〜1〜

福沢祐巳は、高校の卒業式を終え、
自宅に向かって歩いているところであった。
長いようで、あっという間に過ぎてしまった
リリアン女学園での高校3年間の思い出に浸っていた。

人生に「もし」なんてことはないのだけれど、
高校1年のとき、憧れの祥子さまに妹にしてもらっていなかったら、
今ごろ、こんな感慨深い思い出など出来なかったのではないかと思う。
歩きながら、リリアンで出会うことのできた、さまざまな人の顔を思い出していた。

そのうちの一人、私が1年生の時に白薔薇さまとして、
山百合会の生徒会長の一人だった、佐藤聖さまのお顔、
あの、おやじじみたニヤケた顔を頭に浮かべていた時だった。

「祐巳ちゃん、おひさ」
どこからか、呼ぶ声が聞こえた気がする。
念のため、あたりを見渡してみる。誰もいないようだけど。
「こっち、こっち。もう、私のかっこいい姿を忘れちゃった?」
まさか、白薔薇さま?そんなはずはない。
空耳だろうと、また歩き始める。

2・3歩、歩いた所で、肩に誰かの手の感触を感じる。
「まったく、相変わらずだね。せっかく私が声を掛けているのに、無視していくんだから」
「白薔薇さま!」
「おっと、祐巳ちゃん、もう私は白薔薇さまじゃないんだからね。聖で良いよ」
そういわれたところで、今までそれ以外でお呼びしたことがないのだ。
ましてや、呼び捨てなど、リリアンでの学園生活に慣れているものには酷である。

「ごきげんよう、・・・聖・・・さま」
「んっ、まっいいか。ごきげんよう。
そうそう、祐巳ちゃん、卒業おめでとさん」
もしかして、たまたま私を見かけて、声を掛けてきてくれたのかな。
そういえば、白薔薇さまって、卒業して、大学の近くに一人住まいをしたと聞いたし。
「ありがとうございます」
祐巳は、頭を下げながら、御礼を言う。

「でね、今から部屋にこない?」
「はっ?」
「だから、私の部屋に来て欲しいんだってば」

頭の中が混乱していたが、いつのまにか、
白薔薇さまに腕をつかまれ、
ずるずると、自宅とは別の方向に引っ張られていく。
「せ、聖さま、私自宅に帰る途中なのですけど・・・」
「いいから、いいから。黙ってついてきてちょうだいな」

まったく、2年間会ってなかったから、
少しは変わってくれているかとちょっとでも思った
私がバカだった。白薔薇さまは、今も昔も、白薔薇さまだった。



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