「祐巳ちゃん、待っていてくれないかな?」

「・・・えっ?」

「私が自分に自信を持てるまで。
いつまで掛かるかわからないけど、必ず迎えに行くからさ」

抱きしめられているから白薔薇さまのお顔は見えないけれど、
きっと今まで私が見たこと無いような真剣な表情に違いない。

「本当はね、言うつもりじゃなかったんだ・・・」

独り言の様に話し始める白薔薇さま。
抱きしめられたまま、私は話を聞きつづけた。

「祐巳ちゃんに自分を待ってもらえるなんて思えなかったし、
なにより、祥子が・・・いるからね・・・」

ちょっとだけ抱きしめられる力が弱まった気がすると、
少しだけ白薔薇さまの体が私から離れた。

「負け戦になるかもしれない勝負だから、
勝負をすることすら宣言する気なんてついさっきまで無かったんだ」

そう言いながら鼻で笑う白薔薇さま。

「だってカッコ悪いじゃない?この私が負けるなんてさ。
でも、祐巳ちゃんにチュ―されたらそんな考えぶっとんじゃった。
だって、祥子にはチュ―なんてしたことないでしょ?
自分の方がリードしてるかな・・・なんてね・・・」

気のせいかちょっとだけほほに赤みがさしたように見える。

「あは、話しちゃったよ。
負けるかもしれないのに・・・最後はカッコよく決めたかったのに」

もう一度ぎゅっと抱きしめられる。
白薔薇さまの心臓の鼓動が伝わってきてる。
相変わらず独り言の様に話してる白薔薇さま。


「・・・カッコなんてどうでもいいじゃないですか」

な、何を言ってるんだ自分。

「カッコなんてどうでもいいんです」

「今、答えてと言われたら困りますけど、
私にも時間がもらえるのなら、考えておきますから」

「だから・・・自信をつけるまで、私、待ってます」

「ありがとう。祐巳ちゃんは良い子だね。
卒業をする身の先輩を勇気付けてくれるんだ」

「私・・・本気ですよ・・・待ってますから!」

「はいはい。それじゃぁ回れ右!」

肩を両手で捕まれると同時に回れ右をさせられた。
そして、軽くポンと押し出される。




・・・なんて事が2年前の卒業式にあったんだっけ。
早いね、もう自分が卒業する立場だもんね。
(結局、聖さま迎えに来てくれてないな・・・)



「祐巳ちゃん、おひさ!」

そう言いながら飛びっきりの笑顔を見せる白薔薇さまのお顔には、
迷いや不安なんてまったく見えない。

頭の中にパッと映像が浮かび上がる。そして思った。
私はきっとこれから話される白薔薇さまの申し出を受けることになるって。


〜こうして物語は始まるのでした〜


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