「文学横浜の会」

 「掲示板」の内容

評論等の堅苦しい内容ではありません。
テーマになった作品について参加者がそれぞれの感想を書き込んだものです。
  

2021年02月10日


「聖夜」佐藤多佳子

<「掲示板」に書かれた内容>

「聖夜」感想F(終) 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 8日(月)08時24分53秒

 なぜかFが消えていたので、再投稿。
 感性の鋭い若者の学園物語で、さわやかな印象でした。一哉と真由美のアイコンタクトの慎ましい恋は、微笑ましく羨ましいです。
 佐藤多佳子さんの作品は、機会があったらまた読んでみたいです。

 蛇足ですが、メシアンのように、色を音として感じる人って実際にいるんですね。わりと最近、新聞に載ってました。 自分を理解してほしいと、本を出したそうです。

「聖夜」感想E 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)18時07分48秒

 最後に清水さんが気にしてらした宗教ですが。
 作者は日本特有のごたまぜ宗教に気にせず、乗ってるような気がします。
 私も無神論者だとは思っていますが、バッハの音楽も好きですし、ヘンデルのハレルヤコーラスなどをクリスマスに聞いたりすると、 感動し、心がゆさぶられます。
 それでいいかどうかは人それぞれの判断ですかね。

「聖夜」感想D 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)17時54分59秒

 舞台になっている初等部から大学までの一貫校ですが、オルガン部を始めとしたこの背景がエリートすぎて鼻につきます。あえて、 そういう舞台を選んだのでしょうが。
 この環境でも居心地の悪さや(尾崎豊などがそうなんでしょうね)、おちこぼれの子供たちもたくさんいると思います。
 一哉みたいに、この中でも際立った能力を持った少年もいて、だからこそ自己を保っていられるわけですが、 ここまでの能力を持った人物もそうはいませんね、、、。

「聖夜」感想C 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)17時45分26秒

 オルガンを通じてのオルガン部の交流、クラスメートの深井と知り合うことによってのロック系の音楽への傾倒など、 音楽を通しての癒しというのはよく描けていると思います。
 ただ、ちょっと音楽が全面に出過ぎていて、うっとうしいです。 ”調べて書くタイプ”とご自分でも後書きに書いていらっしゃいますが、調べたことを書くのが、 作者にとっては快感かもしれませんが、読者にとってはそうでもないような気がします。

「聖夜」B 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)17時33分34秒

 オルガンを始めとして、音楽や音楽を通じての交流によって壊れた一哉の心が癒されて行く、、、,そのテーマはいいと思います。

 ただ、その過程もやはり安易だと思います。たった一晩の家出で、壊れた心は一気には修復されないと思います。 もっともっと時間がかかると思います。現実的に言うと、一哉のような少年は、”性格の悪いまま”社会に出て、 仕事や結婚や子育てなどの長い時間を経て変わっていくような気がします。

「聖夜」感想A 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)17時16分13秒

 主人公の鳴海一哉は、母親が恋人と家を出ていくということで、精神の崩壊を来します。この崩壊は、離婚よりも母親が恋愛し、 家を出ていくということにあると思います。男の子にとって、母親の愛情は絶対不変なものなので、 よって立つところを失った一哉の心は、ガラスのように砕け散ってしまったのだと思います。

 それでも、一哉の家庭は崩壊していません。それぞれ傷ついているにしても愛情深い父親と祖母がいて、 オルガンやピアノのある牧師館と家はそのままです。居場所であるホームは残っているのです。

 一哉が父親を選んだのも、母親に対する幻滅と共に、母親を選ぶと、異物である母親の恋人が侵入してしまうからでしょう。 環境も変わってしまいますし。

 一哉の父を牧師にしたのは、父親の人物像をあまり説明する必要がないまま善人として設定でき、 教会でオルガンや音楽に子供の頃から触れていることにできるからではないでしょうか。

 これはちょっと安易な設定のような気がしました。

「聖夜」感想@ 投稿者:川島照子
投稿日:2021年 2月 7日(日)16時45分48秒

 一昨日、またもや投稿に失敗したので浅丘さん方式で投稿します。

 まず清水さんは女性の作家で女性の感性を大事にしている作家をよく選ばれていて、共感します。 佐藤多佳子さんという方も感性豊かな方で感心しました。

 それなのに、主人公が男の子なのはなぜか、それは、母親が恋愛して家庭を捨てる場合に、女の子が主人公では、 母親の女性性に対する反発や憎しみが激しくて、書くにあたって、収拾がつかなくなってしまうからではないでしょうか。

