自然と向き合って暮らす遊牧民たち
 「遊牧民のゲルに泊まること」 これは私の人生100のリストのひとつであった。
 
ゲルに暮らす彼らは、自らの力で家を組み立てる。移動がしやすいように最小限のものを携え、コンパクトに住まう。衣食住は家畜に頼り、一つの場所にとどまることなく豊かな牧草地を求めて、移動を繰り返す。そのような生活を送る遊牧民に、私は潔さと逞しさを感じ、「いつか、彼らが暮らすその空間に身を置いて、一緒に生活をしたい」と思っていた。
 そして今年の夏、遊牧民のゲルに行くチャンスが訪れた。
 友人をあてに、まず内モンゴルの霍林郭勒へ向かった。人と物でごったがえす列車に揺られ、12時間。その長さと窮屈な車内に身はくたびれていたのだが、それはゲル探しの、ほんの始まりにすぎなかった。地元の人々の力を借りて、観光用ゲルにも宿泊しながら探し続けた。実際遊牧をやめて、定住する者が増加しているのだ。目的の住まいを目にしたのは、探し始めてから5日目のことだった。
 
上の写真のゲルは、バタールさん一家の住まいである。
ご主人と奥さん、息子さんの3人,それから約200頭の羊と共に暮らす。20年、このゲルを使用している。冬場は寒さが厳しいため、レンガ造の家に移る。
 ゲルに暮らす彼らは、羊のフェルトに包まれただけで、いつも自然と背中合わせである。その膜は、夜明けをそっと知らせてくれる。トーノ(天窓)から見えるのは、真っ青な空、草原の風は爽快な草の匂いを、運んでくる。夜、暗闇に浮かぶのは、煌めく無数の星。そのような自然の恩恵は、彼らが生きていくエネルギー源なのかもしれない。 
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(写真・文;門田陵子)
 

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