「文学横浜の会」

 読書会

評論等の堅苦しい内容ではありません。
小説好きが集まって、感想等を言い合ったのを担当者がまとめたものです。

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2018年09月03日


三浦綾子

「氷点」

担当(遠藤)

今回の読書会当番に際して、ちょうど9月度に回ってきたこともあり、長編小説を課題にしても良いかなと思った。 それならば、自分がもっとも記憶に残る、そして血縁というものの存在を考えさせる本作三浦綾子著「氷点(上下)」 にしてみようと考えた。本作は、作者三浦綾子が「朝日文学賞」にかけた渾身の作品である。

全体を通して以下内容を意識してみたいと思った。
■設定の面白さ
■キリスト教的要素
■著者の一番の思い

【良かった点】

・ラストがすばらしい。
・作者の様々な名作を読んでいる造詣の深さに感銘。
・設定のつくりがうまい。
・面白かった。
・82刷までされており、長く読まれている。
・連載を意識していた。
・読後感が良い。
・大衆に迎合する面はそつが無い。
・インパクトの小説。
・力を持った小説。
・韓国ドラマのように展開が速い。
・大衆文学である(読者を引っ張って、読ませるものを持っている)。
・人を信じることの難しさが描かれている

【悪かった点】

・西洋名作のいいとこ取りである。
「罪と罰」「ボヴァリー夫人」「嵐が丘」など

(キリスト教関係)
・大きなテーマ、様々なテーマを欲張りすぎ(原罪・汝の敵を愛せよ)
・原罪がテーマのわりに、中身が無い、浅い。
・キリスト教を押し付けている。
・同じキリスト教小説であれば遠藤周作の作品が良い。
・作者の戦前の教師時代(軍国主義教育)の原罪を反映している。

・主人公が類型的である。
・犯人の子供を引き取るところに違和感(そんな冒険をするだろうか)、やりすぎ。
・表現が単調である。
・夏枝の不倫に無理があると感じた。
・「殺人者の血」などあるだろうか。
・文学として読むものではない
・書き手の戦略が見え隠れして嫌だ。

【所感】

本作品を「大衆小説」であると考えれば、小説の販売数、テレビや映画で何度も放映されていることから、成功していると言える。
読者は主人公陽子の立場になり、継母のいじめに耐え抜く勇気をもらい「がんばれ!」と言うエールをついつい送ってしまうのだ。

ストーリー展開も速いので、飽きないし、その後の展開がどうなるのかを気にしてしまう。
キリスト教の「原罪」がテーマになっていると言われる。それに関してはキリスト教信者にとっては浅いと言わざるを得ないだろう。ただし、キリスト教とは何ぞやという人々にとっては、興味を抱かせることができる作品に仕上がっている。

これらのことから、作者は大衆小説という気軽な入り口から「キリスト教」というものを紹介し、興味を持ってもらおうと願ったのではないかと自分は考えるのである。


以上 遠藤 記

◆次回の予定;
  日 時;10月6日(土)17時半〜
  テーマ;「そうか、もう君はいないのか」城山三郎 、

  場 所;303会議室

(文学横浜の会)


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