第六話 「数多の星が集った日」


ぴぴぴっぴぴぴっぴぴぴっ……かちっ………

 小さな電子音。
 最初は小さな音。次第に少しずつ音が大きくなっていくタイプの目覚し時計。
 だが、その目覚し時計は本領を満足に発揮する事が出来ず、三度程呼びかけを続けたところで持ち主に黙らされてしまった。
 小さな音でも目が覚めてしまう主を持ってしまうと目覚し時計は不幸と言えるかもしれない。
 その主、『霧生院綾芽』は今日も清々しそうに晴れやかな表情で目を覚ました。
 小さな欠伸を手で押さえながらカーテンを開く為に窓際へ。

「ん〜、今日も良い天気で……ぇ?」

 いつものように伸びをしてカーテンを開けた綾芽は言葉を途中で飲み込んでしまう。
 雨。
 たったその漢字一つで綾芽の清々しい気分は少し憂鬱なものになってしまった。

「昨日まで良い天気だったのに。ちょっと残念…っと、そういえば夕べ洗濯物干してたんでしたっけ」

 ふとその事に気付いて綾芽は上着だけを羽織ってベランダに干してある洗濯物を取り込んだ。
 傍から見れば完全に主婦である。
 同じワンルームマンションに住んでいるお隣さんからは少し前までそう思われていたくらいだ。

「まだそんな歳でもないんですけどね」

 苦笑いを浮かべながら洗濯物を取り込み終える。
 朝の一仕事を終え満足した綾芽は、食パンをポップアップトースターの中に入れて着替えを始めた。
 制服がない分、大学というものはいつも服装に悩んでしまう。特に女性は。

(最近めっきり寒くなってきましたしね……どうしましょうか)

 クローゼットの前でキョロキョロと視線を動かし、服選びに悩む綾芽。
 結局のところどれでもよかったりするのだが少しでも暖かいに越した事は無い。
 最終的には黒のロングスカート、黒いハイネックのセーターに上から黒いロングコートを羽織って寒さを凌ぐことにした。
 雨のせいで太陽が出ていないので黒にした意味はあまりないかもしれないが……

(とりあえず気分の問題ですよね)

 着ていく服をクローゼットから取り出し、とりあえずハンガーで扉の上部にかけておく。
 その時、丁度良いタイミングでトースターからカシャッとトーストの跳ね上がる音がした。
 ニュースを見るためにテレビをつけ、マーガリンを少量つけたトーストを口に運ぶ。食事を終えると少し甘めのコーヒーで喉を潤す。
 これが彼女の毎朝の日課。
 ゆっくりと落ち着ける自分だけの時間。それは外が晴れていようが雨が降っていようが変わることの無い時間。
 自分だけの空間、自分だけの時間。彼女にとって大切な生活の一部であった。

「あっ……と。もうこんな時間。そろそろ出ておかないと」

 壁掛け時計に視線を移し、はっとした表情で立ち上がる綾芽。
 いつもならまだまだ余裕がある時間なのだが今日は雨だ。多少のタイムロスは計算していかなければならない。
 それに先日のように『彼女』が早めに来てくれていたら雨の中待たせてしまう事になる。
 それだけはどうしても避けたかった。
 綾芽は急いで先ほど壁にかけた服に着替えると、艶やかな長髪を後ろで一本に束ねる。
 最後にロングコートを優雅に羽織ると、雨降りやまぬ中、『彼女』とのいつもの待ち合わせ場所に急いだ。





 案の定というか、予想通りというか……
 彼女、『朱音千春(あかね ちはる)』は可愛らしい傘を手に雨の中ぽけ〜っと佇んでいた。
 内心やっぱりと思い、申し訳無い気持ちになる綾芽。
 だが、それも千春が遅れまいと思いしてくれたこと。
 それを思うと綾芽は申し訳無い気持ちとありがたい気持ちで少し複雑な心境であった。

「千春さんっ」

「ふぇ? あ〜っ、綾ちゃんおはようございますぅ」

「おはようございます。申し訳ありません、雨の中待たせてしまいましたね」

「いえいえ〜、大丈夫ですよ〜。そんなに待ってないし、杉村さんがマフラーになってくれたから寒くなかったのです」

 見るとおこじょの『杉村さん』はぷいっと素っ気無い態度ながら千春の首を外の空気にさらさないようにくるりと巻きついていた。
 ぷいっとそっぽを向いてしまっているが、これは彼なりの照れ隠しだろう。
 なんだかんだ言いつつも彼はいつも千春の事を一番気にかけている。

(ふふっ、可愛らしい王子様ですね)

