「どう祐巳ちゃん?」

そういいながら振袖姿を祐巳に見せる聖さまは、
相変わらずいつものにやけた表情を見せている。
「孫にも衣装」という言葉は至言の見本とも思えるように、
朝早くから美容院で着付けと、化粧をしてもらい、
美容院の人の腕を「やっぱりプロ」とうなずいてしまうような
その姿に、確かに祐巳は見とれてしまっていた。
もちろん、本人にではなく、着物と普段と違う顔にだ。

「やっぱり成人式には着物が一番ですね」

祐巳がそう言うと、顔を曇らせる聖さま。
ツカツカと着物を着ているのに大股で歩いてくると、
祐巳にコツンとゲンコツをひとつ。

「コラ?祐巳ちゃんは私に見とれているの?それとも着物?」

「え?あの、そ、その〜、
白薔薇さまにです」

本当は着物に見とれていましたなんて、口が裂けてもいえない。
多分、それを察しながら、あえて聞いてくる聖さまを意地が悪いと思いながらも、
何とか、ごまかした祐巳。もっとも、顔は焦り顔だし、声は裏返っているし、
本当は祐巳が自分ではなくて、着物に見とれていたことなど聖さまはお見通し。

「声が小さいな〜」

目を閉じて、すまし顔になると、大きな声でもう一度祐巳に言い直しを求めた。
そんな聖さまに、成人式を迎えたのだから、その相変わらずの人の悪い性格を
少しは変えてもらいたいと思いつつも、今日は素直に祝われるべき人の言葉に従おうと思った祐巳。

「白薔薇さまにです!!」

握りこぶしをしてまで、思いっきり大きな声で答える祐巳。
それを見て、腕組をすると、首を縦にふっている聖さま。

「うん、よしよし。でも、私はもう白薔薇さまじゃないから、その所、よろしくね」

そう言うと、今度はいいこいいこをする聖さま。
まったく、人を呼び出して何をしたいのかと思ったら、
晴れ着を見せたかっただけなんて。会えて嬉しいけど・・・。




「・・・何てことがあったね、2年前」

「そうでしたね」

聖と祐巳はリビングのソファーに座り、ブルマンの香を楽しんでいる。
目の前には、写真館で撮影されたお見合い写真に使われそうなのが2点と、
アルバムが2冊、広げられている。それらは全て、2年前の聖さまの成人式と、
つい先日終えた祐巳の成人式の写真である。

「いきなり前日の夜に電話をかけてくるんですから。とても驚いたんですよ」

「そりゃ、そうだろうね。こっちもそのつもりでかけたんだし」

そう、2年前の事だ。偶然で成人式の日に聖さまと祐巳が会えるはずもなく、
前日の夜、「学校が終わったら来て」と聖さまから祐巳への電話があった。

「でも、わざわぜ式が終わってから私に見せたかったなんて、つらくなかったですか?」

「着物姿でいることが?」

「そうです。私、この前着て、本当に酸欠で倒れるかと思いましたよ」

普段着慣れないから仕方ないとはいえ、なぜあれほどまでにきつく帯を締めるのか、
着付けしてくれた美容院のお姉さんを恨めしく思った祐巳。
あまりの苦しさに、式の最中、何度帯の辺りを叩いたことか・・・。

「それは仕方ないでしょう。きつく締めないと祐巳の場合はいけなかったしね」

「それはどういう意味ですか?」

少し頬を膨らませている祐巳の顔を見て、
動揺など見せることなく、普通に笑顔で答えを返す聖さま。

「言葉通りの意味だけど?」

「・・・それより、この前の写真、よく取れていますよほら」

身体を見詰められて何も言い返せない祐巳は、話題を変えることにした。
今日、ついさっき写真屋から現像してきたばかりのものを指差した。

「ふむ、確かにこれは良いね」

アルバムを手にすると、それをマジマジと穴があくのではないかと思うほど見詰める聖さま。
それを隣で覗き込むような形で見る祐巳。

そこには私服で成人式の会場に祐巳を見にきていた聖さまが、
着物を着ている祐巳と二人で、多くの新成人をバックに、
腕を組んで写っていた。


あとがき

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