「文学横浜の会」

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2022年04月07日


@『葡萄の道 ―武郎少年探求記―』 藤野燦太郎

<書き込まれた感想>

遠藤さん  2022/2/28 21:53 投稿

今回も藤野さんらしい様々な文献や自らの足を利用して絵の具の歴史に迫った大作になっています。

今回読ませていただき、普段何気なく見ている色について、歴史を学ばさせていただきました。

有島武郎が幼少期、どうしても欲しくなり、衝動的に盗みをはたらいてしまった事件から、なぜそんなことをしてしまったのかを紐解いていく流れは、到底真似できないと思いました。

日本には無かった、コバルトブルーやスカーレットレーキはきっと武郎の目には眩しく輝いて見えたのだろうなと思います。今の時代だと当たり前の色が、昔は出したくても出せない不可侵領域だっのかもしれないと思いました。

浅丘邦夫さん  2022/3/11 16:43 投稿

葡萄は、すなわちキリスト教を象徴します。タイトルから、キリスト教とをまず連想し、武郎がキリスト教に進む道を期待し連想しましたが、絵画と絵の具が主題に思いました。私は、戸惑いました。力作ですが。

清水 伸子さん  2022/3/18 14:34 投稿

平明で優しく丁寧な語り口で、有島武郎の作品中の絵具はどんなものだったのかをコツコツ丹念に解き明かそうとする姿勢に、藤野 さんの人柄がにじみ出ていると思います。すごいなあと圧倒されました。

石野夏実さん  2022/3/20 15:24 投稿

有島武郎(1878〜1923)の童話「一房の葡萄」(初出「赤い鳥」1920)の主人公の少年「僕」が6歳の時から2年間通ったミッションスクールでの実話(2歳年上のジムという外人の男の子の外国製の絵の具を盗んだ事件)を炎天下に足を使って調査した行動録と感想の記。

「僕」が起伏の多い横浜の山手地区のスクールまで通う通学路の推測と実地探索、絵を描くのが好きな「僕」がその色に取りつかれ、欲しくて欲しくてたまらなくなり手を出してしまった絵の具の色の推理と特定。製造元まで突き止めた色々な訪問先と探求成果。今回の順追いしていく事項の順番決めの的確さと参考文献の多さに圧倒されました。また有島武郎全集をお持ちの様子から武郎がとてもお好きなのでは、とも思いました。

ご自身が中1の写生大会で海岸の絵を描いていた時の、美術の教師からの海の色のアドバイスと、その後の筆者のシチュエーションごとの海の色への観察と意識。教師のひとことが、受け手の生徒にはずっと深くいつまでも頭の中に残っていることってありますよね。私もあります。

 武郎少年が盗むという一線を越えてしまう行為をして、クラスメートたちに先生(大好きな女の先生)のところに連れていかれ、次の授業には出ないで先生の部屋で待つようにと言われた時、先生によってジムや友人たちに何が話されていたのだろうか。翌日、休まないで必ず登校するようにとの先生との約束。思いがけない、ジムが飛んできての笑顔の出迎え。

先生の部屋で二人は握手をする。そして先生は一房の葡萄をはさみで切ってふたりに渡した。

先生は、武郎が絵の具が欲しくて盗んだのではなく、ジムや他の仲間と友だちになりたかったから取ったのだと解釈することで、彼らに仲良しになるよう諭したのだろう。ジムは、武郎の罪を不問にし飛んで行って出迎え、先生の前で仲直りの握手をした。良い教育とは教師とは、生徒の非を責めるのでなく、二度とそのような行為をしないよう自らを省みさせることだと思った。それを「愛」の教育と呼ぶのだろう。武郎は、葡萄の季節になると、この幼い頃の経験を思い出すのでしょう。思いがけず「一房の葡萄」は、最晩年の作であった。

中谷和義さん  2022/3/21 13:07 投稿

「創作」とあるが、好きな文学作品と自らの体験が共鳴して書かれたルポルタージュとして読んだ。有島武郎が子どもの頃に日本で販売されていた絵の具を特定する過程は緻密で説得力がある。先生が主人公に与えた「葡萄」については、「仲直りのご褒美に二人がもらった葡萄の色は、コバルトブルーとスカーレットレーキを混ぜてできる紫色」と指摘し、主人公の悪行を責めるのではなく成長につなげようという先生の思いを照らし出している。

 有島が信仰したキリスト教では、聖餐の秘跡における葡萄酒を「キリストの血」と位置づけ、葡萄はキリスト自身の象徴でもある。また、先生の「白い美しい手」は聖母マリアを連想させる。「一房の葡萄」にも、罪人を許すキリストの教えが反映されていると感じた。

阿王 陽子さん  2022/3/21 16:53 投稿

筆者の横浜への愛が感じられた作品。絵に詳しい方が書いているという印象。海の青について、探偵のように捜索している。絵の具についての推理が面白く、行動力あふれ、研究論文としても大変読み応えのある作品。ラストの葡萄の色、コバルトブルーとスカーレットの融合、先生の白い手。葡萄はキリストの血のワインを造るもの。キリスト教の学校に長くいたわたしは、有島武郎も好きで「生れ出づる悩み」などが好きだったので、むさぼるように、この短編作品を読み、感激した。

森山里望さん  2022/3/22 14:27 投稿

グーグルで道をたどりながら読みました。今の横浜に当時の風景を重ね、少年の心の内を思いながらゆっくり読み進めるのは楽しいものでした。この道を藤野さんのお話をききながらご一緒にたどれたらもっと楽しいだろうなと思いました。