 この可愛らしい二人を見ていると心が暖かくなるのが自分でも判る。
 自然を綻ぶ表情を抑えぬまま、綾芽は杉村さんに声をかけた。

「おはようございます、杉村さん。今日も立派なナイトさんですね」

 挨拶と一緒に杉村さんの頭をそっと撫でる。

「む、オハヨウ……」

 杉村さんは挨拶を返すと先程のようにそっぽを向いてしまう。
 綾芽に撫でられたのは嬉しかったのだが、やはり気恥ずかしいのだった。

「さて、雨の中話すのもなんですし駅入っちゃいましょうか?」

「そですね〜、入っちゃいましょう〜」

 すっと先行する形となった綾芽の後ろからトコトコとついていく千春。
 まるで姉妹のような感じだ。千春が幼く見えるので余計にそう見える。
 後ろについて気付いたか、背が高い綾芽を後ろから見上げるようになった千春があれっと声をあげて綾芽に声をかけた。

「綾ちゃん、今日は髪の毛束ねてるんですかぁ?」

 先程は傘で影が出来ていた為すぐに気付かなかったようだ。

「え? ああ、これですか? ん〜、大して意味はないんですけどたまにはいいかなと思って。変ですか?」

 腰まで伸びる長い髪を後ろで束ねているとまるで動物の尻尾のようだ。
 その尻尾を手にとって不安そうに首を傾げる綾芽。
 元来ファッションに拘らない性格の為、変に見えやしないかといささか不安な様子だった。
 もちろん千春からすれば大抵ストレートに下ろしている髪を束ねていたのが珍しいだけである。
 フルフルと勢いよく首を横に振り、否定の意を伝えていた。

「そんなことないですよぅ、ちょっと珍しかったから。綾ちゃんが髪の毛束ねてるのが」

「そんなに珍しいです?」

 そういえば確かに最近後ろに束ねた記憶は無い。特に気にする必要が無かった為なのだが。
 これでも実家に居た頃は髪を後ろで束ねていた事が多かったので自分では違和感がないのだが、久しぶりに見る人にとっては少し不思議な感じがするのかもしれない。
 慣れた風景から一つ何かが変化していると首を傾げてしまうように。

「昔はよく束ねていたんですよ。今は下ろす方が気に入ってるのであまりしないんですが」

「格好いいですよ〜。ね、杉村さんっ?」

「そうだな、お前と違って大人っぽいな」

「むむ〜っ!」

 首に巻きついている杉村さんに千春は少し怒ったような表情を向けた。
 杉村さんはその反応を楽しむようにくっくっと小さく笑っている。

「ほらほら、電車来ちゃいましたよ〜」

 改札をくぐったところでホームに電車がやってくるのが見えた。
 二人の様子を笑ってみていた綾芽が声をかけて少し二人を急かす。
 千春は少し慌てながらも定期を改札に通して綾芽を追ってきた。
 ぷしゅ〜と電車の止まる音。続いて扉が開く。

「あぅあぅ」

「あら、今日は降りてくる人が多いですね」

 降りてくる人の波に流されそうになる千春を自分の後ろにやる綾芽。そして自分は扉の横へ。
 降りる人が全員降りてから二人は電車に乗り込んだ。いくらか降りたとはいえそれでも電車の中はいつもより混雑していた。

「やっぱり雨だからかなぁ?」

「多分……こういう電車の中って蒸し暑いんですよね」

 言って綾芽は苦笑いを浮かべた。コートを着てきたのは失敗だったかもしれない。
 コートを脱げば済む話なのだが、こう人が多くてはそれも出来ない。
 結局蒸し暑い中を我慢して学校へ行く事になってしまった。





ぷしゅ〜………

 気の抜けた息を吐いて電車がその扉を開く。
 二人はすぐさま駅に降りる。
 ひんやりと冷たい風が二人の間をすり抜けていった。
 学校最寄の駅に到着し、とりあえずは一安心。