 男の子のほうが、心の壊れ方は、大きいと思いますが、反発心はあまりないような気がします。

聖夜について 投稿者:河野つとむ
投稿日:2021年 2月 6日(土)16時37分54秒

 小学館児童出版文化賞ですから、読者は青少年に想定されているのでしょうが、高校三年生が主人公でありながら、大人の顔が、知識が、判断が随所に垣間見られます。だから、面白かったのだと思います。私には興味のないオルガン解説に聖書談義、とても退屈してしまうと思うのですが、ついつい読み終えてしまいました。作者のオルガンに対する執着と五十歳の知恵が、読む者の倦怠感を上回ったのだと思います。

思いだしたのは、三十年前に直木賞を受賞した芦原すなおの「青春デンデケデケ」。クラシックではなくロック、オルガンではなくエレキギター、香川県の観音寺市ではなく東京山の手ですが、高校生がバンドを編成して文化祭に向けて励む構成は同じです。

しかし、微に入り細に入るオルガンの説明と自説の展開はやっぱり過剰と思われます。退屈したシーンが何か所かありました。

私のような音楽音痴の読者を逃がさないためには初期五木寛之のジャズ小説くらいの解説にしてリズム・メロデイで話を進めて欲しいものだと勝手に思ったくらいです。

もう一つ。青少年から大人にまで読者層をひろげるために、不義をはたらいた結果、ドイツで一人暮らしている母親のことは、手紙を通じてでも、どうしても書くべきだと思いました。面白く読まされながらも、消化不良というか、物足らなさも与えられた作品でした。   

聖夜 投稿者:藤村格至
投稿日:2021年 2月 6日(土)15時59分4秒

 善き人々の物語である。

世俗にまみれ数えきれない悔恨とともに生きる身であれば、最後まで読み切ることがかなり難しい物語でもある。

とはいえ、「辛い思いを抱えた少年が音楽を通して自己を理解し成長していく物語」のような陳腐な宣伝文句で表わされる、ありふれた青春小説でもない。

個々の人物造形は少々類型的だが、辺りを震わす荘厳なパイプオルガンの振動を核に、個々の人物の固有振動が絡み合い共鳴して最終段へと収束していく様には、作者の、プロの作家としての確かな実力が感じとれる。

両親、特に母親への屈折した感情、信仰へのとまどい、心を揺さぶる音楽との邂逅。抱えるテーマはいずれも重い。

3度、聖夜 投稿者:浅丘邦夫
投稿日:2021年 2月 6日(土)10時45分21秒

 偶然、この月の文横映画のテーマは、エテンの東です。旧約の世界です。家族崩壊の物語です。謹直な父、家を出た母、反抗する息子、家族の崩壊、旧約と新約としても、聖夜と全く条件設定が重なります。作者は、意識しているのかな。人間の原罪の物語です。大きな、テーマです。手に負えないほど。

再び聖夜 投稿者:浅丘邦夫
投稿日:2021年 2月 6日(土)10時02分33秒

 新約マタイ引用、われ地に平和をもたらす為に来たにあらす。剣を投ぜんが為に来たれりリ、父は、その子を、母は娘を、嫁は、姑と分かたんが為に来たれリ。此のイエスの言葉を、どう読み解くか、私は、今も悩んていましはす。

聖夜 投稿者:浅丘邦夫
投稿日:2021年 2月 6日(土)09時31分40秒

 初めに、牧師の息子の主人公は、ミッションスクールに学びながら、長々と神に対する疑問を投げている。

神と正面から対決している。これは作者の分身なのだろう。後半には、お父さんから、神様を引き算すれば、何が残るのか、 と痛烈に批判している。母が不倫で去った秘密も、そこにあるのだろうか、家族の崩壊の、悲劇の原因だろうか、作者は、敬虔なクリスチャンだ。

なるがゆえに。神と対決する。

聖夜 投稿者:浅丘邦夫
投稿日:2021年 2月 6日(土)09時23分47秒

 初めに、牧師の息子の主人公は、ミッションスクールに学びながら、長々と神に対する疑問を投げている。

神と対決している。これは作者の分身なのだろう。後半には、お父さんから、神様を引き算すれば、何が残るのか、 と言っている。母が不倫で去った秘密も、そこにあるのだろうか、家族の崩壊の、悲劇の原因だろうか、作者は、敬虔なクリスチャンだ。

