「文学横浜の会」

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2003年10月5日


「最近読んだ2冊の本から」

 最近読んだ2冊の本から。
2冊とは、
「日本奥地紀行」(イサベラ・バード著)、<高梨健吉、訳>、平凡社(東洋文庫240)
「ニッポン仰天日記」(ゴートン・スミス著)、<荒俣宏、翻訳・解説>、小学館
の2冊。いずれも明治時代の日本各地の見聞記だ。

「日本奥地紀行」は、 1878年(明治10年)5月から9月にかけて、イギリスの47才のイサベラ・バードと言う女性が、 維新後間もない東京(江戸)から、東北を北上して蝦夷地(北海道)への旅行記。

「ニッポン仰天日記」は、 1898年(明治31年)から1907年(明治40年)の間に、イギリスの博物学者ゴートン・スミスが二度の日本旅行を行い、 主に関西・関東を中心とした農漁村を訪ね歩いて、 西洋人から見た不思議な東洋の国・日本を書き綴っている。

同じ明治とは言え、出掛けた場所も年代も異なるが、日本と言う国を考える上で、 様々な示唆を含んでいるように思う。

 イサベラ・バードは東北の悪路と宿(汚くて、宿と呼べるものではない事も多かった)での蚤、 それに食べ物の調達に悩まされ、また女性ゆえの不安を抱きながら旅を続ける。 結局治安に関しては杞憂に過ぎなかったのだが、バードの不安は容易に理解できる。

「宿屋に着くと、群衆がものすごい勢いで集まってきたので、宿屋の亭主は、私を庭園の中の美しい部屋へ移してくれた。 ところが、大人たちは家の屋根にのぼって庭園を見下ろし、子どもたちは端の柵にのぼってその重みで柵を倒し、その結果、 みながどっと殺到してきた。」

何処に着いてもこんな有様で、村中の人が出てきた、と言う記述も多くあり、 ただじっと見つめる群集の目から逃れることはできなかった、と日記にはある。 西洋人を初めて見ると言う人々も多く、 「もう二度と西洋の’女’を見ることはできないから」と言う者までいて、宿の中では障子に穴を開け、 無数の目に絶えず晒されていた。何処の村々の老若男女、悉くがそうなのだから、 日本人の好奇心の強さと言っていいのか、著者は不気味だったとさえ言う。

農村ではとても綺麗とは言えない、不純物の入った米飯を出される事もあり、食事には苦労した。 その頃の農民(国民の大多数)はまだ風呂に入るという習慣がなかったからだろう、 各地でみるどの農民も汚らしく・みすぼらしかったとある。

無論、そんな地方では東京での政治がどうなっているのか、天子様(今の天皇)とか、 そんな事はほんの一部の者にしか解っていなかっただろう。

 蝦夷地のアイヌ人の記述は、西洋人の目を通した視点で書かれていて、面白い。

 と本の内容はそこまでにする。

 戦後のニュース等に出てくる、進駐軍に虱取りのDDTを頭からかけられている映像を見て、 ぼくはこれまで、戦後の混乱で蚤が発生した、と思っていたがずっと蚤と共存していたのだ。 書かれていた内容と今との格差に驚くばかりだが、 百年という時間が、こんなにも長いのかと思い、よくまあこんな日本が、日清、日露戦争を戦ったものだと思う。 農民の犠牲があって戦えたのだが、その延長上に第二次世界大戦があった事は間違いない。

 二つの書物に出てくる日本人はどうして醜いのだろう。ここで言う醜さとは見た目の事だ。 写真や人物画を見ると、やはり醜い。背丈も小さく、づんぐりむっくり。 生活環境も大きく変ったが、日本人の体型もその当時と比べて変った、と思うのはぼくだけだろうか。 その変化はうれしい。

 それに、二つの見聞記に共通しているのは、日本の治安の良さと、好奇心の強い礼儀正しい国民性、 が書かれている。これも誇っていい。

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 自民党の総裁が決まって、第二次小泉内閣がスタートした。 内閣の顔ぶれを見ると、選挙対策内閣なのだそうだ。国民受けする幹事長と大臣。 国民受けするとは、どういう事なんだろう。人気があると言うことなんだろうか。 単にマスコミに取り上げられているだけなんじゃないかなぁ。

 民主党と自由党が一緒になって、次の選挙が面白くなった。 面白くなったなんて、不謹慎だけど……。

 日本の民主主義って、ほんと歴史が浅い。 明治時代のガイジンの書いた旅行記を読んだからじゃないけど、 日本の政治の現状は、やはり今の日本そのものなんだと思うね。 明治維新以来、「富国強兵」「西洋に追いつけ」の掛け声の下、がむしゃらに進んで、 外形だけはどうやら「追いついた」らしいけど、内面(精神と言ってもいい)は民主主義とは程遠い、とぼくは思う。 何しろ、ぼくたちは自ら「民主主義」を勝ち取った、と言う歴史に乏しい。

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 最近、犯罪が紙面に出ない日はない、と言うほどに日本の治安は悪化している。 些細なことから凶悪犯罪になるケースも多くなっている。豊かさと治安は正比例するのだろうか。 犯罪がこんなに身近になると、精神論ばかり言ってはいられない。 自分の事は自分で守る、そんな時代になったのだろうか。 なんとも厭な世の中だ。

<K.K>


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