はじめての日


ひとしきり笑ったあとで、空気が止まった。


「どうしたの?」

やけに優しげな声で問いかけるから、その違和感に戸惑った。



「男らしくて女らしい、恋人です」


雑誌の取材で、他のメンバーに対するコメントを求められて、今日、吉井はそう答えたと笑った。
俺はそれに笑い返した。

「何言ってんだよ」

そう言って、冗談交じりに怒りでもすれば、それはそれだけの会話だった筈。
あの取材の時点で、吉井の発言は、おそらくバンド内での役割をディフォルメしたのと、言葉遊びの混じった、それだけの意味だったと思うのに。


なのに。
ふと、空気が止まってしまった。

多分、俺が止めてしまった。
吉井もそれに気付いてしまった。

二人の間で揺れる空気が、静かに静かに震えだす。
錯覚じゃない、それは確かに感触。
震える空気の感触。


「恋人・・・・です」


小さく小さく、今度は俺に伝えるために吉井が囁いた。

掠れる声は、冗談に聞こえない。

「何、言ってんだよ・・・」

予定通りに紡いだ俺の答えは、やっぱり掠れていて冗談にならない。

熱というよりは、温度。
欲というよりは、惑乱。
新たに極彩色の世界が訪れたのでなく、過去がモノクロに霞み行く。

お前を知らなかった俺の過去が、モノクロに霞んでいく気がして。


怖くなった。


それが。
吉井に対してドキっとした、

はじめての日。



end




大昔――-初期の雑誌記事のネタ。この取材記事がL→Eの実際の発言なんだから手に負えない。妄想しなくても事実が激しい、兄さんたちって素敵(笑) ビジュアルイメージは化粧の濃かった頃の兄さんたちでお願いします。
そしてSSなのに、何故か13.レンズに続きます。

back