なるがゆえに。神と対決する。

「聖夜」を読んで 投稿者:石野夏実サトウルイコ
投稿日:2021年 2月 5日(金)22時38分31秒

 作者の佐藤多佳子さんのプロフィールを読むと、ミッションスクールの青学の中高を経て大学も青学の史学科ということであった。信者であるかどうかは別にして、多感な青春時代、約10年間に身近にキリスト教(青学はプロテスタント)と礼拝堂、聖書があったことが、この物語を書くきっかけになったのだろうか、と思った。

 この小説は青春もの、学園ものの範疇に入ると思うけれど、主人公の一人称は「俺」よりも「僕」の方が相応しいような気もした。理由は、この男のコは高校3年生にしてはウブで清潔感があり、実際きれい好きとの描写もあるし、女のコには、全く免疫がないからだ。音楽に関してはロックやジャズにまで、かなり詳しいし作曲も演奏も音感も特別なものを持っているが、他のことに関しては幼い。

 それは牧師の家庭に育ったという環境の影響も大きいのではあるが。母親不在で、身近に祖母以外、女性を感じる存在がなかったことも一因かもしれない。

 家庭を捨てて外人と海外に行ってしまう母親の心理の葛藤が、描き切れていない気がする。しかし、青春もの学園ものには、大人のドロドロは不要かもしれない。深井という友人が出来て、主人公は救われた気がする。文化祭をさぼり深井の家に遊びに行き、深井の知り合いのライブに出かけ、そのバンドのキーボード奏者と知り合いになり、抱えていた疑問の答えをもらう。深井の部屋で一夜を明かし、一睡もせず待っていた父と祖母の家に帰る。父との初めてといってもいい向かい合っての対話。

 全てが、初めての体験。「僕」から「俺」になるのは、この辺りからでもいいけれど、まだ先かな。大学生になった時、今日から「僕」ではなく「俺」を使うと宣言しても面白いと思った。

 物語に出てくるメシアンという名も音楽も知らなかったので、youtubeで聴いてみようと探したら、ミックスリストに尾崎豊がたくさん入っていたので、メシアンの「神はわれらのうちに」を3分ほど聴いてから、久しぶりに尾崎の歌声を心ゆくまで聴いてしまった。

 翌日も、移動中の車の中の音楽は尾崎一色になり「あれ?たしか尾崎も青学に通っていたんだわ」と思い出し、この巡りあわせに大きな必然を感じた。

 早速電話で、長女に今月の読書本は「聖夜」と告げ、カトリック系のミッションスクールに通う高1の孫娘には、尾崎豊の楽曲を3曲ほどラインで送った。高校生なら尾崎を聴いて欲しいから。そして感想を聞きたいから。今回の読書本は、今度会う時、「読んでみて、おもしろいわよ」と渡そうと思った。

 おそらく、佐藤多佳子さんは、とても生真面目な人であろう。学園もの青春ものは、アニメにするより小説にする方が難しいと思った。リアル感がないと最後まで読んでもらえない。そして読後感はこのように清々しくあらねばならない絶対に。

佐藤多佳子『聖夜』メモ。 投稿者:和田能卓
投稿日:2021年 2月 5日(金)17時03分4秒

 ラブコメとして読んだわけではありませんが、そういうアニメが好きな自分にとって、面白い作品でした。
 なかんずく心惹かれた叙述は文春文庫版203ページの、

「でも、俺は俺の道を行くし、青木は青木の道を行くんだ。青木は性格がいいよな。俺はそのへんがうらやましいよ」
 俺の言葉を、青木はしばらく考えていた。
「そういうの、演奏に出るんでしょうか?」
「出るね。絶対に」
「性格のいいオルガン演奏?」
 と首をひねりながら、青木はつぶやき、
「性格の悪いオルガン演奏」
 と自分を指差して俺は笑った。

 たぶん、そんなものなのかもしれない。個性とか。自ずと音として表れる内面の表現。

 です。
 ここに、大岡信氏が『言葉の力』で言った、発せられる言葉に全人格がかかわるという認識につながる深さを、感じたのでした。

聖夜 投稿者:成合 武光
投稿日:2021年 2月 5日(金)14時34分52秒

バロック音楽が、テーマ音楽としてずっと流れているような物語のテンポ。演奏者の手の動き、足の動きとともに音楽を聞くような文章である。

 離婚して家を出て行った母親への裏切られたような子の思い。牧師(父親)のやはり人間的な本心。それでも神に仕える者としての諭す言葉。まさしく理想的な家庭の事件の中で成長していく息子。オルガンに通達していく。アスリートとしての苦悶、成長が、むしろワクワクするような期待感を抱かせた。