「ふぅ……」

「綾ちゃん、お疲れ様〜」

「あ、ありがとうございます」

 綾芽は千春が差し出したハンカチを受け取って額に浮かぶ汗を拭う。

「暑かったですね、やっぱり」

「うん、雨の日ってすっきりするけどむわ〜っとするんですよねぇ〜。あれ?」

 自分で言ってどこかおかしい表現に思わず首を傾げる千春。
 そのあまりに可愛らしい態度に思わず綾芽に顔に笑みが浮かんだ。

「ふふ、そうですね。こういう日は外に出かけにくいですし、洗濯物も乾きませんから」

「お洗濯しても干せないですぅ」

「私、今日の朝洗濯物を干している事を忘れてしまってて慌てて取り込んだんですよ」

 そんな他愛も無い会話を続けながら二人は一つの傘に入って学校への道を歩いていった。





 その数時間後、太陽が真上に上がりようやく雲の隙間から日差しが差し込むようになった頃、

「黒木先輩、今日もお邪魔していいですか?」

「野々上か……今日は特に予定はないが……」

 とある高等学校の教室で喧騒に紛れて二人の話し声。
 丁度昼休みのこの時間。校舎という中で生活する学生にとって昼休みとは最もおおっぴらに活動できる至福の時間なのである。
 その時間を利用して『野々上有志(ののうえゆうし)』は先日世話になった先輩のところへと赴いていた。
 先輩と呼ばれた『黒木康斗(くろきやすと)』はどこか不機嫌そうに有志の言葉に答える。
 いつもながらどこか無機質な響きを持った声。
 だが、それは彼にとってはそれが当たり前であって、別段冷たくしているということではない。
 有志もそれを判っているので別段気分を害したりはしない。

「それじゃ構いませんか? またご迷惑をおかけしちゃうと思うんですけど……」

「気にしなくてもいい。もうお前の料理に心配はしてない」

「そうですか、ありがとうございます!」

「ただ……」

「?」

「後片付けはして帰るようにな……」

 そう言うと康斗は途中だった昼御飯の処理にかかる。
 有志はただ赤くなって俯くのみであった。

「そういえば、この間一緒に来た高水も来るのか?」

「え? い、いえまだ誘ってませんけど、多分誘ったら来ると思います!」

「そうか」

 ただそれだけを聞き、再び黙々と食事に戻る康斗。
 有志はこれ以上邪魔するのも悪いと思い、深々とお礼を言ってから自分の教室へと戻る。
 残された康斗は一つ溜息にも似た息を吐き、心の中で小さく呟く。

(………また騒がしくなりそうだな)

 これまでになく自分に接してくる人物が多くなってきた。康斗はそう思う。
 社交性など全く無い自分に暖かく接し続けてきた人物と言えば、同じアパートでもあの小さな管理人くらいのものだった。
 それがこの数日で一人増え、二人増え……

(珍しいこともあるものだ……)

 康斗はそう思った。ただそう思っただけだった。
 しかし、他人が自分に干渉してくる事に関して、特に面倒だと思わなくなってきている事にはまだ気付いていない……





 再び二人の大学生へ。

「すっかり晴れちゃいましたねぇ〜」

「ですね。帰りに夕飯の材料を買っていくつもりだったので晴れて良かったですよ」

 二人は同じように手で日光を遮りながら差し込む日を見上げる。
 雲は以前あるもののその隙間からは暖かみのある日がすーっと差している。
 まるで何かが降臨してきそうな光景だ。おそらく今日はもう雨は降らないだろう。

「綾ちゃん、お買い物していくんでしたら私も一緒に行きますよぅ」

「あ、はい。でも、よろしいのですか? ご予定とかは」

「今日は別に用事はありませんからっ」

 言って笑う千春に綾芽も微笑んで頷いた。
 買い物は誰か相手がいてくれた方が楽しいものだ。

「そーだっ。綾ちゃん、今日は私の家で晩御飯食べませんかぁ?」

「えっ?」

 少し驚いた様子で綾芽が千春の顔を見る。
 千春はナイスアイディアとばかりにぽんと両掌を合わせてにこにこしていた。

「そうですね」

 ちょっと考え込んだ綾芽だったが今日は用事も無いし、特に断る理由も無い。
 何より二人で食べた方が御飯は美味しい。
 買い物でも食事でも、相手がいるのは幸せなことなのだ。

「杉村さんも喜びますよ。 ネ、杉村さんっ?」

「………」

 千春の言葉に杉村さんは特に何も答える事無く千春の頭の上で寝返りをうった。
 はっきり物事を言う杉村さんにとって、この答えは『別に構わない』ということだ。
 折角の誘いなので綾芽はそれに乗る事にした。

「それじゃお邪魔致しますね」

「はいっ」

 綾芽の言葉に千春は心から嬉しそうに笑った。
 雨の上がった帰り道を二人が歩く。その足取りはいつもより数段軽く見えた。






「雨上がりましたね」

「そうだな」

 こちらも学校の帰り道。
 康斗と有志が少し水溜りの残る帰路を歩いていた。
 二人は今日も料理の特訓をするらしい、とは言っても実際特訓が必要なのは後から来る予定の輝和のみなのだが……

(特訓の成果……奴ほど結果が予想出来ない奴も珍しいな)

