聖闘士 星矢
Last Chapter The Olympus


第7話 クラケルの聖闘士!!の巻



「大変ざんす!大変ざんす!」
水蛇座(ヒュドラ)の市が無人の宮を抜けて、星矢たちのいる宝瓶宮までやってきた。
「市!どうしたんだ!?」
邪武が、市に向って問う。息を荒げてやってきた市の顔には、明らかにこれから起こる事件の深刻さが現れていた。
 膝に手をつき、少し呼吸を整えると市はしゃべり出した。
「アテナが、沙織お嬢様がこの聖域にもどってきたざんす!」
 市はあわただしくもそのまま言葉を続けた。
「さあ、はやく、みんなでアテナの神殿までいくざんすよ。」
 市はそういうと、星矢たちの肩を押し、宝瓶宮を後にしようとする。
「待て!!状況がつかめないゾ!どういうことだ市!!」
「そんなことはいいざんす。とにかくアテナの神殿へ…」
言い終わるのも早いか、市は星矢たちを押し続けた。
星矢たちは、仕方なく言われるままに、アテナの神殿に向うことにした。

――アテナ神殿
 アテナの神殿は聖域のもっとも奥にある。歴代のアテナはここで寝食を共にし、来る悪から身を守るのだ。アテナの神殿の手前には、教皇の間がある。教皇はアテナの意思の代弁者でもあり、またアテナ不在時には、アテナが戻るまでそこを守らなければならない。
 教皇は、黄金聖闘士のなかで、聖闘士としての能力だけでなく、統率力、政治力など、あらゆる面において優れていなければならない。そうでなければ、その奥に居るアテナを守ることはできないからだ。そんな、恐れ多くも教皇の間の奥、アテナの神殿に今、若き聖闘士たちが集っている。それは、前回のハデスとの聖戦で事実上、眠りの時に入っていたはずのアテナが再び、この聖域サンクチュアリにやってきたというからだ。
 事態は星矢たちにも、少しは分っていた。それは、アテナの化身であった城戸沙織が、ミレニアムパーティーと称する催しに12神のアテナ役として、参加させられたからだ。本来これの主宰は、オリンポスの神に匹敵するほどの富と権力を持つ世界的な富豪たちを一二人集めただけの饗宴であった。しかし、そのような催しであるとしても、沙織をアテナとして招くとは…あまりにも出来すぎている。その予想が見事にあたってしまったというべきか。
「市!本当なんだろうな!?」
邪武が市に対して尋ねた。
「本当ざんす!!確かに一番下の白羊宮にやってきたざんす!!まわりの雑兵が騒がしいので、聖域の入り口を見に行くと、アテナがいたざんす!!」
 市は、信じてもらえるよう必死に説明した。
「分ったよ。で、なんでおまえはアテナをお連れしなかったのだ!」
「それは、アテナの神殿にいけば、わかるざんす。」
言い終わると、無人の教皇の間を抜け、アテナの神殿に到着するところであった。

ギ・ギ・ギ…
 到着すると、アテナの神殿の扉が勝手に開くと、その奥には、沙織の姿をしたアテナがいた。
「アテナ!!」
一斉に叫ぶ。そこには、確かにアテナの姿があった。つい先日までの城戸沙織ではなく、威厳に満ち、神々しい小宇宙に満ちたあのアテナの姿があった。
「聖闘士のみなさん。わざわざ、このアテナの神殿までご足労でした。」
 と、突然、扉の脇に立つ一人のブレザー姿の男が話しかけてきた。
 ソレントだった。
「ソ…ソレント!?」
 星矢たちが何故ここにこの男がいるのか考えあぐねていると、ソレントの方から、事情を話し出した。
「私が、細かい事情は説明いたしましょう。」
 ふと、我に返り、ソレントがポセイドンの海闘士であったことを思い出した。星矢は、ソレントに向って、拳を突き出した。
「ソレント!アテナに何をした?ポセイドンはまた、世界を征服しようと考えているのか?」
 ソレントは星矢の拳を左手で軽々と受け止めると、やさしく降ろした。
「そうではありませんよ。」
そうソレントが言っても、星矢は再び聖闘士として構える。ソレントは一向に構えようとしない。再び、星矢が拳を振るおうとすると、
「星矢!お止めなさい!!この方は、今回の事情を理解し、私をここまで連れてきてくれたのですよ。」
 しぶしぶ、星矢が拳を下ろすと、ソレントはやれやれといった顔で事情を話し始めた。
「私は、今回の宴でジュリアンソロ様の演奏の相方として、宴に招かれました。」
 ソレントは、ゼノンの邸で起こったいきさつについて説明した。
 ゼウス役であるゼノンが、謎のお香のツボを開けてしまったこと。ゼウスの復活を阻止するために、ソレントが身を呈して、それに立ちはだかったこと。しかし、一二神の復活を阻止できなかったことなど、その多くを星矢たちに伝えた。
 あまりのことに、星矢たちは何も言うことが出来なかった。
「今回の件で、私は最善を尽くしました。しかし、あと1歩のところで、ゼウスの復活を阻止することが出来ませんでした。」
 ソレントはうつむく。しばし、沈黙が流れると、アテナがおもむろに話はじめた。
「星矢たちにお願いがあります。」
「!」
 星矢たちは驚いた。このようにアテナから改まって命令を受けるのは初めてだからだ。
「あなた方、聖闘士は、人類の未来のために一二神と戦わなければなりません。」
「なぁに、いつものことだ!いつもどおり、アテナのためにこの命、果たしてみせます。」
 邪武がそういう。しかし、アテナは首を振る。
「今回はあなたたちのために戦うのです。私のためではありません。」
「!」
 おかしい。いつもと違う雰囲気に一堂取り乱していた。
「しかし、アテナ。我々はアテナをお守りするために今まで戦ってきたのです。それは一体どういうことですか?」
 納得のいかない那智がアテナに尋ねた。
「今回ばかりは私はあなたたちといっしょに行くことはできません。それは…」
「それは…」
 一堂固唾を飲む。
「私もオリンポスの一二神だからです。」
「!」
 アテナはさらに続ける。
「ソレントが言ったように、今回一二神の復活で、人間の世界、つまり鉄の時代を、再び輝く神の時代、黄金の時代に戻そうというのです。私は反対しました。しかし、他の神たちは一向に考えを変えません。そこで、人間が本当にこの世界の支配者になれるかどうか、一二神とし合うというのです。」
 星矢たちは驚きの表情をかくせない。
 しばらく呆然としていると、アテナはヤコフの前にたち、ヤコフの頭の腕に手のひらを乗せる。
「うぅ…」
 ヤコフが少し、苦痛な声を出すと、すぐに輝かんばかりの笑みに変わった。
「力がみなぎっている!!」
 アテナは、ヤコフに最後の直属の聖闘士として認めたのだ。
 ヤコフは小宇宙を燃やすと、持っていたコップ座(クラケル)の聖衣を纏った。その体は燃えるように熱かった。
「これで、あなたも氷河やカミュと同じように戦うことができるでしょう。」
 アテナは言うと、すたすたとアテナの神殿を去って行く。
「アテナ!!どこへ…」
 星矢は叫ぶ。
「オリンポス山にあるアテナの神殿です。」
 そう一言つぶやくと再び、アテナは歩き始めた。
「待ってくれ!」
アテナは止まらない。さらに遠ざかっていく。
「あなたたちは、十分に強くなりました。今回が本当に最後の戦いです。」
 アテナは一瞬止まると。
「オリンポスで会いましょう。」
 そう言い、去っていった。
 絶望に暮れる。今まで、よりどころにしていたアテナの加護がなくなるのだ。当然である。薄暗い空気が流れる。
 しかし、星矢がたちあがり叫んだ。
「大丈夫だ!おれたちのアテナだ!1きっと何か考えているに違いない。」
「そうだ!!戦おう!!一二神と…」
「おれたちのための、そして人類のために…」
「行こう!!オリンポスへ!!」

 

東京


 ここでまた、まるで聖闘士だったとは思えない男がいた。彼は、美穂の勤める孤児院で、子供たちのお守をしていた。
「瞬、瞬。瞬は昔とっても強かったんでしょ?」
 子供たちが、瞬に尋ねる。瞬は答える。
「そうさ、僕は本当の強さを手に入れた。」
「えぇ〜、どんな強さ?」
「それは、みんなをこうして遊んでいられるってことだよ!」
 子供たちは急に面白くない顔をした。
「なんだぁ。もっとこう腕っ節が強くって、どんな悪い奴だって倒せるのかと思った。」
「ハハハ…ごめん。」
 瞬は謝る。でも、子供たちはすぐに機嫌を取り戻したようだった。
「そうだよな!こんな瞬が強いわけないもんな!!」
 やんちゃな男の子が言い出した。
「じゃあ、私のお馬さんになってぇ!」
「僕もだよぉ!」
「分った分った!!順番にね。」
 子供たちと遊ぶ瞬。それは彼の本当の姿であった。
 そんなおり、突如として美しいマスクを持つ男が現れた。
「アンドロメダ瞬。聖闘士であるはずのおまえが何をしてるかと思えば、こんな孤児院でガキの世話か!聖闘士の名折れだな。」
 突然現れた男に、子供たちは瞬の後ろに隠れる。
「何のようでしょう?」
瞬は答える。
「聖闘士でもっとも美しいアンドロメダよ。世の中でもっとも美しいのはアフロディテの戦士『麗闘士』だ。」
 わけがわからない瞬は、聞き返した。
「一体どういうことなんです?」
 男は、事情のつかめていない瞬に軽く説明した。
「今回おまえら聖闘士は、我々一二神の神々たちと戦うのだ。そう、アテナともな!!」
「!」
 あまりのことに、耳を疑う瞬。
「そんなはずが…」
「そんなことが起こっているのだよ!すでに他の聖闘士は、聖域に向っているようだな。」
 男はそういうと、立ち去った。
「真偽を確かめたければ、オリンポスの神殿まで来い!!」
 男は目前から完全に姿を消した。
「瞬!怖かったよぉ!」
 瞬は子供たちをやさしく包み込むとすっとたち、孤児院にいる美穂に顔を向けた。
「やはり、行ってしまうのね。」
「はい、どうやら、状況はかなり悪いようです。」
 瞬は、そう言うと、孤児院から出ようとした。
「瞬言っちゃうの?」
 子供たちがよってくる。
「ちょっと、用事を思い出してね。すぐに帰ってくるよ。」
 そう言い残すと、瞬は孤児院を去った。



紫龍は・・一輝は…、次回新たな聖闘士が登場!!

第8話「デスクイーンの戦士たち!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!


星矢のトップに戻る

あらいベアーのホームページに戻る