「文学横浜の会」

 「掲示板」の内容

評論等の堅苦しい内容ではありません。
テーマになった作品について参加者がそれぞれの感想を書き込んだものです。
  

2022年04月07日


F『ランナー 2020』 藤堂 勝汰

<書き込まれた感想>

浅丘邦夫さん 2022/3/12 15:18 投稿

パラリンピックを観るとひどく感動する。ハンデを忘れて顔を輝かせて、躍動するからだ。視力を失ったマラソンランナーと、伴走者の物語りだ。二人は偶然の組み合わせだが、過去に、命の恩人とわかつている。だが、二人は、それを明かさない秘密だ。栄光のゴールのロープが見えてきた。感動のものがたり。

中谷和義さん 2022/3/21 13:14 投稿

失明した女性ランナーが失意から立ち直り、中年男性の伴走者に支えられてパラリンピックで金メダルをとる物語。「マラソンとは途轍もなく単純な行為の繰り返しである。膝を上げる、下ろす。これを地球相手に繰り返す作業である」という記述は、実感がこもっている。ランナーの目となる伴走者について「障がい者ランナーは足元の不安から歩幅が狭くなりがちです。伴走者はその不安を和らげてあげる必要があります」と説明している点も、読者の理解を助けている。
 邪念や不安を取り払うため「南無阿弥陀仏」と繰り返し唱えながら走るシーンはユーモラス。同じ念仏でも、3月読書会で取り上げた柳美里「JR上野駅公園口」の深刻さとは対照的で、興味深かった。

阿王 陽子さん 2022/3/21 17:11 投稿

パラリンピック選手になるまでの、主人公・瑞希と、伴走者・来太の、精神的な葛藤や挫折、そして再起を、鮮やかなタッチで描く感動作。念仏を唱えて精神をリフレッシュさせるのが、とてもユニーク。短編だが映画の原作としてもとても良いような爽やかなストーリーだった。 清水 伸子さん(89ht2w2b)2022/3/22 16:02 投稿

暴走事故で妻子を亡くして失意に沈む元走者と心中事件の巻き添えで視力を失い自殺しようとした学生ランナーがパラリンピックを目指すストーリーにぐいぐい引き込まれて最後まで読みました。ただ、年上の伴走者を名前て呼び捨てにするのには違和感を覚え、また個人的には来太に命を救われた事を瑞希が気付かない方が余韻が残るのではないかと思いました。

森山里望さん 2022/3/26 21:02 投稿

高齢者の暴走運転事故、コロナ禍の東京オリパラ、ギャンブル依存などリアルタイムな社会問題を盛り込んでいて、現実味をもって読んだ。
「南無阿弥陀仏」と唱えて、走る心身の新境地に入っていく描写が自然でうまいと思いました。青空、美人のランナー瑞希、美しいヒラメ筋の脚、二人の汗、軽快な会話、苦境を乗り越えた二人、さわやかな余韻と希望を放つ作品と思いました。

成合武光さん 2022/3/28 10:56 投稿

いやー、泣かせますね。感動しました。
 障碍者の気持ちも私には想像もできません。よくぞ取材されたと思います。また長距離走者の極意なども、滅多に知ることもできないことです。珍しく、貴重なことを教えてもらいました。作品までのご苦労が察せられます。

林 明子さん 2022/3/28 23:40 投稿

伴走者と全盲のランナーとの絆が軽やかに、でも強い信頼関係が描かれていると思いました。
全盲であることから、見えるものは何もない。
でも、恐怖、欲、絆や信頼、命や希望もまた見えるものではない。
見えないものを信じることの難しさや見えないものこそが大切であることを改めて感じさせられました。
また、この作品を通して教えてもらった魔法の呪文「南無阿弥陀仏」。
「私は帰依します」の意味だけではなく、雑念を消し去る力を持っている。
これは実際に使えそうだと思いました。

金田清志さん 2022/3/29 07:03 投稿

パラリンピックから発想を得て書かれた創作で、読後感は、体育会系のテレビドラマのよう、でした。
それぞれの登場人物の背景は書かれていますが、細部は見直した方がいいかな、とも思いました。

