「文学横浜の会」

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2007年5月6日


「民主主義と民意」

 夏に行われる参議院選挙の争点の一つに、憲法改正が挙げられる雲行きだ。 ぼくは憲法が絶対に不変のものだとは思わないが、状況からして改憲となると第9条問題が大きな争点になる事は間違いない。

憲法改正を推進する側と、反対を叫ぶ側との大きな考えの違いは、第9条の扱いにあると言っても過言ではない。 極論すれば、第9条以外の改正に真っ向から反対を叫ぶ勢力はそう多くないだろう。 もう一つ大雑把に極論すれば、国家間での問題解決に戦力を用いるのはやむをえない場合もあるとする勢力(改憲派)と、 いやあくまでも戦力は用いるべきではないとする勢力(護憲派)なのだろう。

 もう一方、現行憲法は敗戦後に戦勝国から押し付けられた憲法である、と言うことから、 半世紀以上過ぎた現在、そうした憲法を掲げているのは時代にそぐわないとする考えだ。 これだけを捉えれば、大方、同意するだろうが、実際問題となると第9条の扱いで国論は2分する。 それならば第9条は棚上げにして、と言う考えもあるが、改憲派の最大の狙いは第9条にあるから、 そんな単純にはいかない。

それに改憲派でも第9条の1項に反対する者も多くはない。問題は2項にあり、ここをどう表現するかが大きな争点となる。

<ここで、日本国憲法 第9条>
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第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、 武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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 国内各新聞社・報道機関が定期的に実施するアンケート調査によると、調査時点で若干の変動はあるものの、 改憲派と護憲派はほぼ拮抗している。それが現在の民意である。

憲法改正には、日本国憲法第96条に、 「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。 この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」 とある。

 ここでぼくが言いたいのは、国民の民意が必ずしも国会議員の数と一致していないと言う事実である。 だから憲法改正というような重要な事項に関しては「この承認には、 特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要」
なのだ。

それで先の衆議院選挙を思い出してほしい。先の選挙は「郵政民営化」問題を争点にした選挙だった。 国会が「郵政問題」だけを審議する場ではないのに、あたかもそれだけが争点のような選挙で、 結果はご存知のように「小泉劇場」の効果もあって与党の圧勝だった。

民主主義のわが国においては、国会議員の数がそのまま民意という事になるのだが、 先の選挙での状況を勘案すれば、現在の国会議員の数は、郵政民営化に対する民意だろう。

民意ということで言えば、必ずしも民意だから正しいと言う事ではない。 イラク侵攻に一時は賛成の多かったアメリカ国民も、泥沼化に伴いアメリカの民意はイラクからの撤退に傾いていると言う。
歴史を振り返ればそんな事例は数多くある。

だから国会議員の数が民意ではないし、民意だから正しいと言うことでは決してない。

で、その後の政局はどうかと言うと、小泉首相は郵政民営化法案成立後、首相を勇退し、議員の数はそのままで、 現在の安倍内閣になった。安倍政権発足から現在まで、 その間、衆議院で圧倒的な数を有する与党にとって、数は力で、見方を変えればやりたい放題だ。

衆議院で圧倒的に優位な今、戦後の懸案事項だった様々な法案を、この際一挙に通してしまおうとの魂胆があるのかどうか、 教育改革法案を初めとする、国民投票法案、公務員改革法案等、様々な法案が提出、或いは計画されている。 これらの法案が重要であることは間違いないが、今直ちに着手しなければいけないかとなると疑問である。 無論、与党側もこらら全ての法案を通そうとは思っていないだろう。

その中の何をしようとするかで、安倍政権の方向性が見えてくる。

<K.K>


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