 康斗は相変わらず無表情のまま心の中で呟いた。
 基本的に物事に無関心な康斗にここまで思わせるほど輝和の料理の腕は凄まじいものだった。

「先輩?」

「ん、ああ。すまん、何だ?」

「あれって……」

 有志が促した先に見えるは二人の人影。
 二人は同じくらいの買い物袋を持ち、並んで歩いていた。
 一人は女性にしては背が高く、一人は女性としても小柄。
 康斗はその人物に非常に見覚えがあった。

「朱音さんか」

「やっぱり、そうですよね?」

 有志の方も小さい方の女性には面識があった。
 以前康斗の家にお邪魔した時に千春が家賃の集金に来た時だ。

「買い物帰りでしょうか?」

「だろうな」

 多少の興味を持っている有志と淡々と答える康斗。
 康斗にしてみればその光景は別段珍しい事でもないので驚く事も興味を抱く事もないのだろう。
 実際同じアパートに住んでいるのだし、千春が同い年の女性と買い物に行く姿も何度か目にしている。

「そういえば……」

「えっ?」

「あ、ああ。なんでもない」

 ふと口に出そうになった言葉を静かに飲み込む康斗。
 少し思い出した事がある様子だった。
 康斗は千春と一緒に歩いている綾芽を初めて目にした時の事を思い出していた。

(少し違和感のある雰囲気を持っている人だったな……まぁどうでもいいが)

 どうでもいい。
 しかし、彼が今になってその事をはっきりと思い出したのは周りの人間の事が少しずつ見えてきたからに他ならない。
 言ってみれば周りに多少興味を持ち始めた、と言うのだろうか。
 そうは言っても常人からすれば到底判りはしないレベルでの話だが。
 そのような変化を康斗に齎した人物。それは言うまでも無い。

「あっ、黒木さんだ!」

 康斗が思考の世界に入っている間に前からやってきていた千春が康斗に気付いた様子だった。
 てってってと小走りに駆け寄って来る。

「えへへ、こんにちわぁ」

「どうも」

 満面の笑みを浮かべる千春と無愛想に対応する康斗。
 見ていると少し妙な光景だ。

「今お帰りですかぁ?」

「ええ。今日も後輩に料理を教えることになってまして……」

 言って康斗はスッと体を横にずらす。後ろにいる有志の姿を千春の視界に入れる為だ。
 ちょっと首を傾げながら康斗が促した方向を見やる千春。
 だが、その表情はすぐにぱぁっと輝いた。見た覚えのある顔だったからだ。

「こんにちわっ! 確か野々上君……でしたよねぇ?」

「あ、はいっそうです。こ、こんにちわ!」

 有志にも元気な笑顔で挨拶する千春だが、有志の方は今ひとつ表情が硬い。
 以前会った時、別れ際に取った態度を気にしている様子だった。
 当の千春自身は全く気にしてはいなかったのだが。

「野々上君、練習熱心ですねぇ。この間上手くいったのに今日も練習だなんて凄い熱心ですぅ〜」

「あ、え、と、いえ。今日は僕じゃなくて……」

「はぇ?」

「もう一人後輩が来るんです。特訓が必要なのは実はそっちというわけです。こいつが熱心というのも本当ですがね」

 あせあせと答える有志をフォローする形で康斗が千春に答えた。
 それで千春も納得した様子である。
 と同時に、康斗と有志の二人が買い物袋を持っていない事に気付く。

「材料はこれから買いに行くところですか?」

「そうです」

「私も一緒に行こうかなぁ? お料理教室なら私達も見てみたいですよぅ〜」

『ええっ!?』

「ねっ、綾ちゃん?」

「そうですね。料理は作るのも食べるのも大勢の方が楽しいですから」

 後ろを振り向いて綾芽に尋ねる千春。その千春に綾芽は相変わらずのほほんと答えた。
 言われた方の康斗と有志はわずかの間固まってしまう。

「ですが……ご迷惑をおかけするだけだと思いますが……」

「お料理に失敗は付き物です〜。それに今度こそ千春特製のお好み焼きを……」

 唐突な話に多少困惑気味の康斗と楽しそうな千春の会話を、有志は固まったまま、綾芽はにこやかに見守っていた。
 千春は有志、康斗共に面識はあるが、綾芽は有志とは初対面だ。にこっと微笑んで有志に会釈する。

「!」

 瞬間金縛りが解けた有志は顔を真っ赤にして俯いてしまう。年上の女性に微笑まれて顔を赤くしてしまうところに有志の純情な部分を見る事が出来た。

(あらあら、可愛らしい方ですね)

