。そこには、瓶のような模様の描かれていた。
「もうひとつは、わが聖衣白鳥座(キグナス)!!この1つの聖衣は一体!?」
氷河の近くには、もはや、体温の下がり始めたヤコフがいた。
「なるほど。いずれにしても、聖衣を纏わせれば、あるいはヤコフも助かるかもしれん。」
氷河は、ヤコフにその瓶のような模様のついた聖衣を着せる。不思議なほどぴったりであった。しかし、その聖衣には、ヘルメットの一部が破損していた。
氷河は不思議に思ったが、今はとにかく海中からでることが先決であるので、気を失うヤコフを担いで、陸に向って泳いだ。
「俺は考えた。これは、何かの暗示ではないかと…。結局、その一件で、ヤコフは聖闘士としての道を歩むことを俺に誓ってくれた。ヤコフはかつて、師カミュとも仲が良かったからか、それとも才能があったのか、わずか半年で、黄金聖闘士に匹敵するほどの力を得た。だが、教皇もおらず、アテナの心もお眠りになった今、聖闘士の資格を与えることの出きる者はいない。そこで、俺は、師カミュの守護宮であるこの宝瓶宮を護り、近く来るであろう最後の決戦を待つように命じたのだ。」
氷河は、宝瓶宮を見まわし、かつての光景を頭に描く。
「そうだったのか?やはり、シベリアでも異変があったのか。」
氷河はその言葉にすぐに応じると、
「星矢たちの方でも、異変があったのか!?」
「いや、異変というほどのものではないんだけどな。」
星矢が言うと、割り込むように貴鬼が言いはじめる。
「城戸の沙織お嬢様が、なんだかオリンポス山のゼノンだかいう男のところに、ミレニアムパーティーに行ってしまったんだよ。」
「オリンポス山?」
氷河が顔をしかめる。
「心配しなくていい。単なる金持ちの道楽のはずさ。」
星矢が氷河に取り繕う。
「取り越し苦労でなければ良いが…」
「大変ざんす!」
市が慌てて、星矢たちの元にやってくる。
「城戸のお嬢様が、いやアテナが黄金の杓を持って、聖域に戻ってきたざんす!」
「なんだって!?」
星矢たちに少しづつ戦いの足音が近づいていた。
神々との戦いの道を選んだアテナ!壮絶な戦いが君を待つ!!
第七話 「コップ座(クラケル)の聖闘士!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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