「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2015年10月04日


渡辺淳一

「光と陰」

 急遽担当となり、何を取り上げるか本棚をみて、文庫本の中から「光と陰」が眼に止まった。作者は渡辺淳一。

渡辺淳一と言えば最近、と言ってももう昨年になるのか、亡くなった作家で、晩年は大人の小説とでも言うのか、 エロ小説家とのイメージがあった。と言う訳で作家の名前は知ってはいたが、積極的に読む気にはなれなかったが、 「光と陰」だけは何かで知っていて、一度読みたいと思っていた。
それが古書店で偶々眼にして、購入したのがこの文庫本だ。もう何十年も前の事だ。

読書会でも話題になったが日経新聞に渡辺淳一の「失楽園」等の一連の小説が連載された当時、 出勤途中の車内や社内で日経新聞に目を通す勤め人が増え、新聞の発行部数の増加にも貢献したと話題になった。
新聞連載された一連のロマンス小説と言われる「化身」「失楽園」「愛の流刑地」は映画化、 テレビドラマ化されて大胆なシーンで話題を呼んだ。

その頃から渡辺淳一の名前も広く知られるようになった。
また「鈍感力」と言ったエッセーでも一時話題を集めた。

 さて、「光と陰」だが、作者の出世作ともなる直木賞受賞作だ。
内容は、日本が近代化する初期、国を形造るに当たって避けて通れない内乱と言える「西南の役」に国軍として戦った、 小武と寺内のその後の人生を、所謂、「光」と「陰」に例えて、人の「運命」や「業」を鮮やかに描いた短篇だ。

陸軍下級幹部養成所で同期だった小武と寺内は、同じように腕を負傷して、いずれは切断しなければならない運命にあったが、 担当医のふとした心の変化から、たまたまカルテが先にあった小武が負傷した腕を切断して、 寺内は腕を身体につけたままにしておく処置がされた。 当然、小武は負傷兵として軍を離れて予備兵に組み込まれる。寺内は片腕は機能しなくてもそのまま陸軍に残った。

陸軍に残った寺内はトントン拍子に出世して、陸軍大臣、総理大臣にまで出世する。 一方、小武は陸軍の附属施設、偕行社の事務長になるが、 寺内との違いに複雑な感情を持つ。
自分の腕が切られたのと寺内の腕が残った違いを当時の医師に聞いて、そんな事で自分が軍を離れたのかと運のいたずらに悶絶する。

この作からは作者が後に、大胆な愛を描くロマンス小説家になろうとは想像できない。

読書会参加者からは人の運・不運を光と陰として鮮やかに描き、男の嫉妬心、出世欲がゆがんだ形で、 つまり陰として表現されているとの意見も多くあった。

その他の意見としては、
・ストーリーが淡々と語られている。
・ストーリーの先が読めて、意外な展開がない。
・小武の書き方が余りに暗く、良い事もあった筈で、感動がない。
・作者が外科医と言う事もあって、手術の場面がリアリティがあり、気持ちが悪い。
・作中、「現在の医学では〜」等の文言があり、作者の顔が出て来るのは良くない。
・医者の気まぐれで切断手術はしないで、実験的に付けたままにするとは、医者のモラルの面ではどうなのか?
等の意見もあった。

    以上、金田記

◆次回の予定; 担当は山下さん。
  日時;11月7日(土)17時30分〜
  テーマは「宴のあと」三島由紀夫、新潮文庫      AMAZON,「日本の古本屋」、書店又は図書館等で…。

(文学横浜の会)


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2007 文学横浜