「文学横浜の会」

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2002年10月5日


「組織的人間」

 10月の声を聞くと、さすがに秋の気配を強く感じるようになる。 紅葉の季節には早いが、先日行った奥日光の木々にも、盛夏の残滓はもう何処にもなかった。

季節は廻り廻って、確実に繰り返されると改めてつくづく感じる。

 がらにもなく感傷に浸っている訳ではないが、この一月の世の中の動きを見ていると、 やっぱりそうだったのか、と溜め息がでるのは、ぼくだけではないだろう。 一つは拉致問題で、もう一つは次々と明るみにでる企業の不祥事だ。 どちらもマスコミに取り上げられているからいやでも目につく。 一方は国家という組織が犯した罪で、もう一方は会社と言う組織が犯した罪だけど、 どちらがより罪が重いかと言えば、それは国が犯した罪だと思うよ。 受ける被害の大きさは圧倒的に国家の犯した罪の方だろうね。

受ける害の大きさを比較しても詮無い事だけど、どちらも人を裏切った点では同じだ。 被害者には本当に気の毒で言葉もない。

 組織のためとなると、どうして平気で犯罪を犯すのだろうか? 

よその国だけじゃなく、残念ながら日本だって過去に過ちを犯した。 先の大戦では、中国大陸や朝鮮半島で数々の過ちを犯した。 そもそも中央の意向とは全く関係なく、大陸に展開していた軍が勝手に引き起こした 戦争もあると言う。 日本と言う組織の中に「軍」と言う組織があって、軍の中にも「陸軍」や「海軍」と言う組織があって、 やたら複雑なんだ。書いていくと長くなるからこれ以上書かない。 誰しも自分の国(あるいは組織)が犯した過ちには目をつぶりたいよね。

でも歴史上、この手の犯罪を犯した事のない国家はないのではないか。 問題なのは、当の組織では犯罪とは思っていない事で、 往々にして当事者以外はそう言う事実は知らない事なんだ。 犯罪を犯した者も、当の国家(あるいは組織)の中では英雄であったり、愛国者として崇められたりで、 「なんなんだ!」と言いたくなる。

こう言うぼくも組織の一員だから、属している組織が何か犯罪を犯していないか気になる。 でも、仮にぼくが何かを知ってしまったら「そんな事は止めろ!」と言えるのかとても心許ない。
「じゃあ、お前は国が侵略されてもいいのか!」
「会社の収益がマイナスになってもいいのか!」
そう言われたら誰だってたじろいじゃう。そういう応えが判っている事を言う奴にかぎって声がでかいんだよ。 誰も失職は望まないし侵略されるのは御免だ。 だからこんな文章を書くのは気が引けるけど、 ぼくが被害者になる可能性もある訳だから大いに発言してもいい訳だ。

 企業の中には「内部告発」を制度化する会社も出てきたと聞く。 それだけ企業の不祥事は、その企業にとっては命取りになるかも知れない、と気づいたのだろう。 これも奇妙な事だが、組織を守るためなんじゃないかなぁ。 不祥事をおこすのも組織のため、それを告発するのも組織のため。なんとも人間の作る組織とは奇妙なものだ。

でも国家が国民に内部告発を強いるような国だけは絶対に御免被りたい。共産主義のそんな国があったっけ。 独裁者が統治する国では今もあるんだってね。そんな国は考えただけで身震いする。

 組織に属してない人間なんて、いないんだよね。

 それにしても拉致問題は、むごい、恐ろしい、そして遣る瀬無い。

<K.K>


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