小学生のころ、ぼくの鼓動を自分のことのように、息苦しく感じるほどドキドキしながら読んだのを覚えています。初めて知った「葡萄」という漢字もなぜだか魅惑的で、子ども時代の読書体験の中でも深く印象に残っている小説です。大人になってからも何度か読んだのですが、明治の時代背景をふまえて、ぼくの持っていた絵の具がどんなものかということには思いが至りませんでした。その視点からつぶさに文献を追って、ご自分の足で確かめていく様は、さながら古い名画を洗い修復するようだと思いました。

最後の「コバルトブルーとスカーレットレーキを混ぜて葡萄色になる…」は洒脱! ちょうど額にいれたい絵があるので、神田の文房堂にも行ってみようと思います。

成合武光さん  2022/3/28 10:44 投稿

『葡萄の道』

「どんな絵具だったのか」と思う人は大勢いたでしょう、しかし確かめたいとまで思う読者は少ないでしょう。目的は物語の主旨向かうのが大方だと思う。私もそこまで考えてもみませんでした。絵を描くことに関心のある人でなくては、考えないだろうことをこの作者は考えた。絵画に関心の深い人なのだろうと、私は知らないこの作者の一面を想像しました。
 推理小説を解いていくような手際で、自ら足を運び、文献や資料を調べられた。その資料の数だけでも、大変な骨折りが伝わってきます。見事、目指す絵の具に行き当たった。素晴らしいですね。これはもう、博士論文であると思う。有馬記念館のみならず、多くの研究者から既に問い合わせが殺到しているのではないでしょうか。素晴らしい研究発表だと思います

金田清志さん  2022/3/29 06:56 投稿

武郎少年の色に対する執着・執念が読み取れ、
それにもまして作者のどんな「ブルー」なのかの追究心が読み取れた。
絵や顔料に対する関心の薄い読み手には退屈だろうが、力作。

港 一さん  2022/3/29 17:34 投稿

有島武郎の幼年期の様子がよく描かれていて、また横浜の昔と現在の地図上の関係が比較検討されていて、とても興味深く読むことができました。これだけのことを調べるのには、かなりの時間と労力がかかったのではないでしょうか。
有島武郎が横浜の居留地に生活していたことは、はじめて知りました。
この事件で、絵具を盗んだタカオを叱らずに、絵具の持ち主であった少年とタカオを、双方が腐らずに立ち直り、成長できるように計らってくれた女教師は立派というほかありません。この処置が、のちの文豪有島武郎を育てる機縁になった可能性は充分に考えられます。とても感謝したいことです。
キリスト教は、基本的には侵略者として日本に入ってきたわけですが、この頃のアメリカにはユニテリアン派というのがあって、この派の人達は、有色人種や植民地原住民に対しても、真に友愛をもって接する人たちであった、ということを聞いています。新渡戸稲造の米国での人脈というのは、この系統の人達だった、ということも聞いています。女教師さんとこの学校は、この派の人達だったのではないかと思いました。
絵具の同定の話も面白いです。
有島武郎研究という意味で、学問的にも有益な作品ではないでしょうか。

林 明子さん(89wn8i7z)2022/3/30 23:49 投稿

小説中の絵の具の色が何色であるのか、武郎の歩いたであろうルートの探索、その時代の建造物、地理、絵の具の輸入・販売の歴史……。
小説への視点、小説の楽しみ方が素敵です。
特に絵の具の色についての洞察。
どんな色であったのだろうかと思いを馳せるだけではなく、実際に文献調査や訪問されるなど行動に移して、小説への関わり方が素晴らしいと思いました。
また、今日では山手の西洋館巡りなど素敵な観光地と紹介されているが(私も何度か巡りました)、作者の指摘のように治外法権の時代であり、日本に生まれ、日本にいながら肩身の狭い思いをして過ごしていた方もいらっしゃったかもしれないということを忘れないでおきたいと思いました。

山口愛理さん  2022/3/31 17:30 投稿

「一房の葡萄」という童話の中で、少年が外国人の同級生の絵の具を盗むというストーリーから想像力を膨らませ、その時代の絵の具というものに思いを馳せた想像力が凄い。この洞察力、推理力、調査力。まるで私立探偵のようです。ただ最後まで読んでも「凄い随筆」という感を持つ。「創作」なのはどの部分か。創作とするなら筆者を誰かどんな人物か、特定した方が良かったのでは。それにしても「文学横浜」というタイトルの文集にピッタリの作品と思いました。

和田能卓さん  2022/4/1 13:08 投稿

読んでいて、あたかも文学関係の学会の大会で行われる「講演」を聴講しているような気持ちになりました。
自己の体験と重なる絵の具に関わる疑問を解くための調査行動がいかに精力的なものだったか、本文のみならず付された参考文献(一覧)からもよく伝わってきます。

佐藤直文さん  2022/4/2 19:21 投稿

コロナ過の一人版文学散歩の記録と思いました。
神奈川近代文学館に行った帰り、バス停で待っていると、白人の中学生が近くの学校からの帰りで、大きな体を揺らして道いっぱいに、にぎやかに歩いてきます。ここが日本であったかと思えるほどです。でも、ここから、横浜市立中央図書館まで歩こうとは思いません。まして、海岸通を経由して歩くとは。健脚にびっくりです。横浜の文学散歩挙行ありがとうございました。誌上にて参加させていただきました。

太田龍子さん  2022/4/3 11:53 投稿

調査力、考察力に脱帽です。子供のころ『一房の葡萄』を読んだときのことを思い出しました。主人公の少年は絵の具の色の執着しているように見えますが、妬ましかったのはそれだけではない、というか少年の感情が色の違いを増幅させたように感じました。

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