放課後、私はいつものように奈津実と一緒に帰っていた。
奈津実と私は、いわゆる幼馴染の仲だ。
家が、道を挟んで斜向いなので、小学校の時から、
クラスこそ全て一緒ではないが、同じ学校だった。
自分に不必要にまとわりつく奈津実を邪険にはしていたが、
嫌いではない。自分にはない明るさを持っている彼女を、
親友としてこの10何年間、付き合ってきたことからもわかるだろう。
大学も、同じ所につい先日、合格が決まり、
この後の4年間、また今と同じ付き合いが続くと互いに喜びあった。
そう、これからも彼女との「親友」という関係が変わることはないと思っていた。
学校が終わったあと、私は奈津実といつもと同じように、
バスに乗り、自宅へと向かっていた。
いつもいつもではないが、互いの家にそのまま寄ることがある。
今日も、母親が用事で夜まで帰ってこないと奈津実に伝えたら、
「話があるんだけどいい?」と、家にくることになった。
私の部屋で、いつものように私は机の椅子の背もたれを前に座り、
奈津実は、ベッドの上で、私の枕を抱きかかえて壁にもたれかけている。
お茶でも入れようかといったら、「それより聞いてもらいたいことがある」だって。
なんだろう?
「どうしよう、私、恋しちゃったみたい」
「また、いつものことながらいきなりだね」
「よくドラマであるじゃない『胸がドキドキする』とか、『締め付けられる思い』とかって」
「しているわけだ」
「うん」
「ふ〜ん、そっ。よかったね」
「ち、ちよっと、それだけなの?」
奈津実の恋の病はいつものことだ。
それにいちいち付き合っていたら、こっちの神経がもたない。
「だって、私には関係ないもの。恋愛は自由だよ。別に止めはしないよ」
「ほんと?」
「もちろん」
奈津実が誰を好きになろうと、私には関係ない。
まったく、なんでまた、こういちいち報告したがるのやら…。
「よかった!!」
「よかった?」
「そう、よかった。だって、私が好きなのは、あ・な・た・よ♪」
「ほえ?」
「止めないんだよね!」
「ま、待った!それは話が違う!私が止めないのは奈津実の恋愛そのもので、
その、私を好きになったなんて…冗談きついよ」
なんでまたいきなり私のことを好きだなんていいだすのか。
悪びれる素振りを微塵にも見せず、相変わらず枕を抱っこしながら、
ニコニコしている奈津実。
まったく、なにを考えているのやら…。
「冗談だったら良かった?」
「もちろん。準備ができてない…あっ!」
しまった、つい口を滑らせてしまった。
奈津実は私の表情を見て楽しんでいるようだ。
普段、狼狽することがない私を見て喜ぶなんて、
性格悪いぞ、奈津実。
「奈津実、私が好きって、マジ?」
「マジ。それも、大真面目だよ」
「…」
「真央も私のこと好きだよね〜!」
「なに自分に都合のいいように考えているの!!」
「違うの?」
「…」
まさか、気付いていたとは思えないけど、
この奈津実の口ぶり。私の気持ち、気付いてた?
「ねえ、『準備』ってなんのこと?真央、もしかして私に…」
私は奈津実に全てを言わせなかった。
顔を真っ赤にし、照れ隠しもあって、大声で叫んでいた。
「ああ、そうだよ、好きだよ。ずっと前から奈津実のこと。悪い?」
「嬉しい!」
そういって、ベッドから飛び降りると、私に抱きついてくる奈津実。
かすかに甘い香りが私の鼻腔をくすぐる。
「ちょっとタンマ!」
「な〜に?」
「だから準備が…」
「なんの準備?」
「心の準備。…私から奈津実に告白をする」
「今していいよ」
また、あっさりといってくれるよ。
こっちはずーっと前から奈津実のことが好きだったのに、
先々のことを考えて、ずっとできないでいたというのに…。
「いつものクールな真央らしくないよ」
「…」
「なーんてね。本当の真央を知っているのって、きっと私だけだよね、ねっ?」
たしかに、私は普段、無表情だ。それがなぜか頼りがいがある、
落ち着いた人物に見えるらしく、学級委員を何度もやらされた。
でも、本当は、無表情を装っているだけなのだ。
そのクールな仮面の下を知っているのも、
仮面を外した私全てを知っているのも、
きっと奈津実だけだ。奈津実以外の誰にも見せられない。
「そうだね、私も誰よりも奈津実のことを知ってる。
無邪気で、明るくて、何時も何かに熱中しているあんたが好き」
「私も、いつも冷たくてそっけない素振りばかり見せているけど、
本当は正反対な真央のことが大好きだよ」
私は照れて顔を俯かせながら。
奈津実はいつもと変わらぬ明るい表情を見せながらの告白。
いつもの私たちを知っている級友が見たら、
「いつもの二人と違うじゃない!!」と、目を白黒させただろう。
でも、こっちが本来の私たちの姿。
「ねぇ、他の人のことが好きだったんじゃない?」
奈津実は、今まで何度も私に恋の相談をしてきた。
私が以前、付き合っていた市ノ瀬先輩のことも好きだといっていた。
結局、「高嶺の花みたい…」といって、あきらめていたが。
「真央に焼きもちを焼かせたくて…」
「市ノ瀬先輩のことも?」
「そうよ。真央と先輩が付き合っていたの知ってたもん」
「じゃあ、なんで先輩のことが好きなんて…そっか、私のことを試したのか」
「ごめんね」
私は首を横に振って気にしないでとの意思表示。
おそらく、私が奈津実のことをずっと前から好きだったのと同じように、
奈津実も私のことが好きだったのだ。
それで、おそらく市ノ瀬先輩と付き合ってると気が付いたとき、
私が先輩のことをどう思っているのか試した。
奈津実が私の肩に頭を乗せてきた。
頭に血が上ってくる。くらくらする感じだ。
普段はそう意識していないが、今のこの状況が、
私の感覚を鋭敏にさせているようだ。
奈津実のちょっとした動作でも、体が反応してしまいそう。
「真央、市ノ瀬先輩とどんなことした?」
「…言えない」
「言えないようなことをしていたんだ」
言えない。それこそ見つかったら退学になるようなことを、
頻繁に誰もいない生徒会室で行っていた。
今、思い出すだけでも、体が熱くなるくらいのことをして、
私たちは互いの官能を呼び起こしていたのだ。
「ねっ、私にしてよ、同じこと」
「奈津実…」
「ねっ、言えないなら、私にしてよ!」
変わらぬ明るい笑顔を向ける奈津実をみて、
市ノ瀬先輩との関係に罪悪感を感じていた。
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