「あら?あなたが祐巳さん?」

頭の中がグルグルの私に話し掛けてくる謎の進入者。
「あなたは誰?」と思ったけれど、とりあえず聞かれたからには
答えるのが礼儀というもの。何とか妄想を打ち切った。

「は、はい。私は福沢祐巳ともうします、リリアン学園の大学に通う…」

なんでここまで言ってしまうのだろうとは思ったけれど、
パニックしているから仕方がない。
だって、何で私の名前を知っているのかさえ、
不思議に思わなかったのだから。

「あぁ、あなたが聖の言っている可愛い同居人さんね」

目の前に立つ未だに誰かわからない綺麗な女の人は、
顔を私のほうに向けると、ニッコリと微笑んでくれた。
年頃は20代後半。髪の毛は黒色だけど、
顔立ちはほりが深く、美術の時間のデッサンに使う石像のよう。
あれ?どこかでそんな人がいたような…

「ふふ、私が誰か不思議なのね。
それになんであなたのことを知っているのかね。
え?何でわかるのかって?
あなたって、考えていることがすべて顔に出すでしょう?
そうよ、だからよ」

私のほうは声は一言も出していない。
顔の表情と、わずかな体の動きでわかるみたい。
う〜ん、ますます近くにそんな人がいたような…

「紹介が遅れたわね。私は佐藤亜矢。聖の従兄弟よ。
よろしくね、福沢祐巳さん♪」




「ただいま〜」

謎が謎でなくなってから数時間後。
のんきな声が玄関先で響く。

「あ〜、お腹すいたよ…って、亜矢さんなんでいるの?」

リビングに入ってきた聖が見たのは話に熱中している二人。
しかも、一人は手をお腹にあてているし、もう一人は、
「らしいでしょ?」とか言いながら、口に手を当てて笑っている。

「あら…聖、お帰りなさい」

私はソファーの近くで口を開けそうになっている聖に声を掛けた。
亜矢さんの話があまりに面白かったから、ちょっと気がつくのが遅れたみたい。

「聖、お疲れ。祐巳ちゃんお借りしているわよ」

ソファ越しに手を振りながら帰ってきた聖に話し掛ける亜矢さん。

「何でいるの?」

「ご挨拶ね。私はここにきてはいけないのかしら?」

「まさか。ここはあなたの家でもあるんだから」

そう、実はここは亜矢さんと、旦那さんの部屋だったのだ。
それが急に旦那さんの海外赴任が決まってしまい、
そのときに思いついたのが、従兄弟の聖に貸すことだったんだって。
年に一度だけ会社の計らいで日本に帰ってこれるそうで、今回の帰国もそう。

「亜矢さん、前もって言っておいてよ」

「だって、聖をビックリさせたかったから」

「私はいいけど、祐巳が驚いたんじゃない?」

そういって、「そうでしょ?」と私のほうに顔を向ける聖。
ええ、驚きましたよ。いきなり知らない人が部屋に入ってくるし、
しかも頻繁に聖と会っているような口ぶりだったし、
もしかして聖が浮気しているんじゃないかと不安だったんだから〜!
だって…ありえそうなんだもの、聖って同性にもてそうだし。

浮気の部分は心の中で言って、後の部分を伝えたら、二人に大笑いされた。

「そうだね、確かに変質者だったら大変だったわね」と亜矢さん。
「いや〜、充分に亜矢さんに遊ばれたんじゃない?」と聖。…どういう意味?

しばし続いた談笑も、旦那さんとの待ち合わせ時間がきてお開きに。

「それじゃあ、明日は予定通り主人と一緒に来るわね」

亜矢さんは明日来るはずだったのだ…それは私も聞いていた。
「ここの大家が綺麗に使っているか見にくるってさ」と聖に聞いていたから。
でも、それは明日のことになっていたし、旦那さんと二人で来ると聖が話していたから、
今日の急な亜矢さんの来訪は聖も私も予想外だったのだ。


「祐巳ちゃん、聖が言ってた通りの人ね、大切にしなさいよ」

帰り際に聖に何かささやいていた亜矢さんの言葉がなんだったのか、私には届かなかった。


あとがき

番外SSなのでここに。(-.-)

カオリさんからの一言が面白かったので、即席SS。
「誰だと思う?」「聖さまの従兄弟?」…で生まれました。(笑)
な〜んも考えずに朝方、休日出勤する前に書きました。
え?これだけ書けるなら、とっとと続きを書け?
それは無理。前後の繋がりを考えて書くから、
意外と考える時間が必要なんですね。

本当なら、この話、もう少し長く出来そうだけど…
時間がないからヤメ!…この言葉、最近使った気が…。


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