「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
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2012年12月01日


水上勉「雁の寺」

 ある評論家は水上の事を「上手に嘘がつけない、真実を不器用に語る作家」と評している。

「雁の寺」は正に若狭の極貧の生活から食い扶持を減らすために10歳で寺に出された水上少年そのものが化身化された物語である。前半のお寺の内部で繰り広げられる陰湿な人間関係の描写は、遠藤さんが純文学として読めたというほど、体験に基づく圧倒的な迫力を持って描かれている。

毎朝手首に結んだ紐で起こされた屈辱的な仕打ち、食事の差別、のぞき見た淫らな閨房のことなど、屈折した少年の心は和尚に対する憎悪から殺意と代わっていく。そのあたりがいまひとつわかりにくいという意見が多かった。

トンビの巣の中に半殺しの蛇やかえるが蠢いていたという描写は少年に宿る残忍性嗜虐性を暗示している。そのことに気付いていたのは殺された和尚の妾「さと」だけだが「さと」の描き方も物足りないという意見もあった。

「金閣寺炎上」「五番町夕霧楼」「飢餓海峡」ほか水上文学には日陰の人たちの暗くて悲しい作品が多い。豊かだった時は過ぎ、これからの厳冬の時代に読まれる本である。

    以上、山下記

(文学横浜の会)


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