「文学横浜の会」

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2003年6月1日


「6月、雑感」

 早くも台風4号が西日本に上陸した。随分と早いお出ましで、上陸後、熱帯低気圧に変ったと言う。 台風と熱帯低気圧の区別は、気圧とか風速とかで区別するのだそうだが、鬱陶しいのは同じだ。 しかし5月の新緑の季節から、確実に鬱陶しい雨期の季節がやってくる。 農業に従事する者には、水はなくてはならないものだから、鬱陶しいなどと言ってはいけないが、 やはり鬱陶しい。

相変わらず世の中は不景気で、と言うより先が見えないもどかしさで、 なんとなく暗い感じになっている。姪や甥が大学受験をした頃、 大学を卒業する頃には景気も良くなって、 就職にも困らなくなっているだろうと言った記憶がある。 その姪は卒業したが、その頃と比べてもなんら変る事はない。 いや、益々悪くなっているのではないか? 若年労働者の失業率が10パーセントを超えていると言う。 実際はそれ以上ではないかと思われる。 仕方なくフリーター等をしている若者を加えたら、失業率はもっと高くなるだろう。

中高年のリストラ問題が大きな話題になって、若年者の就職難がそれほど話題になっていないが、 由々しき問題だと僕は思う。 僕らが学生の頃だったら、きっと日本中を揺るがす社会問題になっていただろう。 ゲバ棒どころじゃないなぜ、きっと。

こんな状況に、若者は怒っていいのに、今の学生は本当におとなしい。 きっと「そんなに齷齪働かなくても、取り敢えずは親に寄生していれば、飢える事はない」 と思っているのだろう。 それを許している親も問題だけど、これは中高年のリストラ問題より、更に大きな問題だと思うよ。

若者が仕事に就けないと言うのは、 会社にとっても将来的には年齢構成がいびつになる事は言うまでもなく、 技術の移転が出来なくなる。これは将来に大きな問題を残し、大いに疑問だ。 若者の年収は、日本の会社では、中高年のおよそ半分ぐらいだろう。 ここは働く意欲のある若者を就職させる何らかの方策を至急とるべきだ。

それ以上に問題なのは、働く意欲も生きる意欲も無くした若者が増えている事かも知れない。 インターネットで知り合った男女が、簡単に自らの命を絶ってしまう。 なんとも不可解な世の中になったものだ。

華厳の滝に身を投げて自殺した、明治時代の一高生がもしこの時代にいたら、この現実をどう見るだろう。 不可解どころじゃなく、一体何を考えているのかと、呆れてしまうのではないか。 まあ、彼らは何も考えていない、と言ったら言い過ぎかも知れないが、 明治時代に自殺した一高生のような、哲学的な思索とは無縁な生き方だった事は間違いない。

*****

 今月、「個人情報保護法案」が成立(H15.5.23)した。 そして「武力攻撃事態対処関連三法案」、所謂「有事3法」がまもなく成立する。

「武力攻撃事態対処関連三法案と」は、
・安全保障会議設置法の一部を改正する法律案、
・武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案、
・自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案、
を指す。

どちらも戦後、様々な議論と国論を二分するような様々な激論の末、 いずれも歴代の首相が議題に乗せる事を躊躇っていた法案だ。 それがここにきて国会を通過・成立し、或いは成立する予定だ。

歴代の首相がこの二つの法案を議題に上げなかったは、政権の安定、を考えての事だと思うが、 それだけではないように思う。 法律と言うのは、一度出来てしまうと、廃案にするのは難しい。 そして時間(年)が経つと、往往にして、法律の理念は忘れられて、条文だけが残る。 期限が限られている時限立法でさえ、口実を設けて延長させてしまう事も多い。

世の中は、条文に書いてあるような事ばかりが起るのではない。 むしろ条文に書いてない事の方が多いだろう。時間が経てば尚更だ。 条文の解釈をめぐって、論争が起き、施政者は都合のいいように解釈するだろう。

そう言えば、イスラム教の女性が着ける「スカーフ」だが、 イスラム経典に「一番美しいところは隠しなさい」と言うような言葉があるそうだ。 その解釈で全身を隠す宗派から、髪だけをスカーフで隠す宗派まである。

法律は一度出来てしまうと、解釈によって斯様に変化してしまうのだ。 法律の理念は誰しも否定する者はいないだろうが、個々の条文となると、後々、 由々しき問題を起すかも知れない。

法案成立後も、この二法案に限らず、絶えず見守って、必要なら、立法精神に立ち返って、 再度作り直す作業も必要だ。

<K.K>


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