 今時こんな少年も珍しいと思う。と言っても彼は既に高校生だ。
 好感の持てる人間だと綾芽は認識した。
 その時ふいに千春からの声が綾芽の耳に届く。

「それじゃぁ行きましょう、綾ちゃんっ!」

「え……と、結局のところ何がどうなってしまっているのでしょうか?」

「ほぇ? これから黒木さんの家で皆でお食事する事になったので一緒に行きましょぅって事になったのですよぅ」

「あ、そうだったのですか。ごめんなさい」

 綾芽がぼけっとしている間に話は進んでいたようだ。
 ちょっと思考の世界に入ってしまうと周りが見えなくなる。
 それはちょっとした綾芽の癖であった。

(いけないいけない)

 少し苦笑いを浮かべながら綾芽は千春の手を取り一緒に歩き出す。
 康斗と有志の二人は何を買うか相談しながら先を歩いていた。
 既に買い物を済ませていた二人だが、再び先程買い物をしたスーパーへと足を向けるのであった。





 再び戻ったスーパーでレジ係のお姉さんに少し不思議な顔をされながらも、四人は買い物を済ませた。
 その時まるでそれを待っていたかのようなタイミングでとある方向から声が響く。

「おーい野々上〜!」

「あ、高水君」

 急に届いた声に特に驚く事もなく対応する有志。
 どうやら先程康斗が言っていた『特訓が必要な一人』とはこの少年のようだ。
 綾芽はこの少年とも当然初対面である。有志と同じ学校の人間なのだから面識がある方が不思議なのだが。
 しかし、綾芽はどこかでこの少年に会っている気がしてならなかった。
 綾芽は記憶の糸を辿ってその人物を思い出そうとする。
 だがその前に、

「あ、この間杉村さんを届けてくれた人ですよ、綾ちゃん〜」

「あ!」

 綾芽が思い出す前に千春がその人物を思い出す。

(そういえば。以前通学する時に見かけましたね。確か電信柱に頭をぶつけていて……)

 ふと先日の事を思い出す。

「くすくす……」

「綾ちゃん?」

「ああ、いえいえ。何でも」

 思わず洩れてしまった笑い声に千春が不思議そうに首を傾げた。
 頭の上に乗った杉村さんも慣れたもので落ちないように態勢を整える。
 綾芽は千春の頭をそっと撫でてから、康斗、有志、輝和の三人を視界に入れた。

(縁……というのでしょうか。巡り会いというのは本当にあるものですね……)

「それも、これだけ不思議な気を持った人達ばかりが……」

 穏やかな表情のまま瞳を閉じる綾芽。
 そうすると都会の色に混じって自分の周りにいる人間のオーラがはっきりと感じられる。
 表向きは微弱なオーラ。
 だが、綾芽は気づいていた。本人達が故意にその気を封じ込めているのだと。
 理由は知らない。問う気も無い。自らの力を隠したい気持ちは少しくらいなら理解出来るから。

「? 綾ちゃん、何か嬉しそうですねぇ」

「え、そうですか?」

「うんっ、今凄く優しい顔してましたぁ」

 無垢な笑顔で綾芽を見上げる千春。
 思えばこの笑顔に自分は救われっぱなしだ、と綾芽は思う。

(これも一つの力、ですか)

 傷つける力もあれば、癒す力もある。
 自分は世間に溶け込む人間ではない、と少し前までは思っていた。この小さいながらも大きな力を持つ春に出会う前までは。
 それで自分の持つ力が失われるわけではないが、初めてその時自分の力の使い方を教えられた気がしたのだ。

「きっとあの方達も……」

 そう思う。
 まだ迷いの中にある気を纏っているが、彼らも同じような意識を持っている。もしくはこれからきっと気付く。
 自分の力を蔑まずに生きる方法を……

「行きましょうか、千春さん」

「えっ?」

「お礼、申し上げるのではなかったのですか?」

「あーっ、そうですよぅ、すっかり忘れてましたっ」

 はっとした表情で輝和の下へ駆け出す千春。早く礼が言いたくてたまらないのだろう。
 綾芽はその小さな後姿を見ながら小さく微笑む。
 そしてゆっくりとその後に続く。そう、ゆっくりと。薄雪を包み込む千の春に導かれるように……   続く


あとがき

どーも、廃帝サマです〜。遅くなりました(笑)
仲間内からはさっさと書けと言われつづけ、やっとこさ書き上げました(;^_^A
しかし……ふっ、しょぼ(涙)
時間かけてこの程度かい(T_T)
本当ならもっと早くアップ出来てないといけないんですけどね〜。
まぁ言い訳続けてもなんなんでこのあたりで(笑)
んでは、次のみるきぃさん、よろしくです〜。