 ハッピーエンド。これも良かった。
『瀬戸内少年野球団』の映画を思い出しながら、久しぶりにワクワク、ドキドキしながら読みました。このような物語もいいですね。私は音楽のことも、まったく知りません。作者の知見、創作力に只々感心しました。

聖夜 投稿者:浅丘邦夫
投稿日:2021年 2月 4日(木)10時54分0秒

 なぜ、家族は崩壊するのか、なぜ子供は親に反抗するのか、妻は不倫するのか、夫は真面目過ぎる牧師なのに、家族の崩壊は、人間の理解を超えたテーマか思います。古来、日本では、家族の和は、美徳とされますが、キリスト教社会では、そうともいえません。でも、なぜ、家族は崩壊するのか。答えのないテーマです。

「聖夜」 佐藤多佳子 を読んで 投稿者:遠藤大志
投稿日:2021年 2月 2日(火)18時35分14秒

 作品全体に漂う瑞々しさみたいなものを感じた。まず読み易い。一哉の母に対する愛憎や心の揺れがうまく表現されている。
 その母親と対照的に書かれているのが、厳格な牧師の父親である。
 容易にこの父、この父の母と生活している中で、母は息苦しさを感じ始め、逃げ出したくなったことが推察される。

 そして多感だった一哉はこの二人を許せなく感じている。
 具体的に何に対して怒りを感じているのか言葉に表すことは難しい。
反抗期の子供がその最中に冷静になぜ反抗的になるのか分からないのと似ている。
両親の離婚を味わった者でないと推察できないのと一緒である。

 そして一哉の不安定な心を唯一支えているのは、音楽である。 オルガンで自分を表現してみたいという欲求と、音楽なんかに没頭したくないという裏腹な感情がない交ぜに一哉に襲ってくる。
 ちょうど映画好きのサークルの方で「エデンの東」を観てから日が浅いため、敬虔なるクリスチャンの父とそんな生真面目な父に息が詰まって出て行った母とが被った。

 何点か気になるところを挙げるとすると、
・女性作家の少年を描く微妙なずれ、感覚
・母が父の何に不満を感じ、ドイツ人との不倫に走ったのか?
等に違和感と説得力に欠ける思いがした。
言葉遣いだけでは思春期の少年を表すことはできない。
特に青木の告白に対するやり取りには「違和感」を感じた。

 但し、全体とし少年の憤懣やるかたない心情がうまく描かれていると思ったし、キリスト教とオルガンとの何とも言えない組み合わせの良さが伝わってきた。

「聖夜」感想 投稿者:金田清志
投稿日:2021年 1月31日(日)07時26分44秒

まず、こういう機会がなければ読まなかったと思う。

書き出し部分で、如何にも若い高校生の語りで、この小説についていけるのか自信がなかった。しかし最後まで読んで、この作は人間の不確かさを書いたに違いないと感じた。

主人公の両親は、母親の不倫、身勝手としか言いようのない事が原因で離婚に至るのだが、それに対する父親の態度・行動がなんとも読者の心を動かせる。

当然両親の離婚は主人公に暗い影を残しているのだが、作者の巧みな語りで主人公の心の襞が音楽やクラブの仲間を介してたくみに書かれている。「レジメ」で作者が児童文学と関係ある事を知ったが、後で成程と思った。

父親が牧師という家庭環境にあって、母親の行動は読み手である私には理解できないが、それは主人公も同じだろう。 対する父親も、牧師とはいえ、余りに善人であり、私の心を打つ一因ともなった。

結局、母親は再婚した男とは別れて外国で一人暮らしをしているのだが、父親は元の母親とのやり取りは続いている。

母親は元の亭主を介して主人公へ手紙を託しているが、小説では主人公がそれを読んだかどうかは書いていないが、それはこの小説では大きなテーマではないのだろう。

主人公の目から見た両親との設定だから、離婚に至る母親の心の在りよう、それに対する父親の心の葛藤などは書かれていないのいが不満と言えば不満だが、 この作では父親の心根が心に響く。

と言う事で、この作ではなぜそのような事になったのかは触れず、あくまでも人の心のありようの不確かさを書いたに違いないと感じたが、私の読後感としては、どうしても父親の存在感がなんとも言えなかった。

が、児童文学として読むならそれは必要ないのかも知れない。

読む機会を与えてくれて、有難う御座います。

(文学横浜の会)


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