「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2015年09月06日


吉村昭

「破獄」

【全体を通して】
面白かった、面白くなかったに二分された。
女性には受けが良かった。
文学的価値に一石を投じた作家である気がする。
記録、取材メモに重きを置き、客観的見地に徹底した作家。
人間の内面には敢えて向き合おうとせず、判断を読者に委ねている。
そういった意味では、「共感」を求める読者には味気ない作品である。

【読者の感想】
(良い感想)
・すごく面白かった。さまざまな方向から浮かび上がってくる小説。控えめな表現だから浮かび上がるのだろう。
・とても面白い。主人公は天才的な能力の持ち主。
・看守の気持ちを巧みに操る。精神的なバトル。ホラーな感じがでている。
・エピソード(小鳥の話、紙幣を御守り代わりにする)が主人公の本質を表す。
・主人公佐久間の執念深さ、エネルギーに驚く。
・戦前〜戦後の世相を反映している。
・コミュニケーションのとり方、不器用な人間が描かれている。
・能力の発揮する場所を反発に向けるしかなかったことは悲しい事。

(悪い感想)
・能力を発揮できなかった。
・記録文学、歴史文学
膨大な資料(恐らく著書の十倍以上)の中から、どれを使い、どれを排除するのか? 
それを決めるのが作家吉村昭の真髄であり、彼の恣意的感情が働いている。
・犯罪、歴史、記録などいろいろな要素が入りすぎている。
・人生を描くことになると浅い。
・人間が描けていない。
・脱獄の史実、方法、その理由に学ぶことが無い。
・主人公に魅力が無い。
・看守の気持ちになるので、人間の悲しみしか伝わない。
・吉村昭の小説にはユーモアがない。遊びがない分、面白みに欠ける。

(その他)
■吉村昭 直木賞・芥川賞候補の回数
直木賞候補 計7回
芥川賞候補 計4回
直木賞候補回数は今も抜かれていない。
この回数の多さ、そして結局どちらの賞も受賞できなかったことが吉村昭という作家を象徴している。
ただ、彼の書いた著書は今でも売れている。
それは、彼の書いた著書に歴史や史実に対しての著者の取材力の深さ、細やかさが滲み出ているからであろう。

(担当者所感)
・主人公の相手の裏の裏を読む力に驚愕。
・フィクションにすればもっとストーリー性が生まれ面白くなるだろう。
ノンフィクションにこだわれば、犯罪やその動機というのはどうしても身勝手なものに感じる。
あえて作家は、前者の誘惑を絶ち切り、後者の方を選択した。
きっと、吉村昭はこの佐久間こと白鳥由栄の一筋縄では行かない理解に苦しむ言動に興味を抱き、それを解明したいという欲求を満たすために、調べ上げたのではないだろうか?

    以上、遠藤記

◆次回の予定; 担当は遠藤さん。
  日時;10月3日(土)17時30分〜
  テーマは「光と陰」渡辺淳一、文春文庫

  AMAZON,「日本の古本屋」、書店又は図書館等で…。

◆その他
 (1)11月以降の担当者(予定)は山下さん、篠田さんの順です。

 (2)47号の締切は9月末です。

(文学横浜の会)


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