夏目漱石作「門」
まず、出席者から各人約5分ほどの読後感想が語られた。
文豪の、練達の文章からなる名作であることには異論はなかったが、こんにちから見て気になる点として指摘があったのは、
(1)冒頭の数章のストーリーの分かりにくさ、
(2)主人公二人(宗助と御米)の困難な愛の始まりと経緯が、第14章になって初めて明らかにされること、
(3)安井と内縁関係にあったと思われる御米と宗助が愛し合うようになったのは、どういう原因・経緯があったのかが全く語られていない、それがこの作品を分かりにくくしている、
(4)二人の愛はそれほどまで社会から指弾されるべきことなのか(少なくとも、当時まだ高名ではなかった谷崎潤一郎はそう批判している)、
(5)人生相談的な悩みを背負った宗助を禅に向かわせるという漱石の発想は突飛すぎないか、などである。
以上の論点の他に担当者の観点からは、
(イ)『それから』との連続性と非連続の問題/
(ロ)事柄を印象的に語るため、出来事の叙述の順序を、出来事の時間系列とは変えるという物語構成上の漱石の工夫が上記(1)(2)を生んだ/
(ハ)この作品で漱石が取り上げている倫理的な問題性は当時(1910)と今日では大きく違っている(上述の谷崎潤一郎の批判は現代に近い)/
(ニ)主たるテーマとして描出されているのは、
@<当時の因習的・儒教的な社会的拘束>と<近代的西洋的自己主張・人間性回復の要求>との葛藤、および、
A業を背負ってしまった二人の静謐な愛の生活(互いに対する深い思い遣り)、および、
B叔父家族の金銭的エゴイズムと安井を苦しめた二人の愛のエゴイズム等々である/
(ホ)上記(5)の感想は、禅によって@の葛藤に真っ正面から取り組もうとした宗助は、宿命的に、滑稽な姿にならざるを得ないことを示している。
(最後に、時間的な制約のため充分に議論出来なかったとの声あり)
以上、岡部記
(文学横浜の会)
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