レンズ


今度こそ、この熱を冷まさないように、急いであなたに会いに行く。










きっと、ちょっとした気の迷いだから、こんな微妙な感覚は時間が経てば・・・それとも、新しい恋でもすれば、あっさり消えるだろうと期待していた。

でも、気の迷いは一向に晴れなくて。
他に新しく誰かを好きになることもできなくて。

無邪気なエマが気に障る。

だから、雑誌であんなことを答えたのは、ほんのちょっとした意地悪。それに、ファンの子も喜ぶだろうと思って。

「男らしくて女らしい、恋人です」

きっとあなたは少し怒って、そして笑うだろう。すべてが冗談として片付けられるだろう。
そう思っていたのに。

あなたが黙るから。
驚いた顔をして、それからほんの僅かに視線を落として、黙ってしまうから。


「恋人です」

と告げてみた。

「何・・・言ってんだよ」

やっとその言葉を返したエマの声は震えていて。
自分でそういう空気を作っておきながら、「この人、そんなふうに反応しちゃって、取り返しがつかなくなったらどうすんの」なんて妙な心配をしてしまったり。
それは明らかに自分の中に宿っている、紛れも無いエマへの恋心に起因するものなんだけど。

ほんの少し、変わった俺たちの間の温度。
その空気がめちゃくちゃ嬉しい、それでもどこか罠じゃないかと疑う自分が可笑しくて。

僅かな沈黙の後、二人で顔を見合わせて笑った。
でも、あっけらかんとしたともだちの笑い声では、既になく。

クスクスと。
ベッドの中の睦言のように、その笑いは秘め事めいていた。


当然、この先の展開を期待――――するだろ?、普通。

でもなんてバッドタイミング。二人だけだった楽屋に、ヒーセとアニーが来てしまって、中途半端に俺たちの熱が散らされた。

次に二人きりになった時には、なんだか気恥ずかしくて、話題を蒸し返すこともできなくて、それから長い間、俺たちはまた単なる仲間に戻った。
このまま、ずっとこんな関係が続くだけなのかな、と、いい加減絶望していた――――・・・今日という、今日。


「ひとことで言って、恋人です」


エマにとって俺がどういう存在かという質問に対する、あなたの答え。
レンズ越しのあなたの瞳にノックアウト。

面と向かって伝えられない俺たちは、なんで公の場でこういうことをしれっと言うことはできるのかな。
それは答えるまでもなく照れ隠しなんだけど。俺がそうだから、エマもきっとそう。
でも、雑誌の文章も戸惑わせたかもしれないけど、テレビで言っちゃうってどうなのよ、エマさん?オンエアチェックしてて呼吸が止まっちゃったよ。


でも。
あなたがそう言ったからには。
あの忍び笑いの続きを、あなたも望んでるっていう・・・・GOサインだと、勝手ながら俺は判断しました。







今度こそ、この熱が冷めないうちに、急いであなたに会いに行く。
レンズ越しでは触れられない、あなたに触れに、会いに行く。



end




実話いじりネタは面白いなぁ…っていうことで、9.はじめての日の続き、ロビンサイド。
ロビンもロビンなら、エマもエマですごいこと言ってますねぇ。(しかもテレビで)。
デビュー当時の番組らしいから、私も実際は見てないし、どういう状況で答えてたか知らないし、ロビンの雑誌記事とどっちが先だったのかもよく判らんし、しかもその番組には二人で出てたらしいから、吉井はきっとその場で聞いてる筈なんだけど、まあ、その辺はフィクションってことで。

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