「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2014年05月12日


「可哀想な姉」渡辺温

 今月の読書会担当者がテーマとして出した作家が「渡辺温」と聞いて、初めて聞く名前だった。 他の仲間も知らないと言う。Web上で公開されている「青空文庫」にも載っているから、 知る人ぞ知っていた作家なのだろうと興味を持った。

どんな作品を読むかは人それぞれだ。 好きな作家の作品、マスコミ上で喧伝された作品、友人知人に勧められて、 或いは本のタイトルを見て衝動的に購入して、等と動機は色々だ。読書会でテーマに挙げられた作品を読むのもその一つだ。

提案してくれた担当者が、仕事の関係で、残念ながら読書会に出られなくなった。 担当者を変えて他のテーマを、との考えもあった。 でも、せっかく提案してくれた作品で、それも全く知らなかった作家だけに、この機会でなければ読まないだろう。 そんな思いもあって読書会で取り上げることにした。

最初に提案してくれた会員にはさぞ想いのある作家、或いは作品なのかも知れないが、 我々としては「読むきっかけを与えてくれて有難う」と思う。

ウィキペディアで調べたのだが、
「渡辺温」は明治35年に生まれ、昭和5年に(27歳で)列車事故に遭い、亡くなっている。 横溝正史や谷崎潤一郎とも接点があり、将来を嘱望されていたようだが、若くして亡くなったために残された作品は少ない。

今回取り上げた「可哀相な姉 」(新青年 1927年10月号掲載)はその中の一つだ。

 最初に読んだ感想は不気味な雰囲気があり、ひきつけられる作品だとの印象を持った。

小説のあらすじは「両親のいない姉弟が場末の一間に棲んでいる。しかも姉の母親は、 私の父が、父のの姪(私にとっては従姉にあたる)に生ませた。 そうした事だけでも通常とはかけ離れた設定だが、姉は唖娘である。 生活は、姉が働いて私を養ってくれたが、私は毎晩夜更けから帰ってくる姉が何をしてお金を稼いでいるのか知りたくなる。 姉は私が大人になるのを嫌悪していたが、姉の仕事は、はっきりと書かれてはいないが<売春婦>。 私は姉の客を殺して、犯人は姉であるように仕組む」と言ったところか。

以下は、読書会で出た主な発言内容

・現実的な記述には乏しいが、作品に惹きつけられる。
・小説の内容としてはサブカル的なのではないか。
・殺伐とした内容になっているのは時代を反映しているのではないか。

・最後がドキリとさせられる。
・私が姉の客を殺すのは解るが、そのナイフを気絶した姉に握らせるのは理解出来ない。
・結局、私は姉の呪縛から逃れたかったのではないか。

・美的な象徴的な世界、独特な小説世界を創っている。
・怪奇、ミステリー小説の流れではないのか。
・文学とは悪を書くものだとしたら、悪をストレートに書いてある。

・作者は姉を可哀想とは思っていないのではないか。寧ろシニカルに見ているいるのでは?

最後に、このような作家を提案してくれたのを感謝!
こう言う機会がなければ多分読む事もなかっただろう、
と集まったメンバーの共通した意見だった。

    以上、金田記

◆次回
 6月7日(土)
 テーマ;「ナポレオン狂」阿刀田高
 担当者:河野さん

(文学横浜の会)


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