essay

■■■ 「お魚を殖やす植樹運動」  ■■■

森と川と海はひとつ 木を植える漁民たち


  森をつくるのは、山の民(杣人・きこり)だけの仕事ではありません。我々はもとより特に、森に貯えられた養分を含む水の行き着く先、つまり、海の民(漁民)にとっても大切な営みであるというお話を、ここでしたいと思います。
  「環境はすべてつながっている」と言葉では簡単に言えますが、森と海が実際どのような影響を与え合っているのかは、なかなかすぐには解明できません。
  沖縄方面でよく問題にされるのは、陸地の造成工事により海に流れ込む土砂が、珊瑚の生息を脅かす話。南西諸島では、河川が極端に短く、開発現場から海までの距離がほとんどないために、短時間で土砂は海に到達してしまうのです。これはかなり直接的な原因なので、ピンときます。
  しかし、たとえば、北海道の厚岸でカキが激減していった(明治初年9,000トン獲れたのに、大正時代には皆無の状態になった)ことに対する仮説に、「厚岸湾に注ぐ河川の流域の森林伐採により、水温調節機能が狂ったため」(故・犬飼哲夫氏の説)というものがありますが、これはいまだに証明されていません。
  とにもかくにも現実として、森は失われ、河川の汚染が進み、それが原因と思われる漁獲量の減少になんとか歯止めをと、漁民が木を植えるために立ち上がる事になるのです。
  20年ほど前に北海道で始まったこの運動は、次第に全国に広がりつつあります。その形は、漁業者自ら企画実行のものから、行政や森林関係者がはじめから係っているものなど様々で、そのどれにも、各々の地域、海が抱える問題、浜の思いが凝縮されています。点から線へ、線から面へと広がってきた植樹運動が、豊かな浜づくり、森づくり、さらにはまちづくりにと、活動を広げています。
  この運動は、「100年かけて100年前の浜を」をキャッチフレーズにして、最初から無理をしないで、思い思いに出来るところから、と始まりました。ひとりひとりの力は小さくても、だからといってあきらめずに、行動していくことの大切さを感じさせてくれます。

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