石野夏実さん 2022/3/29 08:24 投稿

一気に読み終えました。テーマは「喪失と再生」だと思いました。パラリンピックのマラソンランナーと伴走者を主人公にした物語でしたが、マラソン競技の具体的なことを、走法なども色々とよく調べられていたので、違和感がなく説得力がありました。登場人物ふたりの特殊な設定(全く別々の思いがけない事件によって肉体的、精神的被害者になってしまった瑞希と来太)も、マラソンを舞台にした組み立て構成にも不自然さがなく、とても良かったです。
瑞希が来太を呼ぶ時は、やはり「来太コーチ」または「長瀬先輩」「長瀬コーチ」と呼ばせた方が自然だと思いました。
「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えながら走る念仏ランニングの話は、発想がユニークで面白かったです。
全体のページ数に比べエピローグ名の章が少し長いように思いました。第4章に続く第5章としてエピローグ内の文章の入れ替えをして、どこかで区切りをつけ,エピローグ章のページはプロローグ章と同じくらいの分量の1ページ分くらいでいいのではないかと思いました。文章もよく推敲されていたと思います。ひとつだけP.92の下段最後「ただただ腫れ物に〜」と次のページP.93の3行目にも「ただただ部屋に籠り〜」で「ただただ」が繰り返されているのが、少々気になりました。
文学のジャンルの中で、書くのが一番難しいのが小説だと思います。藤堂さんの小説を毎回読ませていただいて、色々な題材に挑戦される姿に、励まされます。今回も、タイムリーなオリパラを取り上げられ、また池袋の事件も組み入れられ社会性をも併せ持つ作品にされたのも良かったです。

井出豊さん 2022/3/31 13:00 投稿

作品の中にコーチとランナーそれぞれの失意と再生が過不足無く描かれていて気持ちの良い作品でした。
来太が救った瑞希がレースで一位になる、そして次は来太の再生にバトンタッチされるというこの先を
感じさせるラストも好感が持てました。

一気に読み終えて真っ先に感じたことは、これを原作にして日テレ24時間テレビのドラマを撮って欲しい、
それを是非観てみたいという欲望でした。永野芽郁と菅田将暉のキャスティングがいいです。

ドラマ化する際のお経は「南無阿弥陀仏」ではなく「南無妙法蓮華経」にした方が、歩調に合ったトランス状態を
演出し易いのではないかなどといろいろ思案しておりましたが、結果「南無阿弥陀仏」(ナンマイダーの3拍子)で
正解という結論に至りました。

山口愛理さん 2022/3/31 17:37 投稿

世間を騒がせている高齢ドライバーの過失致死事故により妻子を失った男性、そしてほかの事故で家族と自身の視力を失った女性が、共通の「走ること」によって結びつく。選手と伴走者としてパラリンピックをめざし、ちぐはぐだった心を通い合わせていき、目標に向かって文字通り走る。その組み合わせの妙が良い。少しうまく行きすぎの感はあるが、全体を通して爽やかで読後感も良い。ただ、所々(特に第四章)視点がぶれるのが私は気になった。視点が変わるときは一行空けるか、章そのものを変えるかした方が読みやすいと私は思った。
※校正上、気になった点 p93上段11行目 起用→器用 p104上段後ろから6行目 高み合う→高め合う

和田能卓さん 2022/4/1 13:17 投稿

時間処理や場面展開など、みごとだと思います。読みやすい文章で、高校入試国語問題集で取り上げられそうな主題の作品だと感じました。

佐藤直文さん 2022/4/2 19:33 投稿

絶望の淵に沈んだ時、助け出すのは短い言葉、「死にたくない人に順番を譲れ」だった。
−10×−10=プラス100 (金メダル)。
コロナ過にあって、高齢者による死傷交通事故の多発、ビル放火による他社巻き込み自殺など絶望列島と化している日本、その中でパラリンピックが開催された。絶望した二人はスポーツの力、監督の指導でランナーとして力を合わせ、金メダルを獲得する。そして、生きていく希望を勝ち取る。伏線が効いていた。

太田龍子さん 2022/4/3 11:44 投稿

何となくラストシーンが予想できるような展開ではありましたが、とても丁寧に感情の変化や背景が描かれていて説得力があり、一気に読んでしまいました。素敵なお話だと思います。

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