〜3〜

祐巳は卒業式という、一大イベントを終え安堵の気持ちを持っていた。
…が、それさえを吹き飛ばした、聖さまの申し出。
もしかして、夢を見ているのだろうか。
おもわず、手の甲をつねってみた。イタイ。
きっと、夢の中でも、痛覚は感じることが出来るのかもしれない。
どうしたら、これが夢か、現実か、区別が出来るのだろうか。

頭の中が支離滅裂。あーっ、どうしよう。
(わっ、聖さまが私のすぐ脇にきた。はっ、離れなきゃ)
そう思っても、体が硬直してしまって、すでに動けない。
顔もこわばり、気のせいか、冷や汗もかいている。
(夢なら覚めて、現実なら、消えて…)
ちょっと強引な願いも、やはり、本物の現実(?)には勝てなかった。

「祐巳・・・、会いたかった」 目と鼻の先まで寄ってきた聖さま。
息が感じられるほどまで 顔を私に近づけてきた。
えーっ、この状況てま・さ・か。
「なーんてね冗談だよ。いやー、やっぱり祐巳ちゃんじゃないとからかい甲斐がないな〜」
そういいながら、背中をまるめて、大笑いする聖さまの姿を思いだす。
(きっと冗談、きっと冗談…)そう思いながら、思わず目を瞑る。
(えっ!?)唇に感じる柔らかく、そして温かみのある感触。
息が止まる。思わず目を見開く。

そこには、目を閉じて祐巳に口づける聖さまの姿があった。
いつのまにか、聖さまの腕が、祐巳の背中に回っている。
何度も、聖さまから抱きしめられたり、「キスして」とねだられた割には、
ほとんどしたことなどない。 あるとしても、聖さまが、冗談で、祐巳のほっぺにチュウをしたぐらい。
祐巳からは、卒業式の日に、騙されて「餞別」であげた、やはりほっぺへのチュウだけ。
それに、祐巳は、今の今まで聖さまといて、鼓動が早くなるようなことはなかった。

が、今は違う。突然の申し出と、ついていけない聖さまの行動。
バクバクと心臓がフル活動しているのを感じられる。
(温かい…)まるで何かを守っているかのような聖さまの口づけ。
優しく、包まれているような雰囲気に祐巳は緊張を解く。
それは時が止まったかのような、長い長い口づけ。
まるで、聖さまが祐巳と会うことのなかった、
2年間という時間を無くすかのような行動に見えた。


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