「文学横浜の会」
「掲示板」の内容
評論等の堅苦しい内容ではありません。2023年01月17日
「推し燃ゆ」宇佐見りん
<「掲示板」に書き込まれた感想>
成合武光さん 2023/1/25 15:53
『推し、燃ゆ』(宇佐美りん作) の感想 成合武光
風評では、アイドルの追っかけ、気違い沙汰とも聞こえましたので、関心が湧かないままでした。読んでびっくりしました。驚きました。
いまほり ゆうささん 2023/1/27 11:21
「推し燃ゆ」を読んで
森山里望さん 2023/1/27 16:40
この小説を知ったとき、タイトルに戸惑った。「推し」という新しく生まれ現代社会に瞬く間に浸透した単語と、「燃ゆ」という古語(?でいいのかな)の取り合わせにまったくどんな小説なのか見当もつかなかった。
芸能界に推しといえるほど好きな人を持ったことのない私は、あかりに感情移入して読めなかったが、あかりの心情をわがことのように理解できる人が、かなり多くいるのだろうと思う。
現代社会を鮮明に切り取った小説ながら、古典的な構成・内容だと思った。
石野夏実さん 2023/1/27 23:49
同人になる前から、同人になってからはほぼ毎回、芥川賞受賞作品が掲載されている「文藝春秋」を買っている。
受賞作を読むかどうかは、書き出しの箇所だけ目を通し、面白そうかどうか、その直感だけで決めているが、昨今、ほとんどが「積ん読」になっている。
題はストレートで4文字だが「自分が追いかけている大ファンのアイドルが(何かが原因で)収拾がつかないほど炎上するように叩かれている」という意味に解釈した。
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」の文で、この小説は始まる。
題材が今風で面白いのはもちろん、女子高生言葉で書かれている会話などの箇所と、一方では風景や状況説明、心情描写は、新鮮で説得力のある表現、純文学愛好者の嗜好に合致する語彙で並べられていて、読者の好感度が高くなるのは必至だと思った。
話し言葉と説明描写の違和感のない配置と融合に読者が頷きながら読み進むことができれば、著者への評価はとても高くなるであろうとも思った。
芥川賞受賞作品の読者は、年齢層の幅もかなり広いと思うのであるが、じっくり読めばどの層の読み手にもストライクど真ん中の心に届く久しぶりの若者文学であると思った。
主人公のあかりは「推し」の上野真幸の存在だけが「生きる」ための全てだ。
いかにあかりが(ほかの子も)真幸の大ファンであるかは、随所に「推し」で追っかけの子たちがバイト等で稼いだ大金を使って購入するグッズやCDの異常な多さが書かれているので、それが生きがいなのだから、仕方がない時期なのだとも思うものの痛々しさが胸を突く。
何か具体的な支えがなければ、「生きづらさ」を抱えている子たちは、死にたくなってしまうのかもしれない。
あかりの不安定さは、母親はもちろん、姉にも父親にも原因があるように思える。
愛情のない家庭で育ったとしか思えない。あかりは、仲の良い母姉関係から疎外され父親は長期赴任の不在で、ひとりぼっちだった。
真幸の突然の結婚と引退発表で、彼女を支えるものが消滅した。
最後の描写がとても良い。陽光が部屋全体を明るく晒し出し、中心(背骨)ではなく全体が、自分の生きてきた結果であると。
ばら撒いた綿棒を四つん這いで拾う姿は、ゆっくりでももう一度赤ちゃんのようにハイハイから始めようとする意志だと、私は受け止めたかった。
時間はかかるだろうけれど、白く黴の生えたおにぎりを拾い、空のコーラのペットボトルを拾い、その先に長い長い道のりが見える。。。と書いている。
自分で自分を孤独に支えるのは辛い。心から理解してくれる家族でも友だちでも、ひとりでもいてくれれば、人は生きようと思うだろう。
カウンセリングを受けてでも家族関係を再構築できるのか、ひかりのブログの愛読者の中から、
池内健さん 2023/1/28 09:24
「命にかかわる」存在である「推し」(精神的支柱)に寄りすがって「肉」の世界(リアルな社会)から目を背けてきた主人公が、その推しを失い、這いつくばりながらも「肉」の世界で生きていくことを決意する。今風の教養小説(成長物語)だと思う。
「みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる」主人公のあかりは、偶然見つけた昔のDVDで小さい頃に好きだった「ピーターパン」を見返し、飼い慣らしていたはずの「衝撃にも似た痛み」を感じる。それによって「点の痛覚からぱっと拡散するように肉体が感覚を取り戻してゆき、粗い映像に色と光がほとばしって世界が鮮明になる」。ピーターパンを演じていたアイドル真幸を「推し」として追いかける生活が始まる。
真幸への向きあい方は、言動を解釈し続けるという精神的なものだった。それは、推しと肉体的に仲よくなることを目指す友人・成美との対比で、より鮮明に提示されている。ホールケーキをひとりで食べて吐くシーンでは「あたしはそのきつさを求めているのかもしれないと思った。(略)体力やお金、自分の持つものを切り捨てて何かに打ち込む。そのことが、自分自身を浄化するような気がすることがある」と、ほとんど宗教的法悦の境地を吐露する。
真幸はファンを殴ったらしいというスキャンダルをきっかけに引退、結婚する。あかりは精神的な拠り所を失い、重くてうっとうしかった「自分の肉」を壊そうと決意する。しかし、実際に怒りをぶつけたのは、後片付けが楽な綿棒だった。無意識に、生きる道を選択していたことに気づき、「二足歩行は向いてなかった」「這いつくばりながら、これがあたしの生きる姿勢だと思う」。
