「文学横浜の会」

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2001年9月2日


 「不況」

 失業率が5%を超えて、日本国中、まさに不況風が吹いている。

 それでも、この夏休みには何十万人もの日本人が海外旅行に出掛けた。 日本は本当に不況なの、とアジアの国々の人達には思われるかも知れない。 農村の娘が身売りされ、大学は出たけれど、 と言われた昭和初期の頃の不況とはだいぶ趣きは違うが、今日本は不況なのだ。

 新聞を見れば毎日リストラの記事にお目にかからない日はないと言ってもいい。 それも大企業、ひと頃IT関連企業と持てはやされた企業まで、リストラと言う名の、 人員削減を表明している。

確かに構造不況業種と言われる土木建築業は、バブル崩壊の“負”と公共事業削減等で、 大きな打撃を受ける事は間違いない。 しかしそれは時代の趨勢で、他国に比べて多すぎると言われる、 それら企業の淘汰は間違っていない。

問題は、それら構造不況業種からはじき出された人材を、他の業種にスムーズに移行させる事だ。 同時に、地方の活性化を図る必要がある。 何故なら、地方経済の多くが、構造不況業種と言われる企業に依存している度合が強いからだ。

同じ地方にお金をばら撒くのなら、道路や構造物等の“はこ物”を造るより、 自然林の整備とか老人介護にお金を使った方がいい。政府もその方向で動き出したようだが、 もっと早く動いてほしい。地方を元気にさせる方策を早く打ち出してほしい。

 一方、IT不況と共に、日本が最も競争力があると言われた家電を作る大企業までも、 こぞってリストラに取り組んでいる。 ひと頃、ITが国の産業を支えると言われたのはほんの1・2年前だ。 なんとも、産業の盛衰サイクルは慌しい。

家電に限らず、携帯電話等のIT関連製品を含めて、物を造る工場が人件費の安い中国等に移転して、 まさに空洞化現象がおきている。 安い物が入ってくれば、その結果、物の値段は益々安くなっていく。

問題は、そうした安い輸入品の影響を受けて、全てが安くなる、所謂デフレ現象だろう。 安くなる事はいいのだが、もっと安くなるかも知れない、と買い控えてしまう事からくる不況だ。 生産率も低下する。

日本ではデフレ現象だが、中国では空前の産業成長率を記録している。 そして少しづづ賃金も上昇して行くだろう。 私が中国を旅した10年ぐらい前、月収が日本円で1万円にも満たないと聞いた。 中国国内でも格差があり、地方に行くともっと安いと言う。 大きな目で見れば、一国だけでなく、世界規模での平準化がなされていると言えるのではないか。

そうした市場原理の中で、 日本のようにお上の規制で守られていた業界ほど、影響を受けている。 もうそんな時代ではないのだ。

 そう言った意味でも、聖域なき構造改革は大いに賛成なのだが、 先が見えないのはどうにも気になるし、成功するかどうかも気になる。

日本の大変革と言えば、比較的に近い過去では、明治維新と敗戦後だろう。 当然私はこの世に居なかったが、この二つの大変革は成功した、と見ている。 そしてどちらも民衆が追詰められていたからだと考える。

そう言った意味で、小泉内閣のしようとしている改革が成功するかしないかは、 言葉を変えれば、どれだけ国民が追詰められているかだと思う。

 それにしても、どう変えるのか日本の将来像を示してほしいものだ。

(KK)


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