「文学横浜の会」
読書会
評論等の堅苦しい内容ではありません。2016年01月11日
村上龍 「55歳からのハローライフ」の中の「結婚相談所」
担当(佐藤ル)
2016年の年初の読書会は、昨年から続く記録的な暖冬の正月明け9日に、新入会員1名を迎え12名の参加で行われました。
今回、村上龍作品を取り上げた理由は、かってW村上と呼ばれ比較対象された村上春樹がノーベル文学賞の候補に何度も挙げられ
日本を代表する小説家として脚光を浴びているのに対し、龍の方はTV番組「カンブリア宮殿」の司会は別にして、
最近はどのような作品を書いているのか興味を持ったからでした。
最新作は15年発表の「オールドテロリスト」ですがこれは長編ですので、
その前作5つの短編からなる「55歳からのハローライフ」の中の「結婚相談所」にしました。
武蔵野美術大学在学中の24歳の時に処女作「限りなく透明に近いブルー」で芥川賞を受賞し
センセーショナルに登場した村上龍ですが、5年後に「コインロッカー・ベイビーズ」で野間文芸新人賞、
「インザ・ミソスープ」で読売文学賞、「共生虫」で谷崎潤一郎賞、
「半島を出よ」で野間文芸賞と毎日出版文化賞など国内の大きな賞をほとんど受賞。
その後も「愛と幻想のファシズム」「希望の国のエクソダス」など問題作を書き続けています。
その彼も還暦を過ぎもうすぐ63歳です。40年近く精力的に時代を見据え多大な作品を書き続けている姿は、
昭和20年代生まれの同世代として頼もしく思います。
この作品は60歳手前の熟年離婚を経験した女性が一人で生計を立て細々と暮らしている姿を描いています。
他の4作品もどこにでもいそうな老いに向かう中高年を主人公にした物語です。
昨年は「下流老人」なる言葉が注目されましたが、今の時代を象徴している作品群だと思いました。
就職を体験していない作家ですので、取材は綿密にしたのであろうとの同人の意見も多かったです。
ただし、深さがない、ステレオタイプであるとの意見も複数出ました。
離婚に関しても主人公がなぜ離婚に至ったのか、はっきりした理由が書かれていないという意見もあり、
またその心情にも違和感を持つとの意見も出ました。読み物としては面白いがインパクトがないとの意見も複数ありました。
TVドラマになったので小説よりも先にそれを観たが、俳優が適役でとても良かったとの意見も聞かれました。
今回、ほとんどの同人が処女作「透明に近いブルー」を読了もしくは一度は手に取ったことがありました。
ただし、その後の彼の作品を何冊も読んだ方は少なかったです。私もそのうちの一人ですが、
今後どのような作品で時代を表現していくのか興味深く見守っていこうと思いました。
彼は、あるインタビューの中でこう言っています。
小説家としての代表作は1年間集中して書いた「コインロッカー・ベイビーズ」であり、
自分自身が完全に納得できるものであった。
作家としてやっていく上で初めて自信を持った作品であり不安になった時は、いつでもこの作品に戻る。
すると20代でしか書けなかった作品ではあるが主人公のキクとハシが自分を支えてくれると。
今回、村上龍を取り上げることで、モノを書く上での姿勢も学ぶことが出来ました。
当番になることで作家研究ができます。今回も読書会輪番制に感謝です。
以上 佐藤ル 記
◆次回の予定; 担当は佐藤直さん。
AMAZON,「日本の古本屋」、書店又は図書館等で…。
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