「文学横浜の会」

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評論等の堅苦しい内容ではありません。
テーマになった作品について参加者がそれぞれの感想を書き込んだものです。
  

2022年04月07日


A『窓』 保坂融

<書き込まれた感想>

浅丘邦夫さん 2022/3/11 22:01 投稿

亘は学生時代、不幸にして長く病院生活を余儀なくされる。人は外界と接し、様々な刺激を受け、反応し、反射行動する。亘は外界と遮断され、病院の窓があるだけだった。ただ、追憶と妄想のみ膨らんた。殺人、強姦、あらゆる邪悪な妄想の世界だ。恋人良子への疑惑と、不意の死。すべては、窓の外の出来事であり、病院で伏している自分と無関係に、かつてに、すべてが進行していた。外界と遮断された、やりきれない閉塞感。窓だけが救いなのか。 会話の少ない息苦しい作品です。会話を多くした方が、読みやすく、物語りに溶けこむのでは、と、思いました

中谷和義さん 2022/3/21 13:33 投稿

主人公の亘は病院を訪ねた際、若い頃好きだった良子を別の男・修に取られた体験を思い返す。自分が長期入院を余儀なくされた結果、良子の気持ちが修に傾いたのだと解釈し、「すべてが、予め自分に課せられた、いわばシナリオなのだ。そこに自分の意志など殆ど介入できない」と自らに言い聞かせる。
 そもそも良子は主人公にどのような思いを抱いていたのか。確かにお見舞いには来るが、修のことばかり話しているし、浜辺で主人公にキスされそうになったときには抵抗している。最後の手紙も事務的。良子にとって主人公は、友人の一人に過ぎなかったようだ。主人公の片思いに、しんみりした。

阿王 陽子さん(89m8ovqv)2022/3/21 16:58 投稿

時間の経過、時間軸がいまいち私にはわからなかったが、このミキシングな、感じが、作者の狙いなのかもしれないな、と後から思った。ただ良子の死が唐突で、亘の体調の経過もはっきりとはわからなかったので、この作品をふくらませて、長編で読んだら、もっと情景がわかるのかと思った。

森山里望さん 2022/3/22 15:40 投稿

場面・時空の転換についていけなくて、私には難しかったです。若いころの苦しくてどこかぶざまで、それでいて美しいままの恋は誰もが胸の内に秘め持っているものと思う。それを壊さずに書くのは難しい。ちぎれたままにしておいたような己の良子への気持ちと対峙したあとで、最後にそれもこれもシナリオ装置の作動によるものとしたのは、亘の照れ隠しのようにも思えて、ちょっとクスッとした。

藤野燦太郎さん 2022/3/23 11:17 投稿

少し前に一度読んだ感想には「硬質な言葉が味わい深い。亘以外の登場人物の人物像は良子を含めて上手く思い描くことができなかったが、亘の心象風景だけをえがきたかったのだろうか?」などと書いていましたが、さてどんな作品だったのかを思い出せず再度読み直してみました。

やはり同じ感想を持ちました。読んでいる間は、言葉や文章の美しさに惹かれて最後まで読むのですが、読み終わってみると、私には作品の全体像が上手くつかみきれないようです。

遠藤さん 2022/3/23 11:20 投稿

本作は保坂さんの第2作品目の作品になります。
前作「眼差し」にて保坂さんの小説は心象風景、心象小説と受け止めましたが、本作もまた心象小説と呼べるでしょう。
ただし、前作程分かりづらくなく、今作の方が具体的な感じがしました。
主人公の亘は、家人を病院に迎えに行き、手続きを待っている間に、かつて学生時代に長い療養をしていた自らの病院での生活を想い出します。そこには甲斐甲斐しく見舞い、世話を焼いてくれる良子の存在がある。
彼女は亘と修との間で揺れ動いている時期であった。
亘は自らの病気の今後や将来が見られず、良子に別れを告げる。それにより、良子は修と一緒になる決心をする。
その矢先、良子は交通事故によって亡くなる。
良子から亘に対して書かれた走り書きには、良子の亘に対する未練のようなものが読み取れた。
この小説には「眼差し」の人物像が重なる。
眼差しの女性と良子は同一人物なのではないかと勘繰ったりします。
保坂さんの文章は巧いし、参考になる表現も多いのですが、やや型式ばった固い表現、言い回しが多いと思います。
次作におかれましては、心象小説以外の物も是非披露して欲しいと思います。その際はもう少し柔らかい文章で書いてみたらいかがでしょうか?

