「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2018年01月16日


池澤 夏樹

「ステイル・ライフ」

担当(杉田)

 嫁いだ娘が残した本棚にあった一冊が本書であった。 バブル初期の頃の芥川賞作品で、前に読んだ記憶では謎めいて面白く、特に飲み屋のコップの水に、 降り続く宇宙からの微粒子とその反映のチェレンコフ光を探す会話の部分だけは覚えていて、 文学横浜読書会の課題として提出した。

あらすじは、染色工場でバイトのぼくは、仕事の重大なミスをして、ひどく叱られる。 そこに、佐々井が現れ、ミスの原因は私だと言ってくれて、ぼくは助けられる。 彼に飲み屋に誘われて宇宙や微粒子の話を聞く。彼との交際の中で、ぼくの世界を見る視線は変わる。彼は謎の多い男で、 公金を横領し逃げていて、株のトレードで返済資金をえるため、3ヶ月間の名義借りと、株と現金の運搬をぼくに依頼する。 彼は見事に稼いでみせる。そして、消えるように去ったあと、ぼくは彼を遥か彼方に光る微小な天体のように想う。

 同人の感想は、多くの人が初読(二人が再読)で、面白かったと言う人が多かった。 ただ、「理屈っぽい。出だしは頂けない」「佐々井の実在感がない」との不満もあった。

なぜ面白いのかというと、ミステリーの手法を取り入れているのだという。 最初に謎を掲げ、解決するように見せて、さらに謎をつくって終わる。

 科学が嫌いな人には要らぬ説明ばかりの欠点だらけの小説であっても、童話、ミステリーの長所があって、 何よりも詩的に、大げさでない淡々とした文体で、ありきたりでない世界を書けたことが評価された。

 本書は初めてワープロで書いて芥川賞を受賞した作品だという。30年前はワープロの出始めだった。 当時の「株」のデイ・トレードで日本金融資本主義の一面を取り上げ、 後にノーベル賞を受賞する微粒子の科学の話を書いている。その後の30年の変化の始まりだったことが今にして判る。 文学は確かに時代を反映していた。

今が時代の変わり目と言う人が多い。AIやブロック・チェーンは働き方を変えるらしい。 どんな文学が生まれるだろうか楽しみだ。今後、30年、子供達の未来は、どんなだろうか。 それぞれに輝く、明るいものであってほしい。


以上 杉田 記

◆次回の予定;
  日 時;2月3日(土)17時半〜
  テーマ;「日の名残り」、カズオ・イシグロ

  担当者;成合さん

(文学横浜の会)


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