聖闘士 星矢
〜Last
Chapter The Olympus〜
第8話 デスクイーンの戦士たち!!の巻
――デスクイーン島
デスクイーン島はそのあまりの過酷な気候と凶悪な輩が横行するために、一般の人々からは倦厭されてきた。そこには、聖闘士になれなかった不埒なブラック聖闘士どもが闊歩しているからだ。しかし、そこに一人の男が戻って来てから、状況は一変しだした。あれほど荒れ狂っていたブラック聖闘士たちは、火山で痩せた土地をも開墾し、田畑を作っている。また、それでも、道の外れたものどもには、制裁を加え,少なからず存在した一般の人々も戻り始めていた。
ここに、一人の男がいた。
男は、デスクイーンの中心に位置する火口の中に身を委ね、日夜修行している。真っ赤に燃えるマグマがすぐそこまで迫っており、あわや、火に飲み込まれそうになっても、男は動じない。じっと、石の上に座り、何かを待っているかのようでもある。
いや、何かを待っていたのではない。どうやら、待たせていたのだろうか?しばしすると、男の前に、巨漢どもが現れた。そして、火口に座る男に向かって話し始めた。
「これが、今月の村からの差し入れです。」
男からは何の反応もなかったが、先ほど現れた巨漢どもは続けた。
「どうやら、村人たちは、師に是非村の一員として、暮らして欲しいと言って来ています。どうされましょうか?」
あいかわらず、男からは何の反応もない。それを見て取ると、巨漢どもは諦めたように返した。
「分かりました。その件はまた、村人に断っておきましょう。それと・・・」
巨漢はそう言ったあと続けて何かを言おうとしたが、ためらった。それは、ただ、単純にこの男が怖かったというのもあったが、それをためらうという行動で相手に伝えてしまった時点ですでに、無理だったのだろう。
しかし、珍しいことに、その日の男は、答えを返した。
「性懲りもなく、俺に戦いを挑むつもりか?」
「ヒィっ!!」
巨漢のうちの一人は、突然の男の反応に一瞬怖気づいてしまった。しかし、この程度で、びびっていては、到底この男に勝てるはずはない。そう思った先頭の男が、答えた。
「はい!一手ご教示を・・・」
「・・・よかろう!!全員で一斉にかかってこい!!」
言い終わるが早いか、巨漢どもは羽織っていたマントをどこかへ投げ捨てた。
先頭の男は金髪。髪は短く、凛々しい繭をもっている。はじめにこの石の上の男に攻撃をしかけた割には、その風貌は攻撃的なそれではなく、どこか理知的なものを持っていた。
そのすぐ後ろの男は、黒い髪。髪型は戦闘の男に似ている。どことなくシュラのような感じのする男で、固い志を持つタイプのようだ。その男の隣には、青い髪の男。マスクがよく、戦闘の男や隣の男に比べると軽そうなタイプだ。しかし、頭の回転は速そうなかんじのする。一番後ろにいる男は大男。この男たちはみな優れた体の持ち主だが、ひときわ大きい。しかし、先の石の男の反応にもっとも驚いたのはこの男であった。体の割には慎重な行動の男なのだろう。先頭の男は石の男に向って走り出す。後ろの男2人は左右に分れ、先頭の男と同じに一列に並ぶ。そして、一番後ろの男が大きく跳躍すると、四人は一斉に拳をしかけた。ものすごい爆発のような音とともに四人の拳はあっさりと男に効いた。
ズシャァァァ…
男がふっとんで火口の方に落ちていく。
「やった!!やったぞ!!ついに我が師を倒した!!」
ところが、拳は男だけでなく、座っていた大きな石にぶつかり、火口に潜む火の神を怒らせてしまった。突如として荒れ狂うマグマ、一気に火口を駆け上ったマグマは島を覆い尽くそうとする。あまりの状況に巨漢たちは悲鳴をあげる。
「ひぃぃ!!この島はもうおしまいだ!!」
マグマは巨漢たちだけでなく、村人や家畜をも、襲う。あまりの惨憺たる状況に、目を背けたくなるほどだ。しかし、いくらマグマが降りかかっても巨漢たちは死なない。この悲惨な状況を目の当たりにしろということなのか?とにかく、島中を走り回る巨漢たち。しばらくして、先の拳で死んだはず男が巨漢たちの前に姿をあらわした。
「どうした?おまえたちは、俺を倒すために、何の罪もない島の人々や家畜を殺し、我が物顔でいるのがそんなにうれしいか?悔しければこの島を取り返して見せろ!」
男はあざ笑うと、そのままどこかへと消え去った。
巨漢どもは走る。ひたすらに島を。しかし、いくらいけども、生き物はいない。ただの荒れ果てた溶岩島になってしまった。