成成合武光さん 2022/3/28 10:48 投稿

もしかしたら、52号の『眼差し』の前編に当たるのではないか、そして次の54号でその後編が書かれるのではなかろうか、と想像しました。
「良子の死に責め苦を負・・・強まっていった」
「シナリオなのだ・・・」・・・「窓をもたらしていた」
などの箇所に「修正・・必要もない」とがしっくりしない感じなので謎を感じました。
 病院内の描写、とてもリアリティチがあります。

金田清志さん 2022/3/29 06:57 投稿

読後感は何を書きたかったのか判らなかった。
亘と良子、修の三角関係のようにも思えたが、
作者の書きたかった事は恐らくラストの9行ではないかと思った。
創作が少なくなっていく中、貴重な作です。

港 一さん 2022/3/29 17:39 投稿

過去の恋愛の記憶というものは、どこかでふとしたことでよみがえり、心を乱すものです。しかし生活していくためには、それを押し殺し何食わぬ顔をして元に戻り、そんなことなどまるで無かったかのように日常を暮らしていく ‥‥ そんな心象風景を見事に形象化されていると思います。

林 明子さん 2022/3/30 23:43 投稿

「すべてが予め課せられたシナリオ」だったとしても、後悔や感謝などシナリオによって様々な思いをもたらされます。
窓がいろんなものを見る「窓」という意味であれば、シナリオによってもたらされる様々な思いが「確かに窓をもたらしてもいる」ということになるのでしょうか。
良子の「早くに…」のことばは、複雑な心情を控えめだけれどもとても丁寧に映していて、良子の幾重もの思いが溢れてくるようで、胸が締め付けられる思いがしました。

山口愛理さん 2022/3/31 17:25 投稿

前号と似たテイストで、平凡な日常の中に潜み、あるとき急に蘇る不安や不穏な記憶を描いて独特な世界を創り出している。今回は家人の入院につれて思い出した主人公のかつての長い入院生活の記憶と、ある女性の死によってもたらされた若い日の悔恨の情を描いている。私は前回同様、その語り口に引き込まれた。が、難を言えば難しい漢字使いが多い。もう少し平易にしても十分伝わると思う。また、タイトルでもある「窓」と物語最後に突如出てくる「シナリオ装置」の関係性が今一つわからない。そこが残念と思った。(あるいは25ページ下段あたりに書いてあることが関連しているのかもしれないが)
※校正上、気になった点 p29上段10行目 整い始めた→整え始めた p38下段後ろから2行目 きでなかった→できなかった

石野夏実さん 2022/4/2 15:38 投稿

前回52号の「後記」で告知されていたように今回も「心象風景」小説でした。最終診察も入る退院手続きに手間取っている家人(そのまま)を待つ間のロビーでの、主人公の亘の追想小説でした。
少し気になったのは「妻」を使わず「家人」を意識的に?使っていることでした。書き始め「荷物を運ぶ手伝い・・」は、病み上がりの妻の荷物を主体的に運ばず「手伝い」と。最終章では「漸く家人が姿を見せ大幅に最後の診察が遅れてしまったことを亘に申し訳なさそうに説明した」とありますが、「申し訳なさそうに」は、少し他人行儀だと思いました。妻との帰り道でも、良子のことが脳裏に留まっていたと書かれていて、仲の良い夫婦には見えませんでした。

  物語は、亘の数十年前の追憶が中心で、彼のフラッシュ・バックは今回だけでなく、P.40で時々鮮やかに蘇ると書かれている。
良子に対しては、最後に受け取った走り書きの紙片を海に流しても、いまだに未練があり悔いがあるから断ち切れていない。この紙片の短い文章は中途半端な印象だが、逆に突然別れを切り出され借りていた本の返却を催促された良子の亘への揺れ動く心が見て取れる。
「早く返却しなければとおもいながらも、ここにとどめておきたいとおもい、そして、それに添えるお礼の言葉を記す勇気がありませんでした」
恋人であれ親友であれ、後から知った愛する人の突然の死は、なかなか乗り越えることができない。亡骸に会って最後のお別れをしていないからだ。 自分から関係を断ったのに、良子の突然の死によって亘の妄想は果てしない。
そもそも、良子が修との結婚を決めていたのなら、毎日のように亘の見舞いに来るであろうか。結局、亘は怖くてそのことを良子にきちんと聞くこともせず、情報は明からの仄聞だけであった。(良子は、おれと修を天秤にかけたのだろうか)と当時の良子の振る舞いに想いをはせたとP38にあるが、こんな考えを持つ性格だから良子にためらいがあったのでは、とも思った。修に劣等感を持ちながら、亘は良子に何を求めていたのであろう。良子は亘に何を求めていいたのであろう。未練が織りなす心象小説であった。
シナリオ装置とは「運命」なのでしょうか。「窓」とは、目に見えない「心象」なのでしょうか。

匿名さん 2022/4/2 19:23 投稿

数十年前の恋人の交通事故死、自分に落ち度はないはずだけど、なぜか自分をさいなむ。死ぬまでこれが続くのか。文章を書いて検証してみよう。安らかに眠って下さい。

太田龍子さん 2022/4/3 12:08 投稿

時系列や関係性がよくつかめなくて難解でした。理解するというより「感じる」ことを求める作品なのかもしれないと思いました。

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