新しい靴



かぽかぽかぽ。

なんだ?変な音。

かぽかぽかぽ。

気になるなぁ。見たいけど、今、すっごい眠い。
音で目が覚めてはいるんだけど、寝返りを打つのすらめんどくさい。

かぽかぽ・・・ぱたっ!ぱたっ!

うわー、すっごい気になる。何だろう。
エマさん見てきてよー、って言いたいけど、眠さのあまり口が開かない。

ぱたぱたっ!
かぽかぽ。

うっさい!
俺もだけど、エマだってまだ寝てんだぞ?起きたらどうすんだよ。あの人、ああ見えて寝起きヤクザなんだぞ?しかも八つ当たられるのは俺だ!

あれ、けど、待てよ?
ここって俺とエマの部屋だし、ほかに人がいるわけがない。
ってことは、音の主はエマさん?

かぽぽぽぽ・・・・

何してんだ?
だいたい今って何時なんだ?多分、朝だとは思うけど・・・。俺らの生活に、早起きという習慣はない。

だるい身体を無理やり捻って、なんとか目を開ける。

すると、エマさんがベッドの横で、なんか暴れてた。

足踏みして―――かぽかぽ。
跳んでみて―――ばたっ!ばたっ!

エマの足には、新しい靴。
その周囲には、たくさんの包み紙。
新しい洋服や、アクセサリーたち。

あらあら。昨日ヒーセと買い物に行ったって言ってた戦利品たちじゃないか?
昨夜、たくさん包み抱えて、ほくほくで帰ってきたけど、俺がエマの帰宅を待ちかねてじゃれついたから、開封されることがなかったそれら。
何なの、エマさん。
アレを開けたくなって早起きしたの?
子供みたいなことしてるなぁ。可愛い人だ。

「やっぱりこれ、大きすぎるなぁ・・・。あの店員、包むときサイズ間違えたのかな」

そうそう、俺もそう思うよ。
エマの独り言に、心の内で返す。
だから足踏みの度に「かぽかぽ」。飛んでみては「ばたっ!」
そんなの履いて歩いたら危ないから、ちゃんと交換してもらいなよ?

「んー・・・どうしよっかなぁ・・・」

悩むことないでしょう。あとで交換してもらうことにして、早く俺の腕の中に戻ってきなさい。

「・・・やっぱり・・・それしかないかな。高かったし、もったいないけど」

あれ?交換じゃなくて返品しちゃうの?でもそれだったらお金は返ってくると思うけど。
・・・って、思いながらも、俺の意識は再び眠りの中に堕ちていった。



数時間後、今度こそ目が覚めたときには、エマは寝室にはいなくて、リビングでコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。

「あ、吉井、起きたんだ。おはよ」
「おはよう」

もう昼だけどね。
俺はエマの隣に腰を下ろして、コーヒーを一口貰う。そして目覚めの一服のために煙草に火をつけるのを、エマがじっと見ていた。

「・・・なに?」
「これ」

問いかけに応じ、エマが背後から一足の靴を差し出す。

「昨日買い物に行ったときにねぇ、絶対吉井に似合うと思って買ってきたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

しれっと言うコノヒトの。
自分には大きすぎた靴の処分方法と、さっきの「もったいないけど」の意味が判った。

プレゼントしてくれんのは嬉しいけど、そんな理由かよ!
まったく、いらないものは俺に押し付けたらいいと思ってんじゃないの?
だいたい、「もったいないけど」ってどういうことよ?
くそぉ、コケにしやがって!
言ってやる。今日こそハッキリ言ってやる!

「エマ」
「んー?」
「ちょっとこっち向きなさい」

わざわざテレビを消して、身体ごと無理やりエマをこっちに向けさせたら・・・・・・・・
何故か、エマが吹き出した。

「吉井・・・そんなに靴、嬉しかったの?」

―――――――――――・・・・・・・・・!?

慌てて、消えたテレビの画面で自分の顔を見たら、びっくりするほどニヤけてた。

うるさい!どうせ嬉しいんだよ!

だって、コレがあなたからの、初めてのプレゼント。


end




好きな人になんかしてもらうと、理由はどうあれ嬉しいの。
そんでまたしても、SSにあるまじきことに
20.ジャンプ!に続きます。

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