「文学横浜の会」
読書会
評論等の堅苦しい内容ではありません。2019年12月12日
「穴」小山田浩子
担当(藤村)
文学とは、思想や感情を言語で表現した芸術作品。また芸術とは、表現者あるいは表現物と鑑賞者が相互に作用し合うことなどで、精神的・感覚的な変動を得ようとする活動、と定義される。さて文学横浜の会。今回の読書会の対象作品には、数ある芥川賞受賞作品の中から、第150回という節目の年に受賞した小山田浩子「穴」を設定した。
小山田浩子(1983〜)は広島市生れ。広島大学文学部日本文学語学講座卒業。大学卒業後、編集プロダクション、大手自動車メーカー子会社などの職場を転々とする。2013年、『工場』で第26回三島由紀夫賞候補、第30回織田作之助賞受賞、第4回広島本大賞(小説部門)受賞。2014年、『穴』で第150回芥川龍之介賞を受賞。同年、第30回県民文化奨励賞(第30回記念特別賞)を受賞。
小説「穴」に描かれている世界を一言で表すことはなかなかに難しく、また作品の構成も独特である。授賞式翌日に受けたインタビューで、作者は「穴」という作品の発想、書き方について次のように語っている。
@作品を構想した時に原点となったアイディア
A小説を書く方法
上記の内、特にAは作者小山田浩子独特の書き方と思われ、この書き方で生み出された小説「穴」をどのように評価するかは、何を作品の本質と捉えるかによって大きく意見が異なると想定される。芥川賞受賞時の選考委員の選評のばらつきもまた然りであろうか。
「嫁」と「夏」から発想された物語は、非正規雇用の辛さ、嫁と姑の乾いた関係、働いて金を稼ぎ子供を育て上げることの反発・疑問、「穴」や「獣」がトリガーとなって始まる「異界」・「亡霊」との交流、等の要素を巧妙に繋ぎ合わせた小説として世に送り出された。現在、「穴」という名前の小説は、作者の当初の思惑をも飛び越えて多様な読後感を読者に与え続けていると思われる。
≪会員の感想≫
■断片的なシーンを編集して小説として纏めたとの説明に納得できた。一言で言うとプロ好みの作品。子孫を残すためだけの虫の一生を対比させ、片田舎で「家に入る(子孫を残す)」生活に違和感を覚える主人公を描いた。その違和感を義兄の存在として表現している。
■最近の芥川賞はあまりに内省的で広い外の世界を見ようとしていない。嫁という存在に対する反発がある。きめ細かな描写がある。
■カフカ的な世界を描いたのかと思う。家族とは妙な制度で、子孫を残すための存在は何となく気味が悪い。義兄(亡霊)はこれに反発して、おそらくは自殺したと推定される。
■なかなかページが進まず10日間ぐらいかけてやっと読み終えた。登場人物が皆不気味で、特に夫の存在感が全く無い。面白いがインパクトが薄い作品。
■読後の感想を纏めることに大変苦労した。作者が何を伝えたいのか全く理解できない。不思議なものの象徴である穴とか虫の描写が多すぎる。断片的なシーンを纏めるという小説の書き方も理解不可能で、この手法による作品が大きな賞を受賞したことは驚きである。
■作者の狙いが全く分からない。当初は見えている世界と見えない世界のことを書いたとの印象を持った。ただ従来の小説のどのジャンルにも当てはまらず、全体のトーンもばらばらであり、結果オーライだったのでは。
■好きな小説の部類に入る。現実の世界と異界がシームレスに描かれており、ユーモアと不気味さが同居している。義兄は中学時代に自殺したと思われ、嫁としての主人公の閉塞感が穴や亡霊を見せている。小説の狙いをあまり深読みせずに、作者と世界観が合うようであれば素直に楽しめば良いのでは。
■良く分からない小説。文章はきれいだが、穴が何を象徴しているのか理解できない。
■本作品でも幻想的なシーンが描かれているが、武田泰淳「ひかりごけ」のような明確な主張に裏付けられた作品とは言えない。インタビュー記事を読むと芥川賞選考委員が勝手に深読みしたのではと疑ってしまう。本作品を「詩」と捉えれば合点がいく気がする。
■田舎の生活に違和感を覚えたものと思うが、結局作者が何を書きたかったのか良く理解できない。ただいろいろな作品があっても良いと思う。
■何を言いたいのか、何を伝えたいのか分からない。専業主婦になった女性の不安感・存在の希薄さを描いたとすればそれなりに面白い。嫁・姑の話としてはあまり面白くない。
以上 藤村格至 記
◆次回の予定;
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