聖闘士 星矢
〜Last Chapter The Olympus〜
第9話「今はなき老師!!の巻」
中国 五老峰
その片田舎に一人の若者がいた。
若者は、目に包帯を巻いている。目が見えないようだ。しかし、男はそれでも黙々と畑を耕している。その姿はあるいは、すでに隠居した老人のようにも見える。反面、その畑を耕す力強さからわかわかしいエネルギーも感じる。
そんな中、一人の女と子供がやってきた。
「紫龍。もうお日様があんなに高くなっているわ。そろそろご飯にしましょう!」
その女の言葉に気がつくとその男、紫龍と呼ばれていたその男は、鍬を打つのをやめ、女の方に振りかえった。
「分った。今行く。」
「紫龍。ご飯を食べたら、稽古をつけてくれる約束だったろ!はやくご飯を食べて、稽古をしようよ。」
紫龍の言葉を聞くと、女と一緒についてきた7,8歳の子供がそう言った。
「分った!童虎。あとで稽古をつけてやろう。」
3人は、畑の脇にある大きな木の下に座ると、お昼ご飯を取り出して、食べ始めた。
ハーデスとの聖戦が終わって紫龍は戦いを捨てた、老師とともに戦ったあの日々は懐かしくは思えても、やはり紫龍は春麗とともに生きていくことを決めた。
「もはやこの時代に戦いが必要であるとも思えない。」
そう考えた。戦いから生まれてくるものすべてが意味のないもののように思えてくる。相手を倒せば倒すほどそれははっきりと自覚できるようにさえなった。人生の真の意味はこの五老峰の大地を耕し、そして土になることこそを至高のものと考えるようになったのだ。はじめはなじまなかった鍬もしだいに手になじんでくる。土を肌で感じることができるようになる。そこから生まれてくる大地の持つ強大で慈愛に満ちた小宇宙はそれが紫龍が考えていた真の小宇宙に他ならなかった。
そんなことを考えていたある日、一人の少年が紫龍の前を訪れた。まだけつの青いはなたれクソ坊主だったが、その少年はなんとも恐ろしいことを言う。
「おいら、あの濾山の大瀑布を逆流させることができるんだぜ!!」
しかし、紫龍は少年を見ずに言う。
「バカをいっちゃいけないよ。あの濾山の大瀑布は今まで誰一人として逆流させたものはいないさ。」
しかし、少年は聞かない。
「本当さ。だったら見てみる?それにここらへんに紫龍っていう龍(ドラゴン)座の聖闘士がいるって聞いたんだけど知らないかい?」
「紫龍?それに聖闘士?知らないなぁ。いまは畑仕事で忙しいから行った行った!」
紫龍は簡単に少年を追い返してしまう。少年はしかたなく、その場から立ち去ることにした。
少年はそそくさとどこかに消えていった。
「ふぅ、やれやれ、どこで聞いてきたのか知らないが、子供たちには有名なようだな。残念ながら、ここには紫龍という男もいないし、聖闘士ももういない。老師なきあと、聖戦が終わりを告げた時点でここにはそのすべてが消え去った。」
紫龍はそうつぶやいた。それは自分に言い聞かせるかのようでもあった。紫龍は畑仕事に一段落つけ、畑のあぜ道に大きくあぐらをかく。汗を拭きながら、持ってきていた水筒の水を一口飲んだ。
しかし、不思議だ。この山奥にかつて少年など一度も訪れたことはない。大の大人ですらこの五老峰の奥に入ってくることは難しいのだ。それに少年が消えた方角も気になる。少年は間違いなく濾山の大瀑布の方角に消えていった。
「もしや・・・」
そう思ったとき、事件は起きた。濾山の方角に大きな水柱が立った。
「ばかな・・・」
紫龍は立ち上がる。持っていた水筒をかなぐり捨てると、慌てて濾山の大瀑布の方へと走った。大滝に向かって走る。先ほどから見えていた水柱は、ますます大きくなり、ついには水龍のごとく、うねり、回転しながら天へと上る。
「まずい・・・」
紫龍は直感した。あの少年の体のどこにあれだけの小宇宙が存在したのだろうか?考えている間もなく、龍は逆巻き荒れ狂う。そして、反転。今度は地に向かって突進する。
バシャーーーーン!!
大きな音とともに、龍は消えた。
「遅かったか!」
紫龍が駆けつけた先は以前から変わらず雄雄しく滝壷を打つ濾山の大瀑布があるにすぎなかった。しかし、少年を置き去りにするわけにはいかない。紫龍は濾山の滝壷の中に飛び込んだ。
相変わらずの地の中心まで打ち付けるかのような激しい水流。その中を紫龍は数年ぶりに潜った。ほどなくして滝壷の中でまるでかき回されているかのようにぐるぐると水中を回る少年の姿があった。
「なぜ、このようなことを・・・」
紫龍は少年を抱えあげると、外に出てあの老師の座していた五老峰の大岩の前に寝かせた。やはり、体中滝の水圧で骨折している。首の骨の損傷はとくにひどいように思えた。
しかし、奇跡的にも息はあるようだった。すぐに火を作ると、紫龍は自分の着ていたぼろきれと腰に巻いた手ぬぐいを少年にかけてやる。
「かわいそうなことをした・・・」
数時間ほど経つ。紫龍はこのままこうしているわけにもいかないと春麗の元に帰るkとにした。少年を抱え起こす。すると少年の背中にあざがあること気が付いた。
「相当はげしく体を打ったのか。背中全体に丸くあざができてしまったか・・・」
しかし、それは滝で打ったものではなかった。あざはみるみる大きくなってさらに鮮明にひとつの模様をい描き出した。
それはあの老師の背中にあった虎の模様に他ならなかったのだ。
「ば、ばかな。」
少年は息を吹き返す。
「う〜ん・・・」
少年は軽く目を開ける。そしてその顔は急に険しくなり、ふっと息を引き取るようにまた目を閉じた。
「紫龍よ。。。おまえはまたしても大きな過ちを犯すところであったぞ。」
「老師!」
紫龍は振り返る。だが、老師はいない。声は続いた。
「聖闘士の真の小宇宙とは何か?あの聖戦を潜り抜けてもきづかなんだとは・・・」
声は紫龍の前にいるその少年の口から聞こえてくるのだ!