アイドルの真幸も、物語の中で一種の成長を遂げる。無邪気なピーターパンから、アイドルグループの一員となり、青のイメージカラーを割り当てられる。「青」は「秘密戦隊ゴレンジャー」のアオレンジャーや「科学忍者隊ガッチャマン」のコンドルのジョーのように、ちょっと斜に構えた二番手で、正義の熱血漢とは少し距離を置くイメージがある。実際、真幸は中学時代に母親の家出を経験していて、性格形成や家庭への憧れにつながっている。ファンを殴った理由は明かされていないが、虚勢を張る空虚なアイドル活動から解脱するための手段だったような気がする(同時に、母親が家出したのも父親の家庭内暴力が原因だったのでは、と連想させる)。
作者の文章は映像や匂い、手触りを喚起する力が強く、また感情を伝える表現も巧みだと思う。たとえば以下の文章。
「電車が停まり、蝉の声がふくらむ」(音)
アイドルグループ名の「まざま座」とか曲名「ウンディーネの二枚舌」とか、ちょっとねじれた命名のセンスも面白かった。
港 朔さん 2023/1/29 17:23
はじめ、タイトル「押し、燃ゆ」の意味も分からなかったけれど、ゆっくり読み進むうちに、タイトルだけではなく他の言葉の意味も、だいたいは取れるようになっていった。二回目を読むと、はじめ宇宙語のようだった文章の意味も理解できるようになり、時代・男女・年齢の違いはあっても、同じ言葉を使う同じ日本人なのだと感じることができるようになっていった。私にとってみれば宇宙人のような女子高校生だけれど、同じ言葉を使うという繋がり、距離の近さというものは確かにあるんだ、ということを感じた。
物語は一人称で書かれているが、作者はこの物語の主人公と、あるいは主人公のモデルとなった人物と、リアルにはどのような関係が、またどの程度の関係があるのだろうか。この物語の主人公は、日常生活においては破綻していると言っても過言ではなく、「押しを押す」とき以外は活力というものがほとんど感じられない。ところが作者は、この作品のような目を瞠る小説を書き、文学の最高賞と云われる芥川賞を手にすることのできる、いわば活力あふれる若い女性である。
まず感じたのは、文章表現の非凡さだった。
若い女性の芥川賞受賞者という意味では、昨年十月課題『十二月の窓辺』の津村紀久子と比べてみたくなった。同じ芥川賞作家でも二人はとても違う。津村は、イジメという本当に辛かったであろう体験を経て、四捨五入すれば十年という、長い期間の後にやっとそれを作品にすることができた。かたや宇佐美は、溢れる才能にまかせて、いとも容易く作品をモノしているように見える。
いま令和の時代、きらびやかな才能をもって颯爽と現れた新進女流作家=宇佐美りん ‥‥ 宇佐美りん氏においては、有り余る才能をより膨らませて、大きく日本文学に貢献できる大作家に成長していただけることを期待し、祈念するものであります。
阿王 陽子さん 2023/1/30 12:58
宇佐見りん「推し、燃ゆ」を読んで
阿王 陽子
思春期の時期に、あるいは一生をかけて、自分の憧れのアイドルを応援する【推し】活動について、頭に入ってきやすい短い簡潔な文体でありながら、鋭利にかつ情熱的に述べられているこの小説は、令和初頭の文化そのものであり、アイデアに見事としか言えないぐらい、グッと来た。読むのが楽しくて、ワクワクした。私にも一時期ハマっていた歌手がいたので、推しに熱中していた時期を思い出しながら読むことができた。(本作と同様、推しの結婚により彼に熱中するのを私も辞めてしまった。)この小説は青春小説として、爽やかで熱い傑作だと思う。
読み終わった後、宇佐見りんの他の作品も読みたくなってしまい、「かか」「くるまの娘」も購入した。 「かか」は娘とおそらく更年期であり若干精神的に不安定な母親との関係を描いているが、「うーちゃんは・・・」と語りだす、独特の口調に、また、作者のアイデアの閃きを感じた。また、生理まで晒しだすなまぐさい露骨な描写は、若い女性ならではかもしれないと思った。 「くるまの娘」は今、読みかけたばかりだが、こちらも面白そうだ。
金田清志さん 2023/1/30 19:01
「推し、燃ゆ」感想、
「文藝春秋」2021年3月号で読みました。
一読して、「これは子供から大人への不安定な、思春期の小説かな」と感じた。
人間は(誰でもというわけではないが)生きがいがなければ不安になる時期がある。年齢を重ねても韓流ドラマにはまったり、お気に入りのタレントの追っかけをしたりと、誰でも生きがいはある。しかし通常は自分の全て(全財産)を賭けて、とはならない。
人によっては魚が好きな者もいるし、虫が好きな者もいるし、動物が好きな者もいるが、なんでそんなに好きなのかと聞いて「だって、可愛い」等と言われても、他人には理解できない。
この小説の主人公は真幸を推すことに生き甲斐を感じているのだから、周りのどんな忠告も受け入れられない。
主人公は4歳の時に観た「ピーターパン」が心の中に残っていて、そのCDを観て、真幸への推しへ傾いていく。
これから大人になる思春期の不安定な子供にとって避けて通れない時期を共有しているような感じをうけたのではないか。推しを推す理由はそれだけではないかも知れないが、大きなウエイトを占めていたに違いない。思春期の小説と言う理由である。
だが、終わり方が自分にはすっきりしなかった。
この小説は他の方も言うように表現が巧みであり、独特の表現もあり読みがいのある作だった。
藤原芳明さん 2023/1/31 14:16
1. 人間の抱く幻想
2.何かに入れ込むこと
3.『推し、燃ゆ』について
4.作者について
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