「文学横浜の会」

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2016年 6月 7日


「日本のリスク」

 緊急地震情報の絶える日はない。

とりわけ九州地方、熊本近辺を震源地とする緊急地震報道は今もやまない。 大きな地震に立て続けに2度も見舞われた熊本県民の心は今も休まる暇はないだろう。 熊本にしろ、京阪神地区にしろ、大きな地震に見舞われる前は、地震は起きない地区と思われていた。 幾ら地震学が進歩し、学問が進んでも、自然を相手となると、まだまだ未熟、と言う事なのだろう。

自然が相手と言えば、何せ時間軸がとてつもなく長い。文明が起こり、学問が進歩したとは言うものの、 地球が出来てからの時間軸からみれば、その期間は僅かだ。 他の生命体とはっきり異なる人類が生じる遥か前、自然、つまり地球は存在し、刻々とその姿をかえ、 今も変え続けている。 幾ら学問が進んだとは言え、自然を知り尽くす事は、人間の知性では不可能だと言わざるを得ない。

日本中何処でも、M7程度の大きな地震に見舞われる可能性はあり、もっと大きな時間軸で想像すれば、 世界の大陸や島々も、同じような形で存在し続けることはない。 徐々に地殻変動が生じていて、時には大きな変動を生じさせ、我々生命体に大きな打撃を与えるだろう。

そんな事を考えると思考停止になるから、取り敢えずは現状の問題を直視しなくてはいけない。

 取り敢えずは日本の問題だけが、M7程度の地震は何処でも起こる、と考えた方がいい。 当然、それに備える準備だが、家や建物はどんなに耐震基準を強化しても、費用対効果を考えれば限界がある。 取り敢えずは人命に被害が及ばない程度の対策がまずは必要だ。

それから原発の事がやはり問題になる。福島の例を見ても、一度汚染されれば取り返しのつかない事になる。 絶体に原発を使わなければいけない、と言うのなら兎も角、他に発電手段はいくらでもあるのだから、 止めた方がいいと言うのがぼくの基本的立場だ。使用燃料の後処理問題も解決されていないのも大きな問題だ。

しかし一方で、既に使用済み核燃料は堆積しているのも確かで、それをおろそかには出来ない。 そして人類が核エネルギーの手段を持っているのも確かな事実で、安全対策に対する技術が出来ていないのも現状だ。 それで原発の使用が反対されているのだが、安全対策の技術さえ確率されれば、との想いもある。

しかしそのための費用は莫大なもので、何時確率出来るのかもはっきりしない。 だから原発は駄目だと言うのだが、それなら安全対策の技術の為の費用を捻出するためにだけに、最低個数の原発を稼働する、 と言うのはどうだろう。

無論リスクはある。しかしリスクのない社会などこの世にはない、と言うのも確かだ。 これまで人類は様々なリスクを克服して現在に至っている。広い海原への未知の航海へ船出したのも人類だし、 大空へ飛び立つ夢を実現したのも人類だ。はたまた宇宙への旅立ちへと、人類は着々と歩を進めてもいる。

どうして核の安全対策、或いは使用済み核燃料の処理技術を開発できないのだろう。 きっと可能なはずだ。それなら安全な技術が確立されてから原発を使用すればいい、と言われるかも知れない。 しかしその研究開発には莫大な費用が掛かる。その為の原発なら許してもいいのではないか。

 つまり国のエネルギーの何%と言う事ではなく、1ヶ所、2ヶ所と言った感覚だ。 しかも最も安全とされる、どんな条件でも人が避難可能な場所に限り、と言う条件付きで。

   *

 日本のリスクを考える時に、財政問題は無視できない。

日本の借金は1千兆円を超えているのに、またしても消費税10%は先延ばしされた。 まあ払う方から言えば悪い事でもないのだが、社会保障費の先々を考えればそんなに安心してもいられない。

社会保障費とは年金、医療費に代表される。これが毎年数兆ずつ増えている。収入がないなら支出を削れ、との意見もあるが、 そんなおいそれと削れるものでもないし、削れても数千億円と桁が違う。そんな甘いものではない。

日本のバブルが弾けたのは1990年代だが、1980年代には、何時バブルが弾けるのか、一部の者はおっかなびっくりだった。 今の日本の株価はバブルだと言っても、当時、そんな声はかき消され、日本全体がバブルに浮かれていた。 どんなにまっとうな意見を言っても、バブルに浮かれている中ではかき消されてしまう。

日本の今の財政はそんな風なのではないかと危惧している。無論、杞憂になればいいが。

そもそも1千兆円もの借金を作った責任は政治家、そうした政治家を選んだ国民にある。 日本は定期的に大災害が起こる地域だ。その度に莫大な復興資金もいる。 財政が破綻しそうだから出せない、とはなってはならないのだ。 その為にも財政は健全にしておかなければいけないのに…。

まぁ、大インフレを起こして一気に解決するか、小さなインフレを起こして少しづつ解決するかしかないが、 大きなインフレは突然やってくる。それは国民に多大な混乱と苦難を与えるだろう。

そのリスクの方が取り敢えずは高い、と思うのだが…。

<K.K>


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