「この老師、少しおまえの修行を甘く見すぎたのかもしれん。」
「老師なぜこのようなお姿で・・・」
少年は動かない。ただ、口元からはたしかに老師の声が聞こえてくる。
「おまえの救えなかったその一人の少年がおまえに宇宙のすべて教えるじゃろう。」
すると、いままで動くことのなかった少年の体が硬直すると、かっと目を見開き、紫龍に向かって叫んだ。
「行け!紫龍!!おまえにはまだやらねばならぬことがある。真の人間とはどのようなものなのか?この少年とともに学ぶのじゃ!」
そういうと少年はまた深い眠りについた。
「おぉ!恐れ多くも私はこの少年を一度は見殺しにしてしまったのか?この少年とともに再び修行をはじめるとしよう。
少年はその後みるみるうちに回復していく。
しかし記憶を失っていた。
紫龍は少年を童虎と呼ぶことにした。
そして、怪我の治ったその日からすぐに五老峰で修行をはじめることにした。
少年は驚くほどの成長ぶりだった。しかも、以前の大瀑布を逆流させたあの力はしっかりと残ったままだった。組み手をするたびに強くなる童虎。それはかつての士である童虎と勝るとも変わらないほどのものであるかもしれない。
しかし、紫龍は決してあの濾山昇龍波を教えることはなかった。
「紫龍。どうしてこの濾山の大瀑布を打ち上げてはならないのです。いまのおいらなら絶対に逆流させる自信があるのに。」
「残念だな。童虎。濾山昇龍波とは自然と、、、宇宙と一体にならねばけして会得できぬ技だ。今のおまえでは到底無理だ。」
紫龍はいつもこういう。それは紫龍が老師から受けた教えと同じであった。しかしその真の意味は今になってようやくわかりかけている。だが、まだ体得はしていない。それは紫龍の人生の永遠の課題なのかもしれないのだ。
そんなある日のことだった。3人でお昼ご飯を食べ、少年の約束どおり、稽古をつけてやることにした。
「すまない。童虎。忘れ物をした。先に行っていてくれ。」
紫龍は今日こそ、童虎に真の奥義濾山昇龍覇、そして百龍覇ともに童虎に授けるつもりでいた。そして、その暁に、先日紫龍が修行中に濾山の滝壷から掘り出した童虎のための聖衣を授けるつもりでいた。紫龍は自分の聖衣である龍(ドラゴン)座の聖衣と黄金聖衣であるてんびん座の聖衣を濾山の大瀑布の滝壷の下に封印した。まさか、この聖衣を再び掘り出し、纏うことがあるとは思いもしない。
そもそも、この修行の目的は誰かを倒すためのものではない。永遠に答えの見つからないかもしれない。無限の修行なのだ。
紫龍は家の裏に隠してあった天秤座の聖衣を取り出す。老師と同じ、天秤座の聖衣を童虎には纏ってもらう。それだけの実力のある少年であると紫龍も思う。
紫龍は聖衣を担ぐと急いで、大瀑布に向かった。
「おい!なぜそこをどかないんだ。おいらはこの大瀑布でこれから修行に打ち込むんだ。」
童虎が大滝に到着すると、滝の激流を一身に浴びる細もての青年が立っていた。しかし、その風貌からはさることながら、濾山の大瀑布にまったくものおじせず、童虎に向かって軽口をたたいてくる。
「こんなところで修行してるんだ。一体何になるっていうんだい?」
まるでシャワーでも浴びているかのようなその口ぶりに童虎も腹が立ってきた。
「余計なお世話だ!とっとといなくなれ!!」
童虎は滝に向かって拳を繰り出すと、そこからあの濾山百龍覇を打ち出した。濾山の滝は瞬く間に龍にかわり、相手を襲う。軽く受け流すつもりだった男もさすがにたじろいでわずかに滝から浮き上がった。しかし、青年は宙に浮くと、手のひらを肩の上で返しこういった。
「やれやれ、わかってないな。私を追い返していいのかい?キミの師匠に重大なことを知らせに来たんだけどね。」
「ばかな!何があるっていうんだい?」
「話せば長くなるけどね。とにかくキミたちはギリシアのオリンポスにきなさい。そう、聖闘士のメッカだよ。」
そういうと、男はいずこともなく消えてしまった。
そうこうしているうちに、紫龍がやってくる。
「紫龍!今変なやつがおいらたちのじゃまをしにきたよ。」
紫龍は深刻な顔をして言った。
「わかっている。来るまでに感じたさ。あの強大な小宇宙を。」
肩から聖衣を下ろす。
「童虎、お前はこれを纏え。」
紫龍はそういうと、滝に向かって念じ、滝壷の奥から龍座の聖衣を取り出した。
「童虎、私たちの修行の真の目的がわかるときが来るかもしれないぞ。今は、ギリシアへ急ごう。」
聖衣が分解する。二人の聖闘士は今最後の試練を目の前に最強の聖衣を纏った。
ついに、始まろうとする最後の戦い!
第10話「ギリシアの太陽!!の巻」
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
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