ジャンプ!



今日の吉井和哉は最強だ。
同じ番組で共演する、どのアーティストにも負けない自信がある。
向かうところ敵なし!リハから既に絶好調だぜ。

「吉井さん、今日ノリノリですねぇ」

当たり前だ。今日の俺は一味違う。

なんせ、本日俺の足元を飾っているこの靴は、なんと昨日、エマさんからプレゼントされたものなのだ!
おっと、聞き間違いじゃないぞ?
エマから吉井に、プレゼントされたものだ。

こんなことは初めてだ。
思えば、長い道程だった・・・。
今まで、俺がエマにプレゼントしたものは数知れず。ネックレス、ブレス、指輪、服、車、マンション・・・挙げていけばキリがない。総額からすれば、多分田舎なら家くらい建つ。
そんな俺が、昨日!
エマから初めて靴をプレゼントされたのだ!

ああそうさ。
どうせその靴はエマが自分用に買ったものの、大きすぎて履けなかったものだ。
ああそうさ。
どうせ独り言で「高かったからもったいないけど」とか言ってたよ。

けど!
でも!

ここが肝心なのだ。

大きすぎて履けなかった靴を、返品するでもなく、咄嗟に俺にプレゼントしようと思ってくれた、ということだ。
それは改まってイベントごとのプレゼントを用意するより、ある意味大きな意味を持つ。
『あら、今日は靴下が5足1000円だわ、お父さんに買っていこうかしら』なんて思う、主婦の発想に通じるところがあって、とりもなおさず、それはエマの日常において、俺という存在が自然なものになったということの証明だ。

今まで俺は、いつも羨ましかったのだ。
何がって、あの兄弟だよ。
エマの着てるの、なんか見たことあるシャツだなーって聞いてみたら、
「ああ、これ?前に英二が買って一回着たんだけどさ、なんだか小さくて着づらいって言ってくれたんだ」
って答えたり、逆にアニーがイマイチ似合わないセーター着てるから聞いてみたら、
「オフクロがバーゲンで兄貴用に買ったんだけど、サイズが俺向きだったんだよね」
って答えたり。
エマのシャツって、実はアニー、それを狙って買ったんじゃねぇの?とか、いい年して母親に服買ってもらうなよ、とか思わないでもなかったけど、なんか二人の間ってのはやっぱり「他人の割り込めない自然さ」ってのがあってさ。

だってエマって、平気で可愛くないこと言ったりするけど、やっぱり俺のことちょっと特別に思ってくれてる感はあって、二人で過ごすときも、気を抜きすぎたりはしない。いつもどこか凛として、俺を意識してる。
それはとても嬉しいことなんだけど、反面、すこしばかり寂しいことでもあって、たとえば半同棲みたいに俺がエマにプレゼントしたマンションに入り浸りながらも、不意の来訪は憚られる。
予め「行っていい?」って連絡して、「俺ちょっと出てるから部屋に入っててくれていいよ」って返事を貰って、漸く合鍵を取り出す関係だ。

だから、エマのこの靴をプレゼントしてくれるまでの経緯が、どうしても俺は嬉しいんだ。

靴を買った→履いてみた→大きすぎる→じゃあ吉井にあげよう。

コレだ。なんて自然なんだろう!しかも靴は俺の足にぴったりサイズ。神様、ありがとう!


歌いながら、弾む気持ちで、ひときわ大きく、ジャンプ!
着地した俺の足元からは、「バタっ!」という音がしないのを認めて、エマがちょっとだけ悔しそうに眉を顰めた。

へへん。


end




珍しくプラス思考の吉井語り。24.新しい靴のつづきです。

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