「うぉぉぉ!!なんてことをしてしまったんだ!!俺たちは!!」
叫ぶ巨漢ども。しかし、叫んだところで、状況は変わらない。
ひざをつき、途方にくれていると巨漢たちは我を取り戻す。目前には、男が石に座って瞑想をしている。いつもと同じ情景だ。男たちは幻魔拳にかけられていたのだ。
「ふっ!!まだまだだな!!オデッセウスよ。」
男は、先頭の物怖じしない若者に声をかけた。
「残念だが、この石の下に眠るデスクイーンのもう一つの聖衣は授けることはできない。」
巨漢たちは、一斉にため息をついた。
「俺は、このデスクイーンで生き延び、そして聖闘士の称号も得た。前回の聖戦が終わってから、新たにくるであろう聖戦のためにおまえたち、ブラック聖闘士を性根から鍛えなおした。ほとんどのものが根をあげ、俺の元から消え去ったが,おまえたちは違った。」
男は立ち上がり、自らが座っていた石に向かって拳を振るうと、その石の中にあった、銀で出来た大きな船を取り出した。
「これは、アルゴルの聖衣だ。この俺の聖衣、フェニックスといっしょに沈んでいた聖衣だ。ブラック聖闘士どもには渡せぬと思い、今まで,俺が隠していたが、そろそろ、渡す相手が現れたようだ。」
この男、一輝は人差し指を立て、アルゴルの聖衣に向かってほんの少し気を入れると、簡単に分解した。それは、ただひとつの聖衣ではなく、4つの聖衣の集合体であった。さらに、どこからともなく、4つのパンドラボックスも現れた。一輝は一つずつ、箱に収めると、一人ずつ名前を呼んで、聖衣を渡していった。
「オデッセウス!おまえにはこの竜骨座(カリーナ)の聖衣。」
そういって、先頭の金髪の男に。
「テレマコス!おまえにはこ船尾座(プッピス)の聖衣を。」
次に、黒い髪の男に。
「テレゴノス!おまえには帆座(ヴェラ)の聖衣!」
さらに、青い髪の男に。
「エウリュロコス!おまえには羅針盤座(ピクシス)の聖衣を!」
最後に、巨漢の男に聖衣を授けた。
オデッセウスたちは、聖衣を分解し、纏ってみる。しかし、重く熱い聖衣は、まだ、オデッセウスたちに和んでおらず、すぐに体から外さなければならなかった。
「ふっ・・・まだ、その聖衣はおまえたちを主として選んだわけではない。あくまでも俺がおまえたちに渡したにすぎないのだからな。」
しかし、聖衣を与えられたうれしさに打ち震え、オデッセウスたちは、浮かれていた。
それを横目に、一輝はただ黙していたが、突然!!
「!」
一輝はオデッセウスたちの後ろに拳を放った。
「誰だか知らんが...この我々に戦いを挑んできたようだ。」
一輝がそういうと、新たな客人が姿をあらわした。
「これはこれは。フェニックス一輝自らの御もてなしとはありがたい。」
新たな客人は一輝たちの前に姿を表した。
「アテナの聖闘士にして、もっとも恐れを知らぬ男。フェニックス一輝!!おまえを生かしておいてはわが主アレスが芳しく思わん。済まないが、おとなしくしていてもらおう!」
「おや、軍神アレスほどの男が、この一輝に恐れをなすとは、噂のアレスも大したことはないと見える。」
一輝は、あざ笑うと、男は再び、しゃべり始める。
「よかろう。それでは、このアレスの側近恐怖のフォボスが、おまえを葬り去ってやろう。」
一輝は、それをものともしないで、何処かへ消え去った。姿はないが、一輝の声だけは確かに聞こえた。
「先日からギリシア界隈の様子がおかしいと思っていたが、どうやら、異変が起きているようだ。俺は一足飛びにギリシアに向かう。おまえたちもそいつを倒して、早くギリシアにはせ参じるのだ。」
「待て!貴様!!逃げる気か!」
フォボスが一輝を追おうとすると、オデッセウスが、行く手をさえぎりこういった。
「どうやら、師はこのオデッセウスたちに聖闘士としての最初の試練を与えたらしい。」
オデッセウスは、そう言うと、
フォボスに対して、構えた。
「テレマコス!おまえたちは先に行け!!こいつは俺が食い止める!!」
「分かった!!」
テレマコスたちは、そういって、オデッセウスをおいて先へすすんだ。
「これで、ゆっくりとおまえと戦えるな!」オデッセウスがそういうと、フォボスは
「なんだ。おまえ一人でこの俺に勝とうと言うのか!まぁよかろう。このアレスの息子と称されたフォボスに殺められたいというのならそれもまた、よし!」
フォボスは、戦闘体制に入った。
「食らえ!!」
テレマコスたちは今までいたその場を離れてどこかに行こうとした。丁度、火口から離れて外に出ようとすると、またしてもマントを羽織った一人の男が現れた。しかし、その男は、岩場に倒れて動こうとしない。すでに息絶えていたようだ。
「これは、さきほど、行かれた師一輝の技であろう。一撃のもとに葬り去られている。」
見ると、遺体の傍に、一輝のセイントカードがおかれていた。セイントカードは、自らが倒した相手の骸に置き、自分が倒したことを示すカードである。
カードの裏面には、血で文字が書かれていた。
「聖域(サンクチュアリ)へ急げ!!」
一輝の文字だ。カードは、テレマコスたちに、そのことを伝えていた。
「おまえら、急いで,聖域に向かうぞ!!」
「食らえ!!メテオインパクト!!」
突如ものすごい数の隕石が飛来する。それは、オデッセウスの体にことごとく命中し、オデッセウスの体から、おびただしい血を流れさせる。
「どうだ!早くも虫の息のようだな?」
フォボスはオデッセウスに近づき、右手で頭をわしづかみにし、蹴りを入れる。
「グホッ!!」
「おら、どうだどうだ?」
フォボスが尚もけり続けると、オデッセウスの後ろにあった聖衣が光り始めた。
「何!?」
すると、パンドラの箱が開き、竜骨座の聖衣がオデッセウスを守る。
「何の真似だ。おらっおらっ!!」
フォボスが、聖衣に拳を振るってもびくともしないそればかりか、聖衣は更なる輝きを見せ、分解し、オデッセウスの体に纏わりついた。オデッセウスの内なる小宇宙は燃え、先ほどの怪我をものともしないほどに、蘇った。
「さすが、不死鳥一輝の守りぬいた聖衣だけはある。これなら、おまえとも互角に戦えるぜ!!」
言うと、オデッセウスは拳を繰り出した。
「喰らえ!!クリムゾンズブリーズ!!」
「その程度の技でこの俺を倒そうとは笑止千番!!」
フォボスはオデッセウスの渾身の技を片手で受け止めた。
「ハハハ・・・、蝶の羽のそよぎの方がまだと強いかと思ったほどだぞ!!」
「どうかな?」
フォボスは、右足に見える黒ずんだ部分を触る。
「!」
「蝶の羽で火傷を負わすことは難しいだろうなあ?」
「くそっ!!」
フォボスはそういうと、後ずさりした。
「たったの一撃与えたくらいで、図に昇るんじゃない!この続きは、オリンポス山に来てからだ!!」
フォボスは逃げ去る。しかし、オデッセウスは追わない。
「おまえのような弱虫に与える拳などもう持ち合わせていないぞ!!ヘヘ〜んだ!!」
言うと、オデッセウスは、テレマコスたちを追いかけた。
オリンポス山アレス神殿
「フォボスとダイモスが戻らん!!どうしたというのか!!」
アレスが、いらいらし始めた。先日の12神会議で、神対人間の戦いが始まるという話に決定し、いてもたってもいられなくなってしまった。早急なアレスは、おそらく戦うことになるであろうアテナの聖闘士たちに先に一手加えてやろうと考えた。しかし、待てども待てども、2人は帰らない。
「試合は、明日以降のはず、なのに何故、こんなところでイライラしているのです?」
と、突然痩せた男がアレスの元に現れた。
「ヘルメスか...」
ヘルメスはさらに付け加えた。
「ゼウス神は、不正が大嫌いなお方。このようなことが、知れればゼウス神は大いにお怒りになりましょう。」
「そういうおまえはゼウスにかわる監視役として、このわしを見張りに来たのであろう。」
アレスはヘルメスの真意を読み取るかのようにそう答えた。
「おや、これは察しのいい。」
「で、何が言いたいのだ。」
ヘルメスは、待っていたとばかりにアレスに言った。
「実は・・・」
ヘルメスは耳打ちした。アレスはほくそえむ。
「なるほど!面白い考えだ!!」
「早速実行に移りますゆえ。」
ヘルメスは立ち去った。
それと、入れ替わるかのように、フォボスが入って来た。
「フォボス!?」
みるも無残なフォボスの姿に、アレスは唖然とした。
「聖闘士を仕損じました・・・」
アレスの顔が曇った。
しかし、すぐに我を取り戻すと神殿の下に控えていたアレスの戦士たちの前に立った.
「我が闘士『戦闘士』たちよ!いまこそ、アテナへの恨みを晴らすときがやってきたのだ!! 最後の戦いだ。我らの持つ本当の戦いを見せてやるのだ!!」
「アレス万歳!!」
アレスの申し子たちは、アテナに向けて大いなる戦いを挑もうとしていた。
ついに、始まろうとする最後の戦い!
第9話「今はなき老子!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!