許さない |
確かにまだ大学生とはいえ、ロックバンドでドラムなど叩いている俺と、同じくギタリストの兄貴が、実家の親元で仲良く暮らしているというのは、こってり化粧して、一度メジャー・デビューしたことも考え合わせれば、確かにイメージに合わないかもしれないけれど、現実なんだから仕方ない。 でも、前のバンドがダメになっちゃって、もしも兄貴が一人暮らしなんぞしてたら、彼の生来の浮世離れした性格上、間違いなく野垂れ死ぬことになるか、究極の悪い男として、2〜3人の女に刺されかねない乱れた生活をおくる可能性があることを考えれば、現在のこの環境で、食いっぱぐれもなく、そこそこ人道的に生きていられるので、悪くないと思う。 俺は俺で、今後の生活のことを考えれば、やはり無駄金を浪費する気にはなれない堅実派だし。 ・・・っていうのは言い訳で、兄貴と一緒にいたいブラコンなんだって、たまに言われることもあるけれど、最近は「それのどこが悪い!」と開き直れるようになってきた。 俺は兄貴が大好きだ。 今更それを隠そうとは思わない。 あの魔性を持ちつつも愛らしいキャラクターは、叶うなら嫁にしたいくらいだと、本気で思う。 あ、なんか話が逸れてしまった。 いや、けれどやっぱり生活の苦労が無いというのは、心に余裕が持てるということで、もし兄貴が貧困に喘いでいたとしたら、『エマ』なんて名前がしっくりくるような可愛らしい容貌も、どっかのほほんとした人格も、保つのは難しかっただろう。 同じミュージシャンでも、苦労が滲み出たタイプのヤツっているもんな。 筆頭に挙げるとすれば、やはり今、俺が所属するバンドのヴォーカリストだろう。 ロビンと名乗る、外見は見事にキレイな男だけれど、如何せん、生活の荒れっぷりが彼を苦労性にしている。 ベースのヒーセにも、同じコトが言えるかな。 ま、あの人は生来器用だから、何だかんだと上手くこなしてるけど。 それでも、二人に共通しているのは、極端な人見知りだ。 これは持って生まれた性格もあるだろうが、俺はやっぱり苦労した人間故の、後天的事項だと思ってる。ロビンに至っては、ウチの可愛らしい兄貴とさえ、うまく打ち解けられないらしい。 それに引き換え、俺は、心配事といえば、今のバンドに兄貴が正式加入してくれるかどうかっていう、それに尽きている。 俺としては、前のバンドに引き続き、兄貴と一緒にやれたらいいなって思ってるんだけど、どうも兄貴はロビンと反りが合わないらしく、事ある毎に「辞める」と言い出す日々だからだ。 あれ? そういえば、ここんとこ・・・・1ヶ月ほど、兄貴の「辞める」を聞いてないけど、どうなったんだろ? 正式に加入するっていう話も、相変わらず聞かないけれど。 ともかく、そのことが気がかりなくらいで、言い換えれば実家暮らしというものは非常に居心地のいいものなんだけれど、どうしても制約が付きまとうのがネックだ。 食事の支度や諸々の都合上、無断外泊や夜中の騒音などは、ご法度である。 ある程度のルールは守るのが、家族とはいえ共同生活が円滑にいくコツだ。 だから、今日のように両親が旅行に行ったりすると、俺も兄貴もほっと羽を伸ばす。 俺は今日は友達の家に泊まって飲み明かす予定だし、兄貴も兄貴で昼間からどこかに出かけてた。 深夜になって、酒が足りなくなり、俺は友達と一緒にコンビニに行った。 友達のアパートは、ウチと近所なので、コンビニに向かう道程でウチの前を通ることになる。 ・・・あれ? 電気ついてる。 兄貴、帰ってるのかな? ちょっと気になったけど、まあいいか、と通り過ぎ、コンビニに向かった。 |
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