第一話「初冬の綾」


 天が凍るような冷たい空気。
 空には黄金の月がその存在を誇示するように、爛々と輝いている。
 季節は初冬。
 夜が最も冷たく、そして美しく感じられる冬が始まろうとしていた。

「・・・・・・・・・・」

 そんな中で、初冬の寒さすら生ぬるく感じさせる程の冷たい雰囲気がその『女性』を取り巻いていた。
 わずかにうつむいて微動だにしない。
 鴉の濡れ羽色、と表現するのが最も相応しいストレートの長髪が、夜の闇に溶け込んでいる。
 170cmを越える女性にしては高い背丈。
 そして、白い長袖とロングスカート。黒い髪にその清楚な服装は憎らしいほどにマッチしていた。

「・・・・・・嫌な色ですね」

 先程まで俯いていたその女性がそっと顔を上げて闇色の夜空を見上げた。
 その瞳からは刃のように鋭い光が発せられていて、清楚なイメージを一瞬で覆してしまう。
 だが、言い様もない美しさというならば、これ以上のモノはない。
 すらりとした女性がその端正な顔を月光に照らし佇んでいるのだ。
 おそらく、誰もが目を止めるであろう光景。
 だが・・・

「・・・・・・ふう」

 ため息をつきながら、再び歩き始める女性。
 その足取りはどこか頼りなげで、苦しそうにも見えた。
 しかし、その体から発せられる絶対零度の気は、誰もその道へ、その空間へ近寄らせない。
 いや、誰もが無意識的にその場所を拒絶している。
 絶対零度の気。
 それは世間で『殺気』と表現されるモノ。

「とりあえず、早く帰りましょう・・・・・・でないと・・・」

 ゆっくりと歩きながら彼女は再び夜空の月を見上げた。
 まるで暗い闇を視界に入れまいとするかのように。

「また、殺したくなってしまうから・・・・・・」

 大きな苦しみと、わずかばかりの悦楽を混じらせて、彼女は我が家へ向かう道を歩いていく。
 ゆっくり・・・ゆっくりと・・・
 彼女の名は、『霧生院 綾芽(きりゅういん あやめ)』。
 卒業を間近に控えた普通の大学4年生、であるはずだった女性・・・










 翌朝、綾芽はいつも通りに目を覚ました。
 目覚ましをセットしていながら、それより早く目が覚める。

「はぁ・・・今日も良い天気ですね」

 綾芽は窓から外の様子を見て、そう呟いた。
 冬に差し掛かっているということもあり、今日も肌寒そうな感じがする。
 だが、そんな日の方が空気は新鮮に感じられるものだ。
 綾芽はうーん、と伸びをして、今日1日の生活をスタートさせた。

「時間は・・・7時か。まだ大丈夫ですね」

 朝食のパンを手にとりながら、綾芽が時間を確認する。
 すぐ傍からは少し小さめのテレビが朝のニュースを流していた。
 何事も無いただの日常風景。
 しかし、そんな静かな日常が綾芽は大好きだった。

「あ、そうだ。夕べの洗濯物取り込んでおかなくては・・・」

 スリッパの音がパタパタと響く。
 ワンルームマンションで1人暮らしをしている綾芽は、家事は何でも1人でこなしている。
 実家が遠いわけではない。同じ地区には存在する。
 が、綾芽はとある理由から現在は実家を出て1人暮らしをしているのである。

「今日の講義は1限だけ。4回生は楽ですね〜」

 洗濯物を取り込みながら、綾芽は今日の予定を確認する。
 3回生までで単位をほぼ取り尽くしている綾芽は、ほとんど卒業論文の為だけに学校に行っているようなものであった。
 それ以外で学校に用がある、と言えば暇つぶしに図書館で本を読んでいるということだけだ。
 特にやりたいことも無い。
 平穏だが、刺激もない生活。

「こういう生活も・・・嫌いではないんですけどね」

 洗濯物を取り込んだ綾芽は、エプロンを外して、外出用のコートを羽織る。
 そろそろ登校時間だ。
 いつものんびりと歩いて学校に行く綾芽は、余裕を持って家を出るようにしている。

「そういえば今日は彼女も学校に来る予定でしたっけ」

カチャカチャ、ガチャン・・・

 戸締りを終え、家を出る綾芽。
 同時に澄んだ空気が綾芽の鼻を刺激する。
 冬特有の新鮮な空気だ。この空気を一杯に吸い込んで出かけていくのが、綾芽の癖であった。

「ん〜、はぁ・・・さて、それじゃ行きましょうか。彼女ももう登校しているでしょうし」

 綾芽の頭の中に思い浮かぶ1人の女性。
 同じ大学4回生で、とあるきっかけで知り合った友人。
 とは言っても、実はその彼女と並んで歩いていても、綾芽は同級生だと見られたことがない。
 綾芽がどうのこうの、と言うわけではなく、その彼女があまり大学4回生に見られない為なのだ。

「くすっ、可愛らしい方ですからね」

 いつもおこじょを頭に乗せている彼女を思い浮かべて、綾芽は小さく笑った。
 だが、彼女こそが今綾芽を学校に行かせている原因の1つでもあるのだ。
 彼女と話していると今までにない自分に気づかされることが多い。
 今日も新しい何かとの出会いを求めて、綾芽は期待に顔を綻ばせていた・・・・・・   続く


あとがき

ふっ・・・・短っ!!(笑)
いや〜、HPビルダーで作業して初めて気付きましたわ・・・
こんなに短かったんだねぇ・・・(苦笑)
まぁ、序章だしこれでいいか〜ゞ( ̄∇ ̄;オイオイ
とりあえず自分の持ちキャラを紹介する、という形で最初は書かせていただきました。
前半と後半で全く性格の違う『霧生院 綾芽』、ミステリアスは最初から出しておきましょう(笑)
ちなみにこの話、内容よりもタイトルで悩んでた覚えがあります・・・それらしいのが思いつかなかったんで。
『綾』っていうのはご存知のとおり形や模様といった意味もあるのですが、
複雑に絡み合った事情、とかそういう意味もあるんですよね・・・
5人が織り成すストーリーとしては、まぁ上出来なタイトルかな、と満足してます♪
響きも好きですしね(苦笑)
それでは次回執筆の方、後はよろしく(笑)

廃帝サマ