「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2015年01月13日


西村賢太

「暗渠の宿」

担当者;佐藤ル

 西村賢太は1967年(昭和42年)生まれで現在47歳。
第一作は2003年(35歳)発表の「墓前生活」である。
以後、04年「けがれなき酒のへど」が「文学界」下半期同人雑誌優秀作、06年「どうで死ぬ身の一踊り」が、 第134回芥川賞および三島由紀夫賞候補、「一夜」が第32回川端康成文学賞候補となる。 07年「暗渠の宿」で第29回野間文芸新人賞受賞。08年「小銭をかぞえる」で第138回芥川賞候補、 09年「廃疾かかえて」が第35回川端賞候補。10年、「苦役列車」で第144回芥川賞を受賞した。

氏は今年初めの東京新聞のインタビューで「書きたいネタに一生困らぬ自信がある」 「すべての雑誌に『いらない』と言われるまで徹底して私小説一本でいきます」と公言している。

作品群は文体も含め強烈な個性で支えられた私小説である。 氏は「藤澤清造」という(明治22年〜昭和7年)精神に破綻をきたし昭和7年に芝公園で身元不明者として凍死した 無名に近い私小説作家に自己を投影し固執している。 石川県七尾の清造の菩提寺に初めて墓参に行く様子から始まり、 新しい墓石が造られたゆえ不要になり縁下に置かれた朽ちつつある木の墓標を預かり暮らす日々を「墓前生活」では書いた。

今回の読書会で取り上げた「暗渠の宿」は、清造のその墓標がガラスケースに収まり、 氏の収集や研究が進んでいる様子も書かれているので、「墓前生活」の続編とも呼べるものでもある。 しかし内容は、普段から女性にもてない主人公が、初めて年下の女性と同棲することになり、 ああでもないこうでもないとの賃貸住居探しから始まる私小説である。

DVを含め4ヶ月間の生活が生々しく書かれているのであるが、「暗渠」とはこの小説で何をさすのであろう。 考えれば考えるほど、わからなくなってくる西村ワールドであった。 個人的には、氏の作品の中で芥川賞受賞作「苦役列車」を一番評価する。

同人評

☆漢和辞典を引きながら読まなければならなかった。 私小説、妄想小説。2度3度読みたいとは思わないが自分には書けない小説であり読む価値はある。

☆面白かった。家族がしっかり書けている。自己暴露、自分のダメさ加減を脚色していない。 彼女は素直で明るい人物として描かれ好感が持てる。藤澤清造の墓標を大事にすることに自分の存在意義を見出している。

☆面白かった。性格は幼児性が際立っている。ありのままを描き何のテクニックも無い私小説。文体は擬古文である。 エネルギーを感じる。

☆精神が清潔。従来の私小説は主人公が弱々しいが、この小説は違う。社会のルールに乗らない居直りも突飛。

☆私小説という型を取りながらも露悪家。頭でわかっていても感情が抑えられない「血」や「業」を感じる。 クラシカルと現代の若者が共存しているユニークで得がたい小説家だ。

☆清造への一途な思いはわかるが好きにはなれない。作者には知識があり読みやすかった。

☆初めて読み驚いた。暗渠のイメージは、暗い、不潔、くさい、汚水などマイナス要因が浮かぶ。文体、内容共に賞狙いの作者の意図が丸見え。作者がなぜこれほどまでに清造にのめりこむのか、こっけいな気もする。

☆評価しない。エレファントマンなどの「見世物」のようだ。怖いもの見たさ、客が来るから商売が成り立つというような隙間産業の感じがする。露悪家であり人間として最低なことを吐き出している。言葉のクラシカルさの側面からはハッタリが垣間見える。清造に対しては、原理主義的、ピンポイント的で怖さを感じる。

☆面白かった。こっけい小説。こっけいの中に悲壮感、悲哀、幼児性、短気、暴力性がある。生きる糧が清造なので清造がいなければもはやこの世にいなかったかもしれないし、現代では生きてはいけない人かもしれない。常識とか正義で小説は読んではいけない。

    以上、佐藤ル記

◆次回の予定;
 担当は杉田さん。
 日時;2月7日(土)17時30分〜
  テーマは「一夢庵風流記」 (新潮文庫、読売新聞社) 、隆慶一郎(著)
  書店、AMAZON,「日本の古本屋」又は図書館等で…。

(文学横浜の会)


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