「文学横浜の会」

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2019年 5月13日


「無駄について」

 先月末の転居による慌しさで、新しい時代を迎えた賑やかな世相を横目で見ていた。

今の中高年にとって、改元、つまり新しい年号を迎えたのは2度目の体験だが、 若い人達には初めての事で、改めて日本の国を体感したのではないだろうか。 そして現行天皇制、男系天皇について考えてもらいたい。 ぼくは先月書いたが、女系天皇も認めるし、皇室典範もそのように変えた方がいいと思う、

さて、今回の転居で、ぼくは大きな転居はこれで四度目である。 大きなと言うのは、学生時代を含めて都内で何度か、リヤカーや友人の車によって転居した記憶があるからだ。 その頃は持ち物も少なく、借りた部屋はただ寝るためだけ、と言った時代もあった。

四度のうちの二度の転居は実家を離れて、一人での生活を始めるための転居であり、 もう一つは社会人になって十年近く経ち、事情があって実家に戻った転居だ。 この二度の転居はぼくにとって、物的にと言うより精神的に大きな転居だったと思う。

ここでは転居の理由は述べない。

言いたいのは物の多さであり、不用な物の多さである。 恐らく多くの家で、今転居するから家の中を整理しだしたら同じような体験をすると思う。 二十年三十年と長く住んでいれば、本人の自覚や性格にもよるだろうが、不用な物も多く抱えている。

特に衣服や道具、それに趣味に関わる品々。これらは理由はそれぞれだが、そのまま何年も目にする事もなく、 家の何処かに眠っている。 当然のことながら家の大きさによって不用物も多くなるのは判るが、マンションの一室でも、 寝るスペース以外は物に占領されている、と言う方もいるらしい。 こうなると病的現象だ。

一時使用して、別に新しい物を購入し、それ以来忘れ去られたもの、と言うのなら理解できるが、 中には封も切らずにそのまま忘れられていたのもある。どうしてそうなったのかも判らない。 恐らくそんな箱が各家庭の奥に潜んでいるだろう。

多くは貰い物が多い。
会社勤めをしていると、付き合い上様々なお金を出す場合がある。結婚祝い、病気見舞い、子供の誕生祝い、 結婚式の引き出物、香典、等等。

お金を出すのはいいのだが、その半返しと言うしきたりがあるのがその原因だと思う。 たいした金額を出した訳ではないから半返しは多くの場合ハンカチ、タオルの類だが、 中には結婚式の引き出物らしき高価そうな物まで眠っている。幾ら高価とは言っても、貰い物とはそんなものだ。

メルカリなどない時代だから、いや例えメルカリがあったにせよ、貰い物をネットで売るには抵抗がある。 わり切ってしまえばいいのだが、そう割り切れないのも人情だ。 と言う事で封も切らずに押し入れの奥で埋もれたままの品々のなんと多い事か。 何時だったか、亡くなった方の跡片付けを身内の者が行うドキュメントを観たが、そんな箱が数多く出てきた場面を見た。

自分で買った物でも、そのまま、と言うケースもある。 一度か二度使用、或いは着て、あとはそのままと言うケースも多々ある。

つまり無駄なのだ。
無駄が多いのだ。
特に半返しのしきたりなどやめた方がいい。

それで無駄が多いから、買わなければいいのだと思うが、それでは産業が衰退するらしい。 お金が回らなければ、つまり物が売れなければ不況になるのだと言う。

ぼくらの学生時代はスマホなどなかったし、携帯も高価で重くて、個々人が手軽に持てる物ではなかった。 だから出費先は衣服であり、本であり、趣味に関することだった。 それが今の若い人達はスマホ等の経費が主な出費と言う。 ぼくらの時代とお金の掛け方が違ってきたらしい。それで今は情報産業分野が活況なのかも知れない。

恐らく、そうした経費にも多くの無駄が含まれているのだろう。 目に見える物ではなく、目に見えない多くの無駄があるに違いない。 現在は情報産業が盛んだと言うが、産業とは多くの無駄な購買力に支えられているのかも知れない。

ゴミの山を見るにつけ、 無駄と言う事を考えざるを得ない。 使われなかった物がゴミとして捨てられる現場をみて、 産業を衰退させないためには購買力を刺激させ続ける事だと言う現実を知り、 現代の産業の在り方を思う。

低開発国と言われる国々も、何れ購買力を付け、 物質的ゴミ輩出国になるだろう。 そして何時か地球はゴミだらけになる。そんな想像力を働かせてもいいのではないか。

働く原点は自分の食べる物を得るためにあるのだと思う。 時には現代人はそれを思い起こせ、と言いたい。 今の時代、働くのは自分が楽しむためであり、自分が満足するために働いている。 どうもそれが強すぎるように思えて仕方ない。

<K.K>


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