「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

これまでの読書会

2017年01月11日


山崎豊子

「死亡記事」

担当(杉田)

作者が新聞記者時代に知った、ある剛毅な新聞人をモデルにした小説である。空襲下の最中に地下室の床に伏して、 その静かな松葉杖の音を聴くくだりが印象的な作品。

私が受け取った同人の感想
・構成が巧みで面白い。
・抑制のきいた文章である。
・行動をもって人物を表現し、説明的な性格描写はしない。
・設定がうまい。松葉杖の主人公は「絵」と「音」になる。
・幹から枝、枝から葉と丁寧な表現である。

・女性の理想の男性として主人公が描かれている。脇役の男性の嫉妬心も面白い。
・「大地の子」を読んだが、作者はスケールの大きい社会的人間ドラマを書く。
・作者の感覚は男性。男が男に惚れるように、尊敬できる魅力的な男性を書いている
・「工場生産」(スタッフに取材報告書を作成させ、これを基に小説を作る)を採用した人。
・取材スタッフへの資料の作成指導は厳しいものがあった。事故を起こした会社への聞き取りに「その時どんなクレームがあったか、どのような口調で、絵、音、匂いはどうだったか、どう感じたか。それを聞いてどう思ったか」と現場のニュアンスまで報告するように執拗に聞くように言われた。

・作者の小説では抑圧された主人公が奮起し、魅力ある人物となる事が多い。
・面白いし、文章がうまい。
・最も敬愛する作家。読ませる記事にするという新聞記者の眼がある。
・精緻かつ簡潔な文体。
・面白く読ませるし客観的に書いていて勉強になった。

結果は表現こそ違え、全員一致して好評であった。作者は船場の暖簾のある老舗のお嬢さんに生まれた。暖簾という信用こそが命をかけて守るべきものである。

「山崎豊子」という質の高い小説群は暖簾であり、時代の波にもまれながら暖簾を守るために攻め続けた一生だった。戦時下の新聞社に入った作者は、大阪大空襲で生家を消失し地下鉄ホームに避難し九死に一生を得た。勤める新聞社では相かわらず「大本営発表」一色である。その時点で、嫌でも国家と戦争と庶民のことに思いを巡らせたに違いない。

終戦後の価値観の反転に、人一倍人間に興味のあった作者はさらに視野を拡げた。その体験は文体を緊張感のある精緻かつ簡潔ものとさせ、巨視的かつ質の高い小説群を生んだ一つの背景だと思う。

以上

以上 杉田 記

◆次回の予定;
  日 時;2月4日(土)17時半〜
  テーマ;「くっすん大黒」町田康
  担当者;佐藤ルさん

  

(文学横浜の会)


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2007 文学横浜