「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2011年01月17日


アーネスト・ヘミングウェイ「殺し屋」

1899(明治32)生
1961(昭和36)没。第一次大戦に参加して、重傷を受ける。

その後、セスナ機を自ら操り、二回にわたり事故し重傷する、その後遺症に悩まされ、ライフル自殺。
ノーべル賞作家、多節体の文体を嫌い、簡潔な文体で、会話も短く平易である。

最もアメリカ的な作家といえる。その作品は、生前は常に、ベストセラーのトップだった。今なお、人気は衰えない。
知的なもの、空想的なものを全く取り去り、即物的に描いた。その簡潔な文体はヘミングウエイ独自のものである。

作品はどことなく哀愁の余韻を帯び、読者を惹きつける。
ヨーロッパ大陸文明の閉塞的、陰湿な印象に比較して、新大陸の、開放的、開拓的な明るさがある。

バルザックは欲望を、スタンダールは権力慾を、ドストエフスキーは罪の意識を、トルストイは禁慾を描いたとすれば、ヘミングウエイは、男の闘争本能を描いたといえるのではないか。

 アフリカでの狩猟、カリブ海の漁、スペインの闘牛、アメリカのボクシングなど、命がけの闘争や冒険活動を好み、題材とした。内戦のスペインに入り「誰が為に鐘がなる」という作品もある。ハードボイルド作品の原点とされる。

「キリマンジャロの雪」は、短編ながら、名作だ。アフリカの大地で、ハイエナに襲われる恐怖を描いている。映画(グレゴリー、ペッグ主演)が評判となった。その他、作品は、多く映画化された。

「老人と海」は、晩年の代表作で、カリブ海の巨大なカジキマグロと、老人が、孤独に耐え、幾日も死闘する感動的な長編だ。

「殺し屋」は、60枚くらい。(The Killers)

(ストーリー)  ヘンリー食堂へ二人の男が入ってくる。黒い胸の詰まったコートと山高帽といった風体である。ジョージと、ニック少年の二人に、「常連のアンダーソンが六時に来る筈だ、来たら、射殺する」と予告して、調理人サムとニックを縛りあげる。「ほかに客が来れば、断れ」と命令する。短く詰めたショットガンを、スツールに立て掛け、待ち構えている。

 二人の殺し屋は、時間がきても、アンダ−ソンが現れないので時間稼ぎか、盛んに喋りまくる。
 結局、アンダーソンは来ない。殺し屋達は、あきらめて去る。

 ニックは、アンダーソンの居る宿に、殺し屋が来たことを告げに行く。「警察に知らせましょうか」しかし、アンダーソンは、殺し屋のことを既に知っていて、何をしても、もう無駄だと、諦めた風に答える。シカゴの暗黒街の闇の掟の世界である。

 書き出し。

ヘンリー食道のドアが開いて、二人の男が入ってきた。という、うまい書き出しで始まる。

サルトルにもこういう書き出しの作品があり、サルトルの文学論でも、読者を引き込む、うまい書き出しとしている。情景描写抜きに、いきなり、核心に入っていくやり方だ。

 会話主体(しかも、極めて短い会話の応酬)で構成している。この会話主体を、良しとするか、煩わしいとするかの評価は分かれる。

 しかし、ここでは、アウトロー二人の、脅しのきいた、事件を予感させる意味ありげな、会話の応酬が面白さであろう。裏切り者は消せが、シカゴの暗黒街の掟であろうか。

 殺し屋に狙われている、ボクサー崩れの男の不安な心理を、内面描写をせずに、外面描写で読者に想像させる。

 簡易食堂で射殺など、構成的には、ちょっと無理かとも思うが、その無理を感じさせない。

 少年ニック、アダムスは、ほかの作品でも多く登場する。ヘミングウエイ作者自身の分身であろう。短編の多くは、ミシガン湖西北が舞台である。

私は、この作品の劇化を、無名の劇団の一幕物を観劇したことがある。

<例会で出た意見>

@数名から、へミングウエイとは思えぬ、違った印象の作品だとの感想があった。
 確かに、かなり毛色の違った作品である印象は否めない。28才頃の作品で晩年の 「老人と海」などに比較すると、若い荒削りな点も見受けられる。会話主体である。

Aムダを削ぎ落した省略の利いた作品である点。
何故殺し屋に狙われるのか、といった読者の、ちょっと知りたい点は、全く触れても いない。想像させる。意図的に省略されたものだ。ターゲットの、ボクサーの何故か 諦めきった様子が印象的である。これが書きたかったのだろうか。
 おそらく、マフイアのボスの八百長試合の命令を裏切った者の末路を知っているの であろう。

B翻訳者次第で、別の作品かと思ったくらいだ。
 大久保訳、鮎川訳の差である。翻訳でかくも違うのか。原文の参照、検証も行なった。

C日本の私小説と比較する意味で、大いに参考になったという感想があった。
 両極にあり、良い比較ができる。

D冒険好きの、いかにも男性的な作家らしい、その自殺も、いかにも彼らしい。

E逆に、女性側からは、よく理解できない点がある、との感想があった。

F人気作家だけに、参加者は、皆それなりによく読まれていたようだ・・・等々。

(浅丘記)

(文学横浜の会)


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